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採用面接 鴨葱(三)

女社長Aさんと社内翻訳家のK女史が見守る中、私は大きな画面のMacintoshに向かった。
「コーヒー、飲まれますか?」女社長Aさんが言った。
「えっ、うん。ああ、いつもの」
「ん?」
「キムチ入りで」
「(にたっ)」
受けたよ。
「Whiteで。お願いします。」
改めてオーダーした。
社長自らがコーヒーを入れてくれるとは、面食らった。
が、これも面接中の一コマ。油断はできない。自分のキャラを目いっぱい売り込むのだ。
 
Aさんがコーヒーを私のテーブルにおいてくれた時、私はvertical integrationのverticalという単語とにらめっこをしていた。当時、大学院で経営学を勉強していたが、当時の私は、vertical integrationが何を意味するのか知らなかった。そして、トライアル文書の文脈からもそれを読み取ることはできなかった。まあ、語彙を試されたということか。。。
 
A4で2ページ程度のトライアル英文を和訳し終えたのは、もう夕方になっていた。およそ2時間の格闘であった。3杯目のコーヒーをねだった。
 
コーヒーカップを口に運びながら、私のトライアルをチェックするK女史の画面を覗き込む。キーボードに一切触れることなく、目だけを忙しく動かすK女史。振り向くと、「明日から来られる?」と一言。夏休み中で退屈しているんだから、今日からでも働きたい。喉から手が出ていたに違いない。
 
この後、小さな案件の英訳を任された。
「明日から来られる?」と言われたはずが、面接当日から残業である。
この時は、K女史が、この面接の前に既に私の書いた文書を読んでいたとは、気づく由もなかった。
 
「よしっ、これでピースがはまった!」
神はそう思ったに違いない。もっともそれは、せいぜい私の守護神程度かも知れない。
 
まだ、つづく「鴨」。。。
 


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