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タンクレストイレ全盛の今、タンクありトイレも一考の価値あり(特許編)

前回、買ってよかったもの紹介でトイレを取り上げましたが、今回はその特許編です。

さて、こんな素敵なトイレ、特許はどうなっているのだろう?
LIXILとTOTOでほぼ同じ製品を売っていることも気になりました。

一番最初の発想

どうも初めは、トイレのタンクの左右にすき間があるので、そこを棚にしたらいいのではないかというアイディアでした。
西浦製陶株式会社として設立され、現在はジャニス工業というトイレメーカーが1980年11月17日に実用新案として出願(実開昭57-86000)していました。

実開昭57-86000の図1

図1を見ると一目瞭然です。タンクの真上に手洗いがある一般的なトイレのタンク全体を覆うようにキャビネットを取付け、左右の空いたスペースを棚にするという、どちらかというと棚を提供するということに主眼がおかれたアイディアです。

明細書を読んでい面白かったのは、トイレがタイル張りでキャビネットの取付けが大変という内容の記述。個人宅ではタイル張りのトイレは絶滅寸前。時代を感じる発明の着眼点です。

実開昭57-86000の明細書の一部

よく図1を見ると、「イ」の手洗いシンクはタンクの蓋にはなっていません。この辺は現在の製品と全く同じ発想だなぁと思います。
残念なことに、ジャニス工業の出願の実用新案請求の範囲には、手洗いシンクのことが明確に記載されていないので権利を取れていない感じです。

次の進化

この発明の次くらいになるのが、TOTOの発明で1987年7月6日に実用新案で出願された実開昭64-10580となります。
着想点はジャニス工業と同じで棚ですが、トイレの幅は家ごとに違うので、幅を調整できるようにしてトイレの幅いっぱいに設置しようというアイディアです。図11を見ると左右の棚の上部に長穴(3と4)が設けられていることからも幅を調整するための発明ということが、よくわかります。

実開昭64-10580の図11

この時もまだ棚なので、明細書の記載にはタンクを隠すための意匠性を前面に出している感じはありません。
ただ、この時のTOTOの出願には手洗いシンクについても色々と言及されているので、現在の製品とほぼ同じ構成といっていいと思います。

この時の名残りなのか、TOTOのレストパルは手洗い場を中央にレイアウトするのが基本です。左右に手洗い場を持ってくるにはレストパルFという便座自体が違う全然別のモデルになります。

他方、LIXILのリフォレは左右のどちらかにレイアウトする設定になっています。

今となっては、これらの実用新案は権利が切れているため、レイアウト位置に制約はないはずです。
この後に、他の会社から関連する発明が出されて、その時の権利関係と商品化のタイミングで手洗いを置く位置が決まってしまったのかもしれませんし、まだ権利が生きている関連特許があるのかもしれません。

40年以上たった現在

現在はさらに進化して、L字型のレイアウトになっています。L字型とは便器の左右方向のどちらか一面(多くの場合、トイレットペーパーが備え付けられている場所)にカウンターを設けたような構成です。
近年は特許もL字型のものだけしか見受けられません。

L字型のタイプ(TOTOのHPより)

L字型も格好いいですが、お高いのがたまにキズ。設置費用が大幅に下がるような発明が生まれてくれることを望みます。

L字型タイプは入口付近までカウンターのような棚がありますが、折衷案でちょっとだけL字型ってどうでしょう。
今回私が選んだI型だと手洗い場が完全に便座の向こう側になります。子供などは少し遠いと感じます。便座の1/3から1/2くらいまでせり出すようにちょっとだけL字にするくらいなら、手は洗いやすくて、構成もI型とほぼ同じで済ませられそうです。どうでしょう?INAXさん、TOTOさん(笑)

最後に

意匠性をあげるための発明かと思いきや、もともとは棚をつけられないから、タンクを覆うように棚をつけるということが発端のようです。

以前、クルトガの特許を調べた際は、発案自体は古く、昔から知られていた課題だったことが分かりました。ただ、実際に解決品が世に出たのは、ずっと後で、しかも最初に出願したメーカとは違うメーカからでした。

今回の素敵なトイレも棚としても機能していますが、発案のスタートも棚とは意外でした。私としては意匠性向上がメインに感じます。
ものの成り立ちや進化って、意外な経緯をたどることがありますね。


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自己紹介にも書いているとおり、私は特許出願は多いもののエンジニアであり、弁理士ではありません。特許調査には間違いや、解釈違いが含まれていることも多々あると思います。
間違いなどがあれば、ご指摘をいただければ幸いです。


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