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音楽とボランティアについて~ワールドシップの音楽を止めないために

『音楽』『ボランティア』『東南アジア』 ここ数年の私の夏休みを表す3つの単語です。
社会人になってから夏休みは毎年、ワールドシップオーケストラ(以下WSO)で、東南アジアにフルオーケストラの音楽を届けるボランティアに参加していました。今年、初めて東南アジアに行かない夏がやってきました。
 
WSOは、昨夏フィリピンのスラム街で演奏活動を続ける子供たち(トンドチェンバーオーケストラ、以下TCO)ためのクラウドファンディングを実施し、多くの支援金をいただきました。本当にありがとうございました。(その話も以下で書きます。)
そんなWSOですが、新型コロナの影響をもろに受け、団体の存続のために再びクラウドファンディングを行っています。
https://readyfor.jp/projects/worldship-orchestra-2020?fbclid=IwAR2PRijytJ1JDI2uBBcHDVBpgscOM2qwMAY02DibFjOvASYqQxMywU5KEVM

その支援のお願いを兼ねて、昨夏わたしがフィリピンへ行って感じたこと考えたことをまとめました。

もちろん長文ですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

・2019夏フィリピンに参加するまで
・コントラバス奏者の青年ディーンのこと
◎ボランティアとして支援をするということ
◎印象的だった2つの言葉
・TCOのこと
◎WSOのこれからについて
(◎の章だけでも読んでいただけるとありがたいです。

・2019夏フィリピンに参加するまで
今回、2016夏タイ、2017夏インドネシア、2018夏フィリピンに引き続き4回目のWSO参加となりました。ワールドシップ参加4年目にして“レジェンド”になりました。
今回もまた参加することにした転機は、やはり2018夏フィリピンにありました。
フィリピンの子供達の割れんばかりの笑い声。アジア最大のスラム街トンドで見た景色・匂い・人々の生活。そしてそこで演奏家になる夢を見て日々楽器を貪るように弾くトンドチェンバーオーケストラ(TCO)の子供たち。その全てが私をまたフィリピンに向かわせていました。
そのへんのことは以前めちゃくちゃたっぷり投稿しているのでぜひご覧ください。↓

https://note.com/mtkyss/n/n26a68e8a964c


今回、プロジェクトに参加する前に コントラバス工房 さんと 弓工房 さんに、コントラバス用品の寄贈のお願いをしていました。誠にありがとうございました。
コントラバス工房さんでは、WSOの活動についてご説明したところ、なんと駒やテールピース、エンドピンなど紙袋いっぱいに寄贈していただきました。ご自身も海外の楽器の修復や調整を多数を行ってきたとのことで、非常に興味深く聞いていただきました。本当にありがとうございます。(代わりに、私の楽器の調整もお願いしてきたので、ちゃんとお金も落とさせていただきましたm(__)m)
弓工房さんでは、もともと毛替えに行ったのですが、その際急なお願いにも関わらず、古い弦を2セットご用意していただきました。たまたま工房に居合わせたプロ奏者の方まで一緒に弦の仕分けをしていただいてしまい恐縮しきりでした。
自分の張り替えた弦と合わせて、中古弦3セット・駒8個・テールピース3個・エンドピン4本を持ってフィリピンに行くことができました。

・コントラバス奏者の青年ディーンのこと
2018年の夏、TCOで出会ったディーン君。この1年間、彼がコントラバスを続けられているのか、不安で不安で仕方ありませんでした。2019年春のプロジェクトに参加したメンバーからその時点で彼がいたことは聞いていたものの、そこから現在までどうなっているかわかりません。トンドの生活は厳しく、無償の音楽教室ですら、家庭の都合で辞めざるを得ない子供たちも多いのです。
そんな彼との再会を楽しみにする一方、不安過ぎていたたまれなくなった私は、彼には彼の生活があるため今まで避けていたメッセンジャ-を出国の2日前に送ってしまいました。
『まだ弾いてるよ!!!!』と言ってくれた彼。正直メッセンジャーを送った新宿のドンキホーテの中で泣き出しそうなくらい嬉しかったです。この夏のプロジェクトに行くからね!というと『楽しみにしてるね』と。
そして迎えたフィリピンプロジェクト。TCOとの練習の日、わたしの顔を見るなり近寄ってきてくれたディーン。1年ぶりなのに覚えていてくれたのが嬉しくて嬉しくて。また会えたことが本当に幸せでした。
さらに、嬉しい報告が。今年から大学で音楽教育を受けていて、コントラバスを先生に習い始めたと言うのです。ハ音記号で書かれたコントラバスソナタまで練習しているではありませんか。
たった1年半前にコントラバスを始めた彼が、毎日毎日練習をして、音大に行けるレベルになっている。こんな嬉しいことがあるでしょうか。(もちろん日本の音大のレベルとは少し違いますが)
ですが、やはり彼の練習している環境は決していいものとは言えません。ものすごく弦高が高くハイポジションを練習するには全く適していません。(気温湿度の高い東南アジアでは駒や根柱が膨張するため弦高が高くなりやすいそうです) 無理にハイポジを練習した結果、正しいフォームで押さえられなくなっていました。
エンドピンも錆びていて伸縮させられず、ピン部分も完全に削れていて滑ってしまう。楽器ケースのチャックも壊れていてクリップで留めている始末…
1年前はあまりじっくり楽器を見てあげることができていませんでしたが、改めて見るとすごい状態。一緒に弦替えの練習をしたり、駒やエンドピンを渡して交換方法を教えてあげました。たくさんの楽器のパーツを渡してあげたときの驚いた顔、「Free?」と聞いてきた顔。そのすべてが忘れられません。(工房でDeanの話をしたら、共感してくれて譲ってもらったんだよ、と教えてあげました)
現地でのWSOの最終公演には、Dean君はコントラバスの演奏仲間と一緒に聴きに来てくれました。1年前、たった一人でコントラバスという楽器を弾いていた彼が、音楽を学び、ともにコントラバスを演奏する仲間を手に入れた。こんなに嬉しいことがあるでしょうか。(2回目)


◎ボランティアとして支援をするということ
前回の長文投稿で、
  ボランティアはおすそ分け
  「よかったらどうぞ」の精神
だと私は書きました。
今回フィリピンに行く前に、コントラバス工房で興味深いお話を伺っていました。
その工房では様々な支援活動を行っており、震災で被災した楽器の無償修理や、海外オケの来日公演時に楽器の点検・修理や部品の提供なども積極的に行っているそうです。様々な支援を続けていく中で、ある団体(おそらく国外だったかと)から「楽器を無償で貰えないか?」という依頼があったそうです。もちろんお断りしたそうですが、厚意で行ってきた技術的・物質的な支援を越えたお願いに困惑したそうです。
良かれと思った無償の支援が、受け取る側にとって、“有難いこと”から“当たり前のこと”になってしまう。そういう怖さを私は感じました。(言った方は、言ってみただけかもしれないですが)

フィリピンに行って、久しぶりのDean君との再会を喜び、わたしたちは彼にたくさんのプレゼントをしました。私が持ってきた大量の部品・新品のチューナーや松脂、WSOのクラウドファンディング資金で買った弓や弓ケース。
全てを受けとって「本当にありがとう」と嬉しそうな彼の姿をみて私はとても幸せでした。
そんな彼は私にお願いをしてきました。
「今度は(コントラバス用の)イスが欲しいな。弓ホルダーも。」
これか、と。
「買ってあげたいのはやまやまだけど、それはちょっと高いから今はできない」と伝えることが精いっぱいでした。
私はDean君が大好きですし、一生懸命練習する彼の姿を知っているから、彼の練習環境がもっともっとよくなることを望んでいます。
だけど、私たちが彼に行っている支援は決して“当たり前のこと”ではないのです。
彼もきっとそれは承知しているはずですが、勢いで言ってしまったんだと思います。彼を批判したり悪者にしたいわけではありません。
もし、彼が大人になった時、自分はなんでも買ってもらえる選ばれし人間なんだ、と思ってしまったらどうだろう。
TCOの教育理念の中には、音楽的な知識・技術を授けること以外に人間性の形成も含まれています。
その理念にのっとり、一時的に支援の手を差し伸べる私たちも彼らの責任を負わなくてはならないと私は思います。
もちろんボランティアである以上、必ず感謝しろとも思わないし、何の見返りも求めていません。彼が続けたいと思った音楽を続けてくれることが私の本望なのです。そしていつか彼も、音楽家なのか別の道なのか、自分の足で立つ日が来るでしょう。
だけど、その道のりの途中で、こうして支援の手が差し伸べられた理由を理解していてほしいのです。
少なくとも私は、私が大好きな音楽やコントラバスに対して興味を持ってくれて、それに対して一生懸命真摯に向き合う彼の姿に心打たれたからこそその夢を支援したいと思いました。それはただ彼が恵まれない存在だったからだけでなく、彼自身に魅力があったからなのです。その魅力を持ったまま、私は彼に大人になってほしいと思います。
全てのボランティア活動で、すべての対象者について、こういったことを伝えること・求めることは正直不可能だと思います。
WSOの活動でも学校演奏会のような多数を対象とした内容のものでは難しいでしょう。ですが、TCOを対象にした“顔が見える”ボランティアに関しては、こういった姿勢は大切なのではないかと私は考えます。
  「支援する人に対して、責任を持つこと」
ただ単に支援をするのではなく、支援したあとどうなるのか/どうなってほしいのかを考えること。
これが、今回私が感じたことです。
(Dean、もしこの文を翻訳して読んでいたら、ごめんね!)


◎印象的だった2つの言葉

「上手くなれるかどうかよりも大切なのは、続けたい人が続けられることだよね」

日本に帰ってきて、コントラバス工房さんに調整済みの自分の楽器を取りに伺いました。
活動の報告として現地あったことやDean君の話をしました。その中で、トンド地区の区画整理によってTCOが存続の危機にありなんとかWSOで支援できないかと考えているという話もしました。
その時、工房の方がおっしゃったのが、「続けられることが大切」ということでした。
結果も何もかも、活動が続いていないと出すことができません。
前の長文投稿でも再三お伝えしましたが、こうした音楽活動は活動が花開くまで長い時間が必要です。
TCOは、何人か音大に行くことができ、実際に音楽家として活躍する未来が実現しそうになってきたところです。
ですが今はまだ、彼らが自分たちの力で活動を回していくことが難しい状態です。
だからこそ、“続ける”ためにいまわたしたちからの支援が必要なのです。

「僕の目標は、この団体がなくなることです。」

2019夏フィリピン最後の打ち上げでのWSO理事長の言葉。
世界中で音楽教育が普通に受けられるようになって、生のオーケストラが自由に聴ける。そんな世の中になって、この団体が必要なくなることが僕の目標だ、と。
それこそが“続ける”の最終形態なんだな、と感じました。
続いていく、の先の、根ざす、まで。
誰かが蒔いた種に誰かが水をやり誰かが手入れをし誰かが花開かせれるように。
わたしたちは種を蒔き続けなければいけないと思うのです。

・TCOのいま
とは言え、TCOは常に存続の危機にありました。音楽教育が一般的に広く普及しているわけではないフィリピンのスラム街での活動が容易であるわけがありません。
さらに、2019夏のプロジェクトの時点で、トンド地区はいま政府の再開発の真っ只中にあり、もともとそこに住んでいた人たちは遠くの集合住宅へ引っ越しを余儀なくされていました。引っ越しをしてしまうと、いま20人ほどのメンバーで練習をしている場所へは片道2時間以上かかり、裕福ではない彼らが活動に参加することは極めて困難になってしまいます。
メンバーの家族ごとトンドで暮らせるようにして活動を存続させられないか、と真剣に考えることもありました。果たしてそんなことができるのでしょうか。
昨夏のクラウドファンディングで楽器用品を修理・新調して、あんなに喜んでいたあの子供たちの笑顔を思い出すと、私たちだけでは救いきれないことが悔しくて悔しくて仕方がないのです。
けれど、その中でも、TCOの年長メンバーはDeanをはじめ数人が音大に通い始めています。彼らの夢に向かって一歩踏み出せたところなのです。

◎WSOのこれからについて
この春、WSOがずっと支援し続けていたフィリピンに行くことができませんでした。海外でも新型コロナウイルスが流行し始め、3月上旬の予定だったプロジェクトを中止することになりました。このプロジェクトは、もしかしたらTCOの子供たちと一緒に演奏できる最後のチャンスだったかもしれません。
コロナ禍で音楽業界は大打撃を受けました。アマチュアオーケストラ・吹奏楽界隈も、練習や本番の中止が相次ぎました(私も本番が大小あわせ4つなくなりました)。これから音楽活動を再開するのも依然ハードルは高いままです。フルオーケストラで東南アジア(それも衛生状態の悪い環境)へ行って演奏するなんて日がいつ戻ってくるのか、私にはわかりません。

今、ワールドシップオーケストラが紡いできた音楽は、消えかかっています。

中止した春のプロジェクトのキャンセル料の支払い、活動しようにも活動できない状況で収入も途絶え、NPO法人としての存続が危ぶまれています。

コロナ禍において、『音楽』の意味やあり方を、多くの人が考えたのではないでしょうか。
やっぱり私は、音楽の力を信じたい。音楽に救われてきたし、演奏をしていたからこそ出会えた人がたくさんいる。WSOが今まで奏でてきた音楽を聴いて、楽しいと思ってくれた人が一人でもいるのなら、すこしでも人生が変わった人がいるのなら、この音楽を鳴らし続けたいのです。それは聴く人だけでなく参加する人も同じ。今までの参加者が紡いだ音楽を、これからの参加者が受け取って、少しでもその人の人生が変わるなら、この音楽を続けていきたいのです。
一度止まった音楽を取り戻すのは容易ではないことを、カンボジアでも演奏をしてきたWSOは知っています。
WSOが紡いできた音楽を、どうしても私たちは止めたくないのです。

正直、私には、海外に行けない・演奏活動もままならない今、WSOに何ができるのか、何をすればいいのか、最適解はわかりません。だけど、いつかまたあの暑いステージで熱い演奏が現地の人たちの熱狂を呼ぶ日が来たとき、どうしてもそこで音楽を奏でたいのです。それまでは、音楽を止めないために足掻いていたい、消えるわけにはいかないのです。

どうかお願いです。もう少しだけ、私たちに足掻く余地を与えてもらえないでしょうか。支援のリターンとして、まずは日本国内での私たちの演奏を聴いていただけないでしょうか。そして、いつか現地に行けるとき、あなたの思いも音楽にのせて届けさせてもらえないでしょうか。学生参加者の多いこの団体で、団体内だけの支援で存続させるのは厳しく、もしあなたがこの活動に興味、ご理解をいただけるのであれば、ページだけでも見てもらえないでしょうか。
https://readyfor.jp/projects/worldship-orchestra-2020?fbclid=IwAR2PRijytJ1JDI2uBBcHDVBpgscOM2qwMAY02DibFjOvASYqQxMywU5KEVM
いつかまた、世界を響かせる航海(タビ)ができる日まで。


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