説得術(2):エモーショナルシンクとステートオブマインド

前回の続きです。

エモーショナルシンク(emotional sync)

神経生理学の分野では、お互いのことを分かり合っている人の間では、「脳が感情的にシンクロしているという現象」が起きていると分かっている。
お互いに仲のいい人、理解しあっている人の間では同じような感情の反応が起きている。
逆に言えば、説得の前段階で「感情を共有出来れば」、感情反応が近寄ってくるということ。つまり感情共有が説得に応じやすい状況を生み出すということになる。

エモーショナルシンク駆動のために(1)
では、どうするとエモーショナルシンクが起きやすいのか。エモーショナルシンクに有効な感情は何なのか。
これは「笑い」と「ストーリー」を上手に使うと良い。この2つはエモーショナルシンクを駆動しやすいことが分かっている。

この2つを共有すると、あたかもお互いの感情が一致している、お互いを理解しあえていると思いやすい。ショートストーリーで笑わせたり、お互いに笑えるストーリーを共有するとよい。

エモーショナルシンク駆動のために(2)
次に自分の感情を素直に表現すること。周りくどく言わず、なるべく分かりやすい表現で自分のキャラを裏表なく素直にストレートに伝えるといい。正確に詳細に伝えるというのがポイントになる。
相手を笑わせるのが難しい場合には、素直にストレートな表現というのが有効となる。なるべく細かく伝え、誤解を招かないようにが大事。要するに同じ感情を体験する場を設けましょうということ。
アニメや映画などを見た際には、そのシーンを見てどういう感情を抱いたのか、「感情」を共有すると良い。

インセンティブ
ゲーム化して報酬を与えると脳が刺激されてモチベーションが上がる、これを利用するのがインセンティブ。RPGなどもレベルや経験値が上がっても一円も得るものがなくても、みな頑張ってやるのはインセンティブになっているから。

誰かにすばやく行動してほしい場合には、何か期待を感じさせることをしたほうがよい。それは罰則を用意するよりも期待の方が行動を起こしやすいから。すなわち人間の脳を興奮させるのに、ゲーム化するとよい。
罰則とインセンティブのどちらがよいかについて様々な研究があるが、実際は罰則のインセンティブのコンボがよいという。褒美を先に与えて、うまく達成できなかったら取り上げると、失うものに対する怖さを感じるのでより効果が高くなる。

エージェンシー
人間の脳はコントロール出来るものを探すように出来ている。controllability ともいう。仕事では自分でコントロール出来る範囲が広い人の方が幸福感を感じやすい。どのようにすれば自分がコントロール出来るのかを考えるものだから。仕事で裁量権が広い人、自分で物事が選べていることが大事で、自己選択している自由があるからこそ人は健康的に幸せに生きられる。
仕事の裁量が少なく自由が利かない人にはストレスが強くかかり、メタボなど生活習慣病になりやすい。
もしある選択肢Aを提示する場合は、マイナーチェンジのバリエーションを作ってA1、A2、A3を提示してどれがいいかと促すほうが自分で選択した感が残るので安心して選ぶことができる。

説得が下手な人は命令もしくは提案をしてしまう。実際には選択肢を絞っているにもかかわらず、「選択肢を選んでいただく」「質問で絞っていく」というスタンスで交渉するとうまくいく。

上司に対して仕事の提案をする際には、どうしましょうとお伺いを立てるのではなく、A、B、Cという多少差をつけた案をあえて提示してそれぞれのメリット・デメリットを説明するということを私は社会人なりたての頃から実践してきた。どれも実は大差ないのだが、マイナーチェンジ版をいくつか提示して上司に選択させ、気分良く仕事してもらった気にさせつつ、自分のやりたい事に取り組むためである。

キュリオシティ
人間の脳はネガティブなものに反応し回避し、ポジティブなものを求める傾向がある。ネガティブな情報を出して避けてもらい、真に進めたいポジティブ情報をさらっと提示するとよい。また好奇心のギャップを用いる方法がある。
特定の方向に誘導したい場合には、いったんポジティブな枠組みに切り替えてから提示したほうがよい。ギャップ補足法というテクニックがある。

まずは好奇心を掻き立てるタイトルで、なんだろうと思わせること。相手の予測できる知っていることと、提示している知識のギャップを作って好奇心をあおる方法で、一部をわざとぼかすテクニックである。
例:
「誰でも○○出来る3つの方法」
「実は○○である5つの○○」

ステートオブマインド(state of mind)
負けが続くと野球チームはマインドが守りに入り、さらに負け続けることになる。新しい事業をするよう提案したい相手に対して、今のままでは時代遅れでダメになるとプレッシャーを与えてしまうと、「やばい、怖い怖い」と新しいことに受け入れてくれなくなってしまう。上から目線でけしからんと言われると、強権的に言われると人は保守的な態度になりマイナスの効果しか生まない。相手に対して新しい考えを受け入れさせるためには、基本的には心理的安全性を担保しリラックスさせる必要がある。

だいたいの人は強権的に振る舞ってしまうため、組織が保守的になり風通しが悪い組織となり、時代遅れになり、潰れてしまうのだ。自分たちは守られているという感覚を植え付ける必要がある。
説得をしたいと思うなら、相手の感情に沿うような説得を展開する必要がある。逆に高揚していて意識高い系の人たちには、落ち着けと堅実な投資話をもっていってもムダで、リスクの高いものを提示するほうが刺さりやすくなる。
テクニックベースではなく、感情ベースで対応する方が望ましい。

(続く)

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