すごくばかなはなし『噓八百』

あるところに、嘘つきな男ととても正直な男がいました。正直な男はなんでも信じやすく、騙されやすい男でもありました。それを知った嘘つきな男は彼に語りました。


「『噓八百』という言葉を知っているかい。君は大変正直者である上になんでも信じ込んでしまうようだから、これには気を付けなければいけないよ」

「どうしてですか?『噓八百』の意味は知っていますが、嘘ばかりであることを表す言葉ですよね?一体何に気を付けなければいけないのでしょうか」

「それがすでに間違っている。『噓八百』とは、とある伝説に由来する言葉だ。その伝説というのはな、嘘つきがもし八百通りの嘘によって八百人の正直者たちを一人ひとり騙すことができれば、八百の嘘は正直者たちによって真実として語られ、八百の嘘で騙し尽くした者はやがて真実の語り部となり、永遠に人々からの信用を得る者になってしまうという恐ろしい伝説だ。
もし『噓八百』を完遂した者が現れた日にはこの世の真実などもはや意味を失ってしまうのだ」

「それは大変だ……。では、僕は『噓八百』に立ち向かうにはどうすればよいのでしょうか」

「なに、それはもう心配する必要などないよ。私からこの話を聞いたのだから、君がもう安易に人の話を信用することなどあるまい。そんなことをしたら君は、『噓八百』の男に知らず知らずのうちに加担してしまうかもしれないと、もう知っているのだからな」

「確かに!そうですね。教えてくださってありがとうございました。僕の友人にも、『噓八百』に加担してしまわないようにこの話を教えてあげることにします」

「うむ、それがよいだろう」


こうして、嘘つきの男はまんまと正直者の男を騙すことができました。嘘つきの男は大変嬉しくなって、次の標的を探し始めました。

「ようし、あと七百九十九人で俺は真実の語り部になれるんだ!」



おわり

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