見出し画像

ストーブがつけられない近藤さん

こんにちは。
総合病院で働くMSWです。

オチのない話をします。
(名前は、全て仮名です)

近藤さんは、行き倒れでした。
60代の男性です。

あれは真冬だったかな。
近藤さんはコンビニの店先で朝からうずくまっていて、それが夜になってもそのままだったので、救急搬送されてきました。

なに、それ。

でも、お店の人の気持ちも、ちょっとわかります。
近藤さんは爪は真っ黒で、髪の毛は固形ワックスで固めたみたいにガビガビ。
ものすごい体臭で、差額料金なしで、こちらからお願いして個室行きです。

それが、近藤さん。

保険証も、財布も、何にも持っていなかったので、MSWが呼ばれたのでした。

でも近藤さんの身元は、すぐわかりました。
当時私が勤めていたのは、狭い町の病院。
近藤さんのことを知っている職員もいたのです。

近藤さんは、お母さんと二人暮らし。
でも、お母さんは数か月前に亡くなっていたのです。

町内会が音頭を取って、葬式を済ませ(そういう地縁が残っている地域なんです)、近藤さんのひとり暮らしが始まったのは、冬になる前でした。

ねえ、近藤さん。
ひとりでご飯はどうしてたの?

すると、近藤さんは小さい目をしばしばさせて答えます。

あるもの、食べてた。

お金はどうしてたの、近藤さん。

通帳から下ろしてた
信金の人たち、顔見知りだから。

近藤さんは、キャッシュカードは持っていません。
通帳と印鑑を抱えて、信金に行ったのだとか。

ね、近藤さん。
もうすぐ良くなって、退院できそうですよ。

近藤さんは、何にも答えません。

見ると、ポロポロ泣いてました。

寒いから、帰りたくない。
ストーブのつけ方が、わからない、ホントは。

そう、近藤さんは、恐らく知的障碍者です。
でも、教育や福祉につながることなく60歳を超えてしまった。

知恵遅れの子供は長く生きられない。

これは、ほんの数十年前まで、よく言われていた誤解です。
結果、親御さんが知的障碍の子供を家から出さず、囲うようにして暮らしていた。
でも親が高齢になって、面倒を見きれなくなる・・・。

そんな事例が、令和の時代になってチラホラ出てきています。


近藤さんも、たぶんそれでした。

ストーブを使えず、真冬までどうしてきたんだろう。

社会のブラックボックスみたいなところに落っこちて、そのままになっている人。
病院でMSWをしていると、たまに出会います。

お読みくださってありがとうございます。現在の私はケアマネジャーをしています。メインサイトもぜひ!  「自分、ケアマネに向いてる?」 https://myhomeinhokkaido.com