ぼくができるまで
(共通の書き出し:多分、トングのようなもので挟まれている)
今回は出だしを書き出し小説名作集「猫は挫折を経て丸くなった」から抜粋し、物語をつくっています。
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多分、トングのようなもので挟まれている。
まったく身動きが取れない状態だったが、今日はとても目覚めがよかった。目覚めたのはほんの少しまえのことだが、随分と前から、この日を待ち望んでいたように感じる。
一刻も早くこの喜びをだれかと分かち合いたかった。
たぶん前のやつも同じことを思っているに違いない。前の彼とはまだ話したことはないが、勇気をもって声をかけてみようと思った。
ただ声をかけるにしても、かけるかかけないか迷ってしまうほどの、絶妙な距離感なのだ。もしかしたら彼はまだ寝ているのかもしれない。
そう思うと、とてもじゃないけど後ろから声をかけるのは迷惑じゃないか、と思った。彼の前にもだれかがいるらしかったが、まだみんな寝ているようだった。
どうやらみんなより先に起きてしまったらしい。みんなと同じようにもう少し寝ていたいと思ったが、眠気なんてどこかに吹っ飛んでしまった。
これからどこにいくんだろう。そんなことを想像しても、僕には皆目見当つかなかった。
それでもずっと遠くのほうで揺れるかすかな光は、僕に大きな希望を与えてくれた。
あと少し、もう少し、このまま揺られていよう。
最後まで読んでくださりありがとうございます。何かしらのお力になれたならとても嬉しいです。