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時刻表に乗る~大阪ー名古屋遠回りの旅~vol.4


4.熊野三社へのみち

 自然の地形に沿って建設された路線は線形は悪いが、273系特急列車はそのようなことをものともせず、快調にスピードを上げて走る。
 椿を通過するとしばらく山間部を走る。再び海が見えてくると周参見(すさみ)だ。

10時33分、周参見に到着し、すぐに発車する。

 周参見は太平洋の荒れすさぶ海が地名の由来だそうで、 「すさぶうみ」が「すさみ」になったという。確かに、この辺りの海は内海ではなく太平洋そのものなので、天候が悪くなったら大荒れしそうな雰囲気はある。
 
 周参見の次の見老津(みろづ)からはしばらく海岸線に沿って列車は走る。

海岸線沿いを30分程走ると、11時6分、串本に到着した。

 串本駅は本州最南端の駅であり、「橋杭岩」や「串本海中公園」「潮岬」といった名高い観光地への玄関口となっている。
 ここから紀勢本線は、北東方向へ進路を変え、終点新宮へ向けてひた走ることになる。
 ここで残っていた乗客の半数ほどが下車していった。

 串本からは、山間部に入ったり、海岸線に出たりを繰り返すようになる。

 海岸線に見える、平らな岩礁は、完新世(11,700年前から現在までで氷河期が終わり温暖化した時代)に地殻変動で離水した砂岩や泥岩からできているそうである。

「捕鯨」で話題になった太地町の中心駅、太地を過ぎる。

11時40分、紀伊勝浦に到着する。

 紀伊勝浦は、熊野三社のひとつ、熊野那智大社の玄関口である。

熊野那智大社

 紀伊半島の南部は、神々の霊が隠れ籠る独自の聖域をなし、古来「熊野」と総称されてきた。
 ここに古代以来、祀られてきたのが、本宮、新宮、那智の熊野三社である。本宮は熊野川の中洲にあって、川を神格化したものとされ(現在位置への遷座については後述)、主神は家津御子大神(けつみこおおかみ)。新宮は熊野川の河口近くにあり、水玉の勢いを示すという熊野速玉大神(くまのはやたまおおかみ)が主神。那智は大滝の聖水のもつ生産力への信仰が根源とされ、熊野夫須美(産霊)大神(くまのふすみおおかみ)を主神に祀っている。

那智の大滝

 平安後期には神仏習合によって、三社の神々にも本地仏(ほんじぶつ)があてられ、仏が権(かり)に現れたものとして、熊野三所(十二所)権現と呼ばれた。三社ともにお互いに三所(十二所)権現を祀りあい、熊野三山として、現世と来世での救いを願う朝野の人々の崇敬を集め、文字どおり「日本第一大霊験所」を唱え発展してきた。

 那智山青岸渡寺も裸形聖人(らぎょうしょうにん)が那智大滝で感得した如意輪観音(にょいりんかんのん)を祀った如意輪堂が初拝。12世紀中頃には西国三十三観音霊場の第一番札所に位置している。

 熊野三山の信仰は、100度に及ぶ上皇の熊野御幸として花開き、鎌倉時代以降は庶民にも広まり「蟻の熊野詣」とまで形容された。

 それほど篤い信仰を受けてきた熊野という土地は、何か、日本のほかの場所とは異なる風景が広がって見えるようであり、古代以来の悠久の時の流れを感じずにはいられない場所であるように感じる。

定刻11時40分、紀伊勝浦を出発する。
2駅先の那智で、下り特急くろしお22号が運転停車し、こちらの通過街をしている(①)
その次の宇久井で、下り特急南1号も運転停車し、こちらの通過待ち(②)
10分程走り終点新宮の1駅手前の三輪崎でこちらが運転停車し、普通列車とすれ違う(③)
立て続けに3列車とすれ違い定刻11時59分、終点新宮に到着した。

 大阪から4時間20分、ようやく終点新宮に到着した。

 新宮は、熊野速玉大社、熊野本宮大社への玄関口である。
 また市内には、神倉(かんのくら)神社がある。

新宮市拡大図

 神倉神社は、熊野大神が熊野三山として祀られる以前に一番最初に降臨された聖地で、天ノ磐盾という峻崖の上にあり、熊野古道中の古道といわれる五百数十段の仰ぎ見るような自然石の石段を登りつめた所に御神体のゴトビキ岩がある。

神倉神社

 熊野速玉大社は、まだ社殿がない原始信仰、自然信仰時代の神倉山から、初めて真新しい社殿を麓に建てて神々を祀ったことから、この神倉神社に対して「新宮社」と呼ばれている。

 また、熊野本宮大社は先述のとおり、かつて、熊野川・音無川・岩田川の合流点にある「大斎原(おおゆのはら)」と呼ばれる中洲にあった。
 当時、約1万1千坪の境内に五棟十二社の社殿、楼門、神楽殿や能舞台など、現在の数倍の規模だったそうである。

 江戸時代まで中洲への橋がかけられる事はなく、参拝に訪れた人々は歩いて川を渡り、着物の裾を濡らしてから詣でるのがしきたりであった。
 音無川の冷たい水で最後の水垢離を行って身を清め、神域に訪れたのである。

 ところが明治22年(1889年)の8月に起こった大水害が本宮大社の社殿を呑み込み、社殿の多くが流出したため、水害を免れた4社を現在の熊野本宮大社がある場所に遷座した。
 これが現在の熊野本宮大社となっている。

大斎原

 熊野三社をのんびりと散策したいところであるが、私は、次の列車に乗車しなければならない。時刻表が続く限り、時刻表に乗る旅は続くのである。
 次の名古屋行特急南紀6号の新宮発車時刻は12時45分である。
 駅のそばで昼食をとることにした。

次回につづく


〔表記の仕方について〕
※時刻表や地図帳に基づく事実については、グレーの引用四角で囲って表記した。
※それ以外の内容については、原則的にフィクションであるが、街の紹介や、参考文献に基づく歴史の紹介は事実に基づくものである。


〔参考文献〕
・JR時刻表2024 7月号 (株)交通新聞社
・全国鉄道地図帳 昭文社
・熊野三山協議会ホームページ http://www.kumano-sanzan.jp/


【今回のマップ】

[使用マップ]国土交通省地図GSI Maps

【今回のダイヤ】
 那智駅での下り特急くろしお22号を運転停車させての単線行き違い(①)。宇久井駅での下り特急南紀1号を運転停車させての単線行き違い(②)。三輪崎駅でこちらの列車が運転停車しての普通列車との単線行き違い(③)。が今回のダイヤの見所です。

ダイヤグラム

【ここまでの旅路】


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