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F-ZERO99 ― 必要なイノベーションは、時代が解決してくれた。

1990年11月21日、初代『F-ZERO』はスーパーファミコンのローンチタイトルとして背景の拡大・縮小・回転を可能にする技術展示を兼ねて発売された。

その後も「マシンに耐久力がある」「最高速が超速い」タイトなゲーム性でコアなファンを集めるも、メインストリームな人気には乏しく、少年マンガ風の作風で若年層の獲得を狙ったアニメ『F-ZERO ファルコン伝説』や、アニメと連動した同名のゲーム(GBA、2003年)および『F-ZERO CLIMAX』(GBA、2004年)も虚しく、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズや『ニンテンドーランド』(Wii U、2012年)への出演こそあれど、シリーズとして長く音沙汰が無い状態が続いていた。

任天堂の元デザイナーから「F-ZEROは楽しく遊ばせるアイディアが出なかった」などといった発言があったという話もあり、新作を絶望視する意見もあった事は想像に難くなかった…。



しかし、2023年9月14日、『F-ZERO CLIMAX』発売から6902日。Nintendo Directでの告知後、突如としてF-ZEROの新作が配信開始されたのである。

その名も『F-ZERO 99』。

F-ZEROがほぼ19年の沈黙を経て帰ってきた事ももちろんだが、先に成功を収めた『テトリス99』を踏襲した99人同時レースという絵面のインパクトも衝撃的だった。

しかし、絵面だけのバカゲーという訳ではない。F-ZEROのシビアなゲーム性はそのままに、バトルロイヤルとしての気軽さ、遊びやすさを加えたワンアンドオンリーの作品に仕上がっている。

グラフィックこそ初代準拠だが、システム上は『F-ZERO X』から多くの作品で採用されてきたスピンアタックとエネルギー(耐久力を兼ねる)を消費するブーストに、新たに他マシンのKOによるエネルギー回復と、下位程順位を詰めやすくなる「スーパーターボ」が追加された形となる。
元々、「マシンに耐久力のあるレースゲーム」であり、作品によっては順位による足切りも存在したため、多数のプレイヤーが次々と蹴落とされていくバトルロイヤル形式との融合は自然と言える。

バトルロイヤルとして、順位による段階的に成長を実感できる要素はもちろんの事、ライバル(ランダムに選ばれたランクの近いプレイヤー4人)と比較した評価や、同車種、同ランク帯など、細かい成績も表示される。

ただ一般的なバトルロイヤルと違って、根はレースゲームなので、一試合の所要時間が短く、上位で生き残り続ける程集中力を大きく削がれるという要素がないのも遊びやすくてよい。

やや余談にはなるが、99人のプレイヤーとKO時のボーナスという新要素のおかげで、ハイリスク・ハイリターンなゲーム性が、「銀河を股にかけたデス・レース」というF-ZEROシリーズのフレーバーをかつてのシリーズ作品とは比べ物にならない程表現している。

また、元々シリーズの歴史上、『X』や『GX』のシングルプレイヤーはCPU含めた最大30人でのレースであり、同じく任天堂の『マリオカート』ではアイテムが飛び交って遊び辛くなってしまうため、大人数でのレースへの先鋭化はシリーズの自然な進化であると言える。

時間が解決したイノベーション

「F-ZEROは楽しく遊ばせるアイディアが出なかった」― 任天堂の元デザイナーがそう語ったとされている。しかし、CLIMAX発売から99配信までの約20年の年月の中で、ゲームを取り巻く環境は大きく変化した。F-ZERO 99はその流れの上にある。

F-ZEROが沈黙して以降、『マリオカートDS』(2005年)以降シリーズの定番となった「キラー」は、F-ZERO99のスーパーターボとは「コースを超高速で走り、1位との差によって効果時間が変化する」という点で共通している。

2017年には『PlayerUnknown's Battlegrounds』(以下PUBG)、そしてPUBGリリース同年に恐るべきスピードでバトルロイヤルモードを導入した『フォートナイト』による「バトルロイヤル」ジャンルの流行。

そして、ゲーム人口の増加と共に、『ダークソウル』などに代表される難易度の高いことを前提としたゲームや、スピードラン/RTAという遊び方が受け入れられるようになった。

F-ZEROが眠りについた2000年代中期には存在しなかった、存在し得なかった数々の要素が、このF-ZEROが求めていたイノベーションなのである。

未来のレースの未来

こうしてF-ZERO 99が盛り上がりを見せている以上、Switchもしくは次世代機で完全新作が現れる未来もあり得ない物ではなくなった。

3D作品として処理能力や通信の安定化のために人数こそ99人から減ることはあっても、スカイウェイに準ずる要素やプレイヤー撃破によるボーナスはこれからのシリーズでも継続して登場することだろう。

しかし、99が注目を集めた一方で、F-ZEROのアイデンティティであるシビアなゲーム性は、根強いファンはいてもプレイヤーがやや定着し辛いのも事実であり、フルプライスのゲームともなれば尚更である。その導線をいかにスムーズな物にするかも課題だろう。

かつての沈黙とファンの慟哭は嘘のように鳴りを潜め、デスレースの新時代がやってきた。コールドスリープから目覚めたF-ZEROがここから更にどのような進化を遂げるのか、期待したい。




宣伝:99人熟練者の世界 痛風グランプリ

ここから先は宣伝となる。

原作スーファミ版のRTA走者である痛風氏のTwitchおよびYouTubeチャンネルでは、定期的にF-ZERO 99の配信が行われている(2024年1月26日現在は月・水・金曜日の午後8時~11時)。

2024年1月25日のアップデートでプライベートロビーが追加され、アップデート後初配信では99人全員が腕に覚えのある視聴者と痛風氏によるレースが行われた(以下その際のタイムスタンプ)。

腕に覚えのある読者諸兄は、是非野良でのトップ10獲得すら日常茶飯事というハイレベルなプレイヤー達が集う魔境に挑み、F-ZERO新時代の最前線に立ってほしい。


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