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血のつながり⑤ (創作小説)

リストカットとブラック企業を題材にして書いた話です。
①を読んでない方は①からお読みください。

今回も社会人の女性視点からのスタートです。

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今日は夕日が強い。眩しいオレンジ色の光で目が痛くなった。
角を曲がると建物で夕日が遮られて、私はやっとちゃんと目を開けることができた。目を開けると目の前にはなんとルカがいた。

ルカは制服姿だった。
落ち着いた赤色のチェック柄のスカートにブレザーで、その服装にボーイッシュな短い髪は合っていた。

「なんでいるの」
ルカは驚いた様子で言った。
「営業先がこの近くで直帰するところだったの」

私はルカにしばらく会っていなかった。
ルカに病室のメモを渡した時から会っていないから、もう二か月近く会っていないだろうか。たまに夜に公園に行っても、あの日以来ルカと出会えたことはなかった。

聞きたいことがあったから、私はルカをお茶に誘って、近くのチェーン店のコーヒーショップに入った。私はアイスティー、ルカは抹茶ラテを頼んだ。
なんとなく角の席を選んで私たちは腰を下ろす。周りは仕事をしている社会人や勉強中の学生しかおらず、会話するのが憚られた。

「彼女とはあの後どうなったの」
私が普段より一回り小さい声で言うと、ルカも小さめな声で答えた。
「会いに行ったよ。病院に。それで連絡先渡してきた。今でもたまに連絡したり、電話したりしてる」

どんなことを話しているのかとか、母親とはどうなっているのかとか、聞きたいことはいろいろあったけれど、それは私が聞くべきことではないと思って止めた。

「なんか、前より元気そうだね」
「転職したからかな」

新しい会社に入って一か月が経ったところだった。転職してから、私の生活は一変した。
家に帰る時間も七時とか八時ぐらいで、叱られたり怒鳴られたりすることも数を数えるぐらいしかなくて、これで同じぐらいの給料が貰えるなんて信じられなかった。

「うん、もうストッキングとか破ったりしなさそう」
「もう、それはやめてよ」
私が笑うと、ルカも笑った。

「なんだかルカも元気そうだね」

森の家に戻ったからね。ルカはぼそっとつぶやいた。

「え」
「なんでもない」

それからルカの高校生活のことを聞いたりもしたけれど、ルカはクラスメイトにあまり興味がないらしく聞かれたことにぽつぽつ答えていくだけで、あまり盛り上がらなかった。
私はアイスティーを、ルカは抹茶ラテを飲み干したので、私たちはお店を出ることにした。

外はすっかり日が暮れていた。

「じゃ」
「じゃあね」

私は駅の方に、ルカは私とは反対方向に向かって歩き出した。今までルカと出会っていた夜にルカと別れるのはなんだか不思議な感覚だった。
私は、ルカと出会うことはこの先きっとないだろうなと思った。一回はたまたま出会えたけれど、二回目の偶然は来ないだろう。

私はルカと出会った日のことを思い出した。
仕事で精神が疲弊して、おかしくなりかかったあの日。私はルカに出会って、あの時はルカが私にとっての心の支えだった。

今となってはなぜ公園の街灯の下でリストカットをしていたルカに、そこまで心を惹かれたのか分からない。でもあのときの私がいるから今の私がいる。
過去を否定することはいくらでも出来るけれど、それは自分のためにはならないと思った。

今ルカはどんな生活をしているのだろうか。そして自殺未遂をした少女はどんな日々を過ごしているのだろうか。
生活は急に変わることもあれば、なかなか変わらないこともある。少女は今も母親のもとで辛い日々を過ごしているかもしれないし、楽しい日々を過ごしているかもしれない。

私はルカと少女があの時よりは幸せであることを願った。
公園で腕を傷つけるルカとそれに惹かれた私と少女。私たちはルカの血を通してつながっていた。
よく分からない不思議なつながりだけれど、私はルカと少女が今この瞬間、生きるのをやめたくなるほど辛くなければいいなと思った。


〈完〉




作者あとがき  

まずはここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
noteで中編の小説を投稿するのは初めてだったのでどこで区切るべきなのかが難しかったです。

「血のつながり」はタイトルの通り、血でつながった3人の登場人物が出てきます。
3人はそれぞれ心に暗いものを抱えていて、その暗さゆえに惹かれ合い、結びつきます。
最後の場面で、転職したことで心に暗いものをすでに持たなくなった主人公は、ルカとの関係が切れてしまうことが暗示されます。
ですが、たとえ刹那的な関係であったとしても、ルカと一緒に過ごしたあの時間は、彼女にとって大切な時間であることに変わりはないと私は思います。
そんな刹那的な関係を残しておきたいと思い、この作品を書きました。

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