日本語組版について(の本の紹介)

「#タイポグラフィ」とタグが付されているInstagramの投稿は、レタリング表現のものであったりする。
「タイポグラフィ」が「文字表現全般」を指しているのであり、本来の「組版」の話ではなくなってしまっている。
この用法が割と一般的になってしまったので、「広義のタイポグラフィ(文字表現全般)」と「狭義の(本来の/組版としての)タイポグラフィ」を分けるべきだとする意見も見られるが、言語の自然発生的な運用からすると(?)、「本来の用途から外れている!」と大声をあげても届かない状況はよくあるので、ひとまず流れを見守りたい。

早速の余談だが、例えば「作字」という用語。
昔は「明朝体などでフォントセットに入っていない文字を、他の文字のパーツの組み合わせなどで作り足すこと」みたいな感じで使われていたはずだが、今は「造形的なレタリングによる文字表現」のような意味で使われることが多い。
前に使っていた意味で用いようとすると、受け手によって取られ方が違いそうだな、と注意しながら使うことになる。

用語が広義の意味に拡張していくと、日本語の「(本来の意味での)タイポグラフィ」が語られる機会が少なくなる。検索をかけても引っかかりにくくなったりするわけだし。

と、いうわけでたまに狭義のタイポグラフィ(を扱った本)の話をする。
先日(10/27)が「文字・活字文化の日」だったということで、Twitterで本の紹介をしたら、思ったよりも反応があったので、ついでにまとめておこう、というだけだが。


日本語組版入門: その構造とアルゴリズム

向井 裕一 (著) 誠文堂新光社、2018
日本語の「縦組み」「ベタ組み」をどのようなアルゴリズムで組んでいくか、という話。InDesignの設定で言うところの「文字組アキ量設定」などの部分に関わる。
なかなかとっつきにくい部分もあるが、基本的にはおぢんさんのプリセットを扱えば良いのではないかと思っている。
そこで慣れていって作業をしていく中で「なんでこんな挙動するのか」と思ったらこれを読む、と。


組む。 - InDesignでつくる、美しい文字組版

ミルキィ・イソベ、紺野慎一 (著) ビー・エヌ・エヌ新社、2010
デザイン書で10年以上前のものなので、設定など一部違う部分もなくはないが、InDesignの基本的な機能の考え方について扱っているので、未だに読む価値あり、と思う。
先日、知り合いから「InDesignでなんでここでこんな挙動するの?」と聞かれたので、「そこまでこだわって文字組みするなら『なにも足さない、なにも引かない』でやってみればいいじゃん」と伝えた。(本書p.142など参照)
万能な文字組は存在しないので、そのメディアやコンテンツに合わせてカスタマイズしなければならない。そのコントロールを機械的に処理できればそれに越したこともないが、力技でいっぺんやってみることで、わかることもあったり。
作業量とクオリティのバランスは図りたい。


テンとマルの話 —句読点の落とし物/日本語の落とし物

芝原宏治 (著) 松柏社、2013

括弧の意味論

木村 大治 (著) NTT出版、2015

組版の話だと、やはり約物は避けて通れない。
上記2冊はレイアウトの話ではないが、どのような使われ方をするのか、という数多い見本を提示している。
句読点などは、出版社や学会によっても扱いが異なる。
著者がどういう意図でそれを使うのか、掬いたいとは思いつつ、どれだけ掬えているのか。

句読点、記号・符号活用辞典

小学館辞典編集部 (編集) 小学館、2007
用例などは、こちらなども豊富で良い。


近代文体発生の史的研究

山本正秀 (著) 岩波書店、1965・2021
現代で用いられているような句読点については、特に明治20年頃に洋学を学んだ作家によって整えられた。130年くらいだと考えると、思っているより長くはない。
また、行頭の1字下げ(インデント)も、欧文組版の由来がある。(以下に挙げる「組版原論」でも記述がある。)

(古書の方が入手しやすいか?)


組版原論―タイポグラフィと活字・写植・DTP

府川 充男 (著) 太田出版、1996
前段から引き続いてインデントの話。
「行の始めは1文字分あける」というルールは、小学校の作文で原稿用紙を使って習ったりする。もちろん「段落を明示する」という意図で教えられるが、「なぜそうなったのか」を解説しているものは多くない。
「段落を明示する」のであれば、ハンギングインデントでも良いし、段落間1行アキでもドロップキャップでも良いはず。
この本では「字下げなし」で、部分的に「◉(蛇の目)」が段落行頭についている。
「写植およびQuarkXPressにおける組版演算の基礎」などは単純に「古い話だなあ」と思わずに読んでみると良い。
結局は「組版」は「技術」の話だし、新しい技術というのはだいたいは古い技術の模倣から入る。
初期の(欧文)活字は「いかに手書きに(写本のように)見えるか」と考えられていたし、InDesignも「いかに写植のように組めるか」というように作られている部分がある。(「Q」の単位も写植由来のハズ。)
前の時代にどんな技術によって組版がなされて、どのような部分を「再現」しなければならないのか、考えてみたい。


長くなって来たので、このへんで終わる。
(「組版の話をしている文章なのにあそこのカギ括弧は半角で良いのか」というような意見は受け付けていない。)

*上記のように、句読点を括弧の中に入れるのが良いのか、出したほうが良いのかは諸説ある。文脈に応じて考えたい。

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