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映画「ルームロンダリング」(ネタバレあり)


あらすじ

 ルームロンダリングとは自殺や殺人事件で事故物件となったアパートの部屋の履歴を帳消しにすること。叔父の雷土悟郎(オダギリジョー)しか身寄りがなく引っ込み思案のミコ(八雲御子=池田エライザ)は、叔父に言われるままに事故物件への引っ越しを繰り返す。
 貸主は事故が起きた後の最初の借り主には事故物件であることを説明せねばならないが二人目からはその必要はない。黙って普通の家賃を設定できる。事故物件を選んで住んでくれるミコは不動産業者にはありがたい存在で悟朗はそれをビジネスにしているのだった(悟朗はほかにも、いろいろ怪しいビジネスを行っている)。
 ミコは5歳で父を亡くし、母もその後、ミコを残して失踪し祖母によって育てられた。しかし、その祖母もミコが18歳の時に亡くなり、それから叔父と一緒に仕事をしながら2年が過ぎた。不動産業者からの依頼によって事故物件に住み着いて、次の依頼が来たら、新しい事故物件に引っ越すことを繰り返している。
 ミコは孤独な境遇で育ったために、普段から無口で暗い少女だった。ルームロンダリングの仕事をしている内に、やがて、その部屋で亡くなった人の霊が見えるようになり、幽霊たちに話しかけられるようになる。
 こう書くとホラー映画のようだが、実際にはコメディである。ミコは売れないパンクロッカーだった男(キミヒコ)が風呂で手首を切って自殺した部屋に住むと、その幽霊に馴れ馴れしくされる。
 つぎにストーカーに刺殺された若いOL(ユウキ)の部屋に住むようになると、また馴れ馴れしくされる。そのほか、自動車事故で亡くなった、蟹の扮装をした男の子の幽霊とも仲良しである。
 刺殺されたOLユウキはコスプレをしてネットにあげるのが趣味だったのだが、ある夜、会社から帰宅したところを無惨にも刺殺され、まだ犯人が捕まっていない。その隣の部屋にはコンビニで働いているアキトが住むが、実は殺人事件が起きたときにユウキが助けを求める声を聞いていたのに無視したので彼は後悔していた。
 それもあってアキトはミコが事件が起きた部屋に越してきた時から、彼女を気にかけていた。ミコもアキトのことが気になり始めていた。実はミコは絵を描くのが好きで美大に進学するのが夢だったのだが、ある時ふと思いついてユウキに犯人の顔立ちを聞いて似顔絵を描いた。
 ミコはアキトにそれを警察に届けるように頼み、アキトは地域を巡回している警察官にそれを見せる。だが、実はこの警官がユウキを殺害した犯人だったのであり、アキトは警官に殴られ絶体絶命の状況になる。(警官がユウキを殺害した動機は、あまり本筋に関係ない)
 ミコは叔父とその仕事仲間に手伝ってもらって、警官に逆襲して懲らしめる。ここは、ストーリー上、ピンチからの大逆転でスカッとするところだが内容的にはスラップステッィク・コメディなので、詳細は割愛する。
 ミコは自分の不思議な能力を重荷に感じていたがユウキを殺害した犯人を捕まえることができて、前向きに受け入れられるようになった。アキトとも仲良くなり、ついいに母親とも再会を果たした。
 その母親は既に亡くなっていたのだが、ミコは荷物に感じていた能力によって死別していた母の霊と再会することができたのだった。しかも、母も祖母も叔父も同じ能力を持っていたことがわかった。
 叔父はミコの将来のためにこっそりと貯金をしていることが明かされる。彼女はまた新たなスタートを切るための引っ越しのためトラックに乗って移動するシーンで映画は終わる。

感想

 タイトルからホラー・サスペンスなのかと構えたが、あまり難しいことは考えずにコメディ映画として楽しめばよい作品だった。描かれていることは重いのだが、映画そのものは終始明るい。暗いのは、映画の出だしのミコ(池田エライザ)のキャラクターくらいである。
 犯人の警官を捕まえて落ち着いてから、ミコはパンクロッカーの幽霊(キミヒコ)の頼みをきいて、彼の遺作の音源をレコード会社に送った。すると意外にも先方からよい返事をもらう。ミコはキミヒコに「死ぬ前に(レコード会社に)送って見ればよかったのに」と言い、叔父も「人は死んでも作品は残る。それが生きた証だよ」とキミヒコを元気づける。
 ユウキがなぜOLをしながらコスプレにハマって、それをネットにあげるようになったのかはわからない。なにか私生活に虚しさがあって、それを埋め合わせるためのコスプレ趣味だったのかというと、映画には、そのように読み取るだけの材料がない。しかし、ユウキとキミヒコは幽霊どうしで、いい雰囲気になってきた(笑)。
 ミコはアキトと二人で街を歩く。幽霊とつきあいながらも、二人は生きているとミコは実感できた。彼女の髪は風に吹かれて、それまで前髪に隠れていたおでこが顕になるシーン。一気にミコが大人っぽく見えて、自分の足で歩いて積極的に人と交わろうとする気持ちの変化を表現した演出だったのだろうか。
 さて、ミコの母がミコを祖母に預けて姿を消したのには訳があった。ミコの父は(おそらく何かの事故で亡くなり)幽霊になってからも母に会いに来ていたのだった。しかし、やがてミコも能力に目覚める時が来たら父の霊を見ることになる。それがミコの人生に及ぼす影響を案じて、母と祖母はそのような対処をしたのだった。
 しかし、ミコの母が具体的にどこでどのようにして亡くなったのかは、映画からはわからない。この映画はTSUTAYAが主催したシナリオのコンクールに入賞した作品を映像化したものなので原作には記されているのかも知れない。本筋には関係ないが、その点だけは説明不足が気になった。
 ところでミコという役名(八雲御子)だが、巫女から連想されたのではなかろうか。母と生き別れになって祖母に育てられたという生い立ち、ふつうの人には見えない霊が見えてしまうという面倒な能力から、暗い人生を過ごしてきたミコだった。
 しかし、幽霊たちの無念な思いを彼らにかわって遂げる手伝いをしてやり、ふつうの人との交わりもできるようになって、最後はむしろ巫女として前向きにルームロンダリングの仕事に向き合うようになったのかな、と思わせるエンディングだった。

【映画情報】

2018年公開監督 - 片桐健滋
脚本 - 片桐健滋、梅本竜矢キャスト
八雲御子 - 池田エライザ
春日公比古 - 渋川清彦
虹川亜樹人 - 伊藤健太郎
千夏本悠希 - 光宗薫
木下隆行
奥野瑛太
つみきみほ
田口トモロヲ
渡辺えり
雷土悟郎 - オダギリジョー
【蛇足】ユウキを身勝手な理由で殺害した暴力警官を演じているのがTKO木下だが、今となっては悪い意味でハマリ役になってしまった。

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