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「十二支のアマゾン」から始まる妄想の旅

はじめに

このnoteは、弾き語りトラックメーカーアイドル眉村ちあきさんのアルバム「SAI」について書いた文章です。なので、まだ聴いたことないよって方は、1回は通して聴いてから以下の文章を読むと良いでしょう。



「十二支のアマゾン」と「また始まる」

眉村ちあきの「SAI」は、全15曲からなるアルバムである。
(CDにのみ収録のSpecial Track除く)

1. 秘密の恋 (Solo ver.)
2. レイニーデイ
3. 肉喰え
4. ピカレスクヒーロー
5. 平成黎明GAL
6. 浜で聴くチューン
7. ナントカザウルス
8. Natto
9. 春一番
10. マルコッパ
11. 未来の僕が手を振っている
12. neko
13. ぢごくに落ちて心から泣け
14. 秘密の恋 (Band ver.)
15. 十二支のアマゾン

眉村ちあき「SAI」

1曲めの「秘密の恋(Solo ver.)」と14曲目の「秘密の恋(Band ver.)」に「レイニーデイ」他12曲が挟まれ、最後、15曲目に「十二支のアマゾン」が配置されている。

「十二支のアマゾン」は、十二支の動物それぞれにメロディを当て、12展開するという凄まじい構成の曲である。歌詞も、十二支の動物のそれぞれの生態に即したものとなっている。
(まだアルバムを聴いていないとしたら、「十二支のアマゾン」だけでも聴いてほしい)

さて、「十二支のアマゾン」は「また始まる」という歌詞で終わる。
歌詞の最後のブロック(十二支の亥に当たる)はこうだ。

夜にだけ旅をする
臆病なだけ
誰か僕をわかって
後ろに隠れて
また始まる

眉村ちあき「十二支のアマゾン」

「夜にだけ旅をする」以下4行の解釈は比較的容易。亥=イノシシは本来、昼行性(太陽の出ている時間帯を主な生活時間にしている)なのだが、性格が臆病なので、人間に姿を見られないように夜間に活動している、ということを踏まえての歌詞なのだろう。

では、最後の「また始まる」とは? イノシシや、他の十二支とも関係ないようだが。

解釈のヒントは眉村さんのインタビュー記事にあった。

眉村:そうなんですよ。十二展開を作るって決めてたんですけど、繋ぎ目のテンポやコードを変えちゃうと全然違う曲に切り替わりまくり過ぎちゃって、トレーラーを聴いてるみたいな気がしてきちゃうから、1曲として聞こえる綺麗な繋ぎ目にするように頑張りました。最後のコードが最初と一緒なので、またネズミに戻れるようにもなってます。

【インタビュー】眉村ちあき、アルバム『SAI』に宿る自信と変化「やっと“まっすぐ”の意味がわかった気がします」(2ページ目) | BARKS
強調は筆者

つまり、「また始まる」は、この曲の最初に戻ることを指示しているのだ。音楽用語でいえば、「D.C.」。ダ・カーポ、つまり、楽譜の末尾などに記載され、曲の冒頭に戻り演奏を続けることを指示する演奏記号に等しい機能を持つのだろう。
「また始まる」により、「十二支のアマゾン」はループ構造を形作るのだ。

十二支のアマゾンのループ構造


2つの「秘密の恋」

さて、上記の図に示した「十二支のアマゾン」のループ構造、どこかで見覚えがないだろうか。
そう、アルバムの、(十二支のアマゾンを除く)1曲目〜14曲目の構造に類似しているのだ。

「SAI」1曲目〜14曲目のループ構造

1曲めの「秘密の恋」から順に聴いていき、「レイニーデイ」〜「ぢごくに落ちて心から泣け」12曲を経由し、再び「秘密の恋」を聴いたとき、1曲めの「秘密の恋」を否応なしに想起させられ、つまり、ここで脳内に、12曲+「秘密の恋」2曲からなる巨大なループが構築されるのだ。

「十二支のアマゾン」の「また始まる」が演奏記号の「D.C.」に当たるとしたら、2曲の「秘密の恋」は、楽譜の冒頭と末尾に書かれる「リピート記号」に当たるのだろう。「秘密の恋」は、アルバムにおいて12曲+2曲のループ構造を形作る。

12音とリピート記号


自転と公転、それぞれの軌跡

ここまで、2つのループがアルバム「SAI」に隠されていたことを示した。
1つは「十二支のアマゾン」の、十二支の動物それぞれのフレーズを内包した1曲単位の小さなループ。
もう一つは、「SAI」というアルバム全体の、「秘密の恋」をリピート記号とした12+2曲の大きなループ。

アルバム15曲を、大小2つのループを意識して聴いたとしたら、そこに、あたかも天体図のような構造が見て取れないだろうか。小さな「十二支のアマゾン」ループが自転しつつ、大きな「秘密の恋」ループを公転する、という構造が。
この場合、「十二支のアマゾン」の最後の歌詞「また始まる」は2つの意味を取る。「十二支のアマゾン」の冒頭に戻る小さなループ(自転)を構成するための指示記号であり、かつ、アルバム冒頭に戻る大きなループ(公転)を構成するための指示記号である。
(いわば、音楽再生アプリの一曲リピートと全曲リピートの2つのリピート機能に該当する、としてもいいだろう)

アルバム「SAI」の構造

急に天体図を持ち出してきたのにはわけがある。アルバムのジャケット画像の背景に、太陽系の惑星の軌道が描かれているからだ。
このジャケット画像、よく見ると、背景に同心円と、円に沿って文字がいくつか書かれている。右上に「Orbit」軌道、下に「Neptune」海王星、左に「Saturn」土星、「Jupiter」木星。
軌道はもちろん、海王星、土星についてはきちんと惑星のイラストが描かれているが、なぜか木星はまったく描かれていない。なぜだろうか。

眉村ちあき「SAI」ジャケット画像


さまよえる木星

描かれなかったもの、隠されたものにこそ、なにか意味があるものだ。
ではここでの木星の意味は。
それは、十二支の由来に行き当たる。

元々は、古代中国で考え出されたもので、惑星のうちで、もっとも尊い星と考えられていた木星が、 約12年で天球を一周することから、その位置を示すために天球を12の区画に分けてそれぞれに名前を付けたものが 十二支の名の由来といわれています。

十二支・十干|天文・暦情報|海上保安庁海洋情報部

すなわち、このアルバム「SAI」は、十二支の由来である木星が、自転しつつ公転するさまを表しているのだ。
また、木星は古代中国では「歳星」と呼ばれていたとのこと。ここにもSAI
(歳)が示唆される。
未だかつてこんな構造を隠し持ったコンセプトアルバムはあっただろうか。いや、私は寡聞にして知らない。

(な、なんだってー!)

なんかよくわからんけど凄そうだ、と思ったあなたは、いますぐタワレコにでも行って「SAI」を購入し、ジャケット画像や凝った歌詞カードなど眺めながら全15曲+1曲の素晴らしくもバリエーション豊かな音楽群にどっぷり浸かり、自転しつつ公転する惑星のごとくリピートして聴き込み、なんならSNSで紹介などして眉村ちあきさんの布教活動に勤しんでいただきたい。

また、なにかツッコミなりコメントなり批判なり称賛などあれば、コメント欄にお願いしたい。そうでなくとも、軽率にいいね♡など付けてくれると、次回作への意欲が湧いてくるので是非。

それでは。

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