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ヴォクス・マキナの伝説をTRPG側から解説してみた Season1 #2(第3~5話)

この記事は「ヴォクス・マキナの伝説をTRPG側から解説してみた」の続きとなる。『ヴォクス・マキナの伝説』の原作となるTRPGセッション『Critical Role』についても紹介しているため、まだの場合はこちらを先に読むことをお勧めする。

ネタバレ対策のため序章にあたる第2話までから先の内容はストーリー展開に合わせていくつかに分割することにする。

第3話から、本筋となるブライアウッド氏に関するストーリーが始まるが、これは原作第1キャンペーンの第24〜38回の展開が元になっている。この時点でのキャラクターレベルは個々にばらつきこそあるが11~12。
キャンペーン全体でセッション配信開始時点で既に9レベル(この部分はアニメでは端折られた)、最終的に最高の20まで到達して大団円を迎えた。

なお、原典が4時間前後のセッションを全14回とかなり長いので、相当ストーリーを端折った上でアニメとしての展開を意識した改変も多く、必ずしも原典のセッションでの展開やD&D5eのルールと一致するものではないだろう。

トリンケットが出てこなくなった(ヴェクス)

ヴェクスの相棒の熊・トリンケットがあまり前線に出てこなくなったが、これはD&D5eのビースト・マスターのスペックのせいである。レンジャーの相棒への命令は毎ターン、レンジャー自身のアクション(通常の攻撃などと同じ枠)を使い、相棒そのものが自身のレベルに応じて成長する要素もない(2016年当時。現在はこれらを改善する内容を含むサプリメント(未訳)が出ている)ためあまり戦力にならず、ヴェクス(かそのプレイヤー)がトリンケットに愛着があったため、そもそもトリンケットが死ぬのを恐れて前線に出していなかった。

第3話

ドルイドクラフト

第3話冒頭など、戦力に影響のない程度に軽く花を咲かせる時などは通常の呪文でなくとも「ドルイドクラフト」で事足りる。これは最初から使用できて回数制限もない「初級呪文」と呼ばれる特殊な呪文の一種だ。

ちなみにこの初級呪文、英語ではcantripと言う。TCGにおいて使用したおまけでカードを1枚引く≒使用回数を消費しないカードの俗称「キャントリップ」は、D&Dの旧版における些細な効果しかない同名の呪文からとられている。第5版でも、旧キャントリップにあたる初級呪文「プレスティディジテイション」「ソーマタージー」「ドルイドクラフト」の3つがそれぞれ呪文を使用できるクラスに振り分けられている。
(余談:「プレスティディジテイション」は読み辛いが、英語のネイティブでも苦労するのでおあいこである。)

サーペント・ベルト(ヴァクス)

ヴァクスがズボンからベルトを外すと、蛇に変化して護衛の気を引く囮になった。

D&Dの公式のルールブックに完全にこれと言えるアイテムはないが、これは「スタッフ・オヴ・ザ・パイソン」や「フィギュリーン・オヴ・ワンドラス・パワー」などのマジックアイテムの派生形だろう。杖や動物を模した小像に合言葉を言いながら投げると、様々な動物に変化するというものである。それらを潜入作戦に使用できるベルトに置き換えたのはファンタジー世界観の表現として面白い。

(2022/02/13追記)原典Wikiを確認した所、D&D5eではなく原典のグループが配信以前に使用していた『パスファインダー』にそのものずばりなアイテムのデータが存在することが判明した。他にもつけているだけで拘束からの脱出や毒状態に強くなるとの事。

サーペント・ベルト
(Serpent Belt / 蛇のベルト)
その他の魔法のアイテム、アンコモン 価格:2,200gp
着用者は毒状態にならない。
君は1回のボーナス・アクションを使用して合言葉を口にすると、このベルトは最大1時間までポイザナス・スネーク(『Player's Handbook』日本語版310ページ)になり、君が口頭で伝える命令に従うようになる。スネークが死亡するか、ベルトをスネークにした人物から100フィート以上離れたなら、元のベルトの姿に戻る。

ヴァクスのキャラクターシート(https://twitter.com/VoiceOfOBrien/status/724751376283144192)より、私訳

サイラス・ブライアウッドの心術呪文?

ブライアウッド氏の目が光ってあからさまに怪しい事をしているシーンが2回あるが、これも何らかの呪文を使用しているとみていいだろう。いずれも精神操作系である事から、心術にあたる魔法という事がわかる。

それぞれ、ウリエル国王に独立を説得するシーンは特定の行動を示唆して行うよう仕向ける「サジェスチョン」、忍び込んだヴァクスを拘束するシーンは人を金縛りにする「ホールド・パースン」だろうか。

もちろん、NPCにあたるキャラクターな上にアニメ上の演出の都合もあるので、ルール上記載された呪文に相当しない事もあり得るかもしれない(呪文の効果時間など)。事実、「ヴァンパイア」のデータには呪文でない方法で人物を魅了し、友好的にする能力が書かれており、D&Dの公式のシナリオでもプレイヤーが使用できる呪文やアイテムに該当しない魔法が登場することはいくらでもある。

自然の化身(ケイレス)

前回ケイレスの紹介で言及した「自然の化身」がついに登場した。これは一定以下の強さの、見た事のある動物の姿に変身するというもの。鳥に変身して降りてきたところをデライラ婦人に撃ち落とされた。

続く第4話では変身先は角の生えたウサギ「ジャッカロープ」に変身したが、D&D5e公式の範囲内にジャッカロープのデータは存在しない。どうせ角が生えただけのウサギなので、攻撃でもしない限りウサギのデータを流用できるだろう(そのウサギのデータは特定のシナリオ本にしか出てこないのだが)。
さらに第5話冒頭ではリスに変身し、ヴェクスの服の中に隠れている。

デライラ婦人の謎の闇エネルギー

デライラ婦人は戦闘シーンで謎のエネルギーを操って飛ばしたり攻撃を反射していたが、表現が曖昧で明確な元ネタは見つからなかった。まあNPCだし。

無論、これを読んでいるあなたのプレイヤーキャラクターが複数種類の呪文や能力をそういう風に表現する事は不可能ではないし、キャラクターのイメージに合っているならすべきだろう。D&D5eのサプリメントの一つにおいて、「他の呪文のような外見になったり、効果が変わらない限りはいくらでも呪文の見た目を変えても構わない」という記述がある程だ。それができるしするべきなのがTRPGなのだ。

あえて類似した呪文を挙げるなら、矢を防いだのは「シールド」、続く衝撃波は「サンダーウェイヴ」、連発するレーザーは「エルドリッチ・ブラスト」だろうか。

サプリメント『Tasha’s Cauldron of Everything』より、呪文の見た目の表現の一例
農家出身のソーサラーがニワトリ型マジック・ミサイルを放つ様子

インセクト・プレイグ(ケイレス)

デライラ婦人に向かって虫の群れを放つケイレス。これはおそらくプレイヤーが使用可能な呪文のひとつ「インセクト・プレイグ」だろう。
範囲ダメージとなるだけでなく、移動や視界を防ぐ地形としても扱われる。

Wikiによれば原典では使用していないとの事。

サイラスの吸血剣

血を吸う度に強く鋭くなる剣、というのはファンタジーではよくある話だが、意外にもD&D5eの公式のルールブックの範囲でもCritical RoleのWikiでもそれらしい内容は見つからなかった。アニメのオリジナルかもしれない。

(2022/02/24修正)こちらもオリジナルアイテム「クレイヴン・エッジ」として原典に登場していたそうだ。その全貌が明らかになるのはアニメ第1期放送分より後の事なので、詳細は伏せておく。

マジック・ウェポン or ホーリィ・ウェポン(パイク)

第2話に引き続き武器強化の呪文をグロッグに使用している。

ここでパイクがグロッグに向かって手をかざし続けているのは、「精神集中」が続く限り効果がある表現だ(マジック・ウェポン、ホーリィ・ウェポンともに共通)。デライラ婦人の攻撃を受けて呪文が途切れてしまったように、精神集中は敵の攻撃などで途切れることがあり、その可能性はダメージが大きければ大きい程高くなる。

第4話

パイクの離脱

こちらはメタ側の話となる。どうやら元のセッションの当時一時期パイクのプレイヤーがドラマの撮影で忙しかったらしく、一時離脱していた事をストーリーに落とし込んだようだ。
なお、原典ではアニメ第3話にあたる時点でパイクのプレイヤーは出席していなかった。

アンデッド召喚(デライラ婦人)

デライラ婦人がアンデッドを召喚するシーン、普通なら「NPCだし…」で止めるところだが、あえて紹介したのには意味がある。D&Dではゾンビやスケルトンを召喚する「アニメイト・デッド」やグールを召喚する「クリエイト・アンデッド」など、プレイヤーも死者を蘇らせ操る呪文を使えるのだ。他のシステムのように敵専用と割り切ってしまうのではなく、プレイヤーがやりたい事にGMが合わせていくのがD&Dのスタンスだ。

デイライト(ケイレス)

一行が暗闇を進む中、エヴァーライトとの繋がりが途切れ呪文が使えない状態のパイクがケイレスに修得していない「太陽の光」が使えないか尋ねた。もちろん、D&Dのドルイドにも太陽の光―「デイライト」の呪文がある。クラスによっては低レベル帯から使用できる「ライト」の呪文もある(パイクも使えたのだろう)が、デイライトは高レベルな分範囲が広く、通常の光を通さない魔法の光もかき消すことができる。

スペクター or シャドー?

デライラ婦人が墓から蘇らせた亡霊は、生気を吸い取る部分や壁をすり抜ける部分は「スペクター」と思われるが、影の中で強い部分はむしろ生ける影「シャドー」に近い。どちらにせよ、デイライトと思しき呪文でダメージを受けたり壁をすり抜けられなくなるような描写があったことはアニメの展開を優先した脚色のように見える。しかし、日光下(デイライトも含む)で弱体化することには間違いない。
霊体系のアンデッドはHPこそ低いものの耐性が多く、プレイヤーの戦力によってはGMの想定以上の強さを発揮することも多い。

代用武器(グロッグ)

グロッグは手近な明かりの支えで亡霊を殴っていたが、D&Dには本来武器でない物を無理やり武器として扱う「代用武器」のルールがある。GMがどの武器に似ているかを判断し、得意武器であれば能力ボーナスも使用できる。

宝物でマインド・フレイヤーを殴る冒険者。
『マジック:ザ・ギャザリング D&D:フォーゴトン・レルム探訪』
《間に合わせの武器 / Improvised Weaponry》より、 Alix Branwynによる

第5話

デライラ婦人の呪文書

第3話でヴァクスが盗み出した表紙にドクロの描かれた本は、デライラ婦人の呪文書だった。実際にD&Dのルール上でウィザードのクラスのキャラクターは自分の研究をまとめた呪文書を持つことが決められており、そこに記された呪文から実際に使う呪文を選ぶ。
デライラ婦人はNPCにあたるキャラクターだが、ルールブックでもウィザードが冒険の中で発見したNPCの呪文書などから呪文を解読して自分のものに加えるための費用と時間のルールが書かれている。
スキャンラン曰くデライラの呪文書は殴り書きで、辛うじて一語だけ読むことができたが、呪文書は学術論文ではなく基本的には書いた自分さえ読めればいいものだからである。

三つ目の獣?

ヴォクス・マキナの一行の馬車を襲った狼のような怪物だが、明確にこれと言えるD&Dのモデルが見つからなかった。
複数ある触手のような尾は「ディスプレーサー・ビースト」のそれだが、目が3つあり、その名の由来である光を屈折させ敵を惑わす能力が見当たらない上に、ディスプレーサー・ビーストにない長く伸びる舌がある。

火炎矢(ヴェクス)

この矢自体は作中でギルモアの店で購入した品という事が説明されているが、実際のD&D5eではレンジャーは呪文「フレイム・アローズ」として矢に火をつけることができる。ちなみに、1回の使用で12発まで撃つことができる。

ドミネイト・ビースト?(ケイレス)

ケイレスが襲ってきた獣を威嚇しておとなしくさせたが、ドルイドが使用可能な呪文で一番近いといえば「ドミネイト・ビースト」だろうか?
これは野獣の精神に干渉し、命令できるようになるというものだ。しかしその後すぐにグロッグに殴り飛ばされて命令する様子が確認されていない上、見た目から判断するに野獣ではなく不死(アンデッド)なため、何とも言えない。

クリエイト・ボンファイア(ケイレス)

ケイレスが野宿の際に魔法でかがり火を作っていたが、これは『ザナサーの百科全書』所収の「クリエイト・ボンファイア」呪文だろう。も
ちろん、火を発生させるので多少の攻撃にもなる。

呪文の巻物 / ポリモーフ or シェイプチェンジ?

一方でスキャンランは以前手に入れた巻物を使用してカエルや馬、挙句の果てにはエルフの女性に変身してしまった。

日本の読者諸兄なら『風来のシレン』などでお馴染みの読み上げて呪文を発動する巻物というものは、D&Dにも存在している。ゲーム上では効果は一回限りで使用すると消えてしまい、使用できるのは自分のクラスの呪文だけだ。

一方でその呪文、変身の呪文でバードが使用できるのは「ポリモーフ」だが、効果中に複数回変身している辺り本来バードが使用できない呪文「シェイプチェンジ」のようにも見える。D&Dのルール上はあまり筋が通らないが、これも脚色なのだろうか?

突風呪文(ケイレス)

回想内でケイレスが突風を起こして身を守っていたが、自然を味方につけるドルイドの呪文リストには「ガスト・オヴ・ウィンド」「コントロール・ウィンズ」など、風を操る呪文が多数あり、明確にこれと特定できない。

旅はまだ始まったばかり

前回の記事で大反響を頂いたおかげで、シリーズ全体を解説する予定が決まった(自分が一度熱が冷めるとすぐに忘れてしまうので完走できるかどうかは怪しいですが…)。ともあれ、暖かく見守っていただければ幸いである。

(2022/02/23追記)無事完走しました。続きはこちらからどうぞ↓

追記・修正
(2023/01/29) Season1であることをタイトルに明記
(2022/02/24)Sadknight様(https://www.youtube.com/channel/UCZokfxhzRTumgVraENBB5gg)の情報を基に全記事大幅改定
(2022/02/23)原作キャンペーンに関する情報を追記、修正

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