説得術(1):知的な人ほど落ちやすいテクニック

仕事をしていると上司やお客様に向けてプレゼンしたり、同僚を説得したり、はたまた部下にやる気をもたせて仕事を気分良く遂行させるなどといったことが発生する。ここでは人間が説得を受けるときとはどういう状態なのかについて考察していきたい。

ブライヤービリーフ
ブライヤービリーフ」という言葉を知っておくと役に立つことが多い。これは「相手の思考や心情に沿う情報」と考えればよい。
人間はデータや説得力よりも「体験したこと」が大事であり、本来、人間は新しいものに警戒感を抱く、違うと思ってしまい拒否するという特性がある。

反ワクチンで騒いでいる人々や放射能の影響が鼻血が出たとかいう放射能脳の人々を例に挙げるまでもなく、人は信じたいものしか信じない。こういう人たちにロジカルに説得しようとしても困難を極める。説得するためには、人は自己正当化したいので警戒感を下げる必要があることを肝に銘じておく必要がある。

かつて私は20代の一時期、マルチ商法で騙されているイタイ方々とネット上で議論を通じて啓蒙活動するってことをしていた。「マルチ商法は詐欺ではなく立派な商行為である」と主張するカモネギさんに対して、消費者契約法や特定商取引法、マーケティングや会計の知識をフル動員して、如何に冷静かつ華麗に圧倒的な知識とデータで論破するかという遊びをしていた。
この議論の目的はカモネギさんに騙されていることに気づきを与えるためではない。本人は「100%自分は騙されていない」と信じ込んでいるので、そんな人に対して説得しようなどとは微塵も狙っていなかった。常に議論を静観している第三者、声をかけられ迷える子羊になっている方々に対して「いかにマルチ商法は儲からないし、くだらないと納得させるか」が勝負だったのだ。騙されている人々はセミナーで似たような文言で説得されており、内容のフォーマットが決まっているので、ロジックのほころびの口についてこちらはほぼ把握していた。なので、最初から議論するまでもないし、自分の頭で考え抜いてマルチ商法に手を出している人など皆無に等しかった。

新しい情報ではなくて、「確かにそうだ」と相手の信念に自分が気づいていなかっただけと思わせるのがミソ。相手の信念に寄せて「警戒を解く」ということを行い、それにより納得させて、一気に情報を流し込むのがよい。そのための相手の信念を知るための対話から始めることが肝要であることは言うまでもない。これがブライヤービリーフである。

信念を確認→ブライヤービリーフで警戒感を下げる→説得の準備が完了→説得を開始する

心情に反する情報から入るとうまくいかない

警戒モードを解かずに、心情に反する情報から入り、相手を否定してしまうと、「相手の言っていることのおかしい場所を見つけてやろう」と思ってしまうもの。
さらに論が完璧、証拠が完璧な場合、「確かにあいつは言っていることは正しそうだが、気に入らない」ということになる。人は次は「人格を否定」する行為に逃げてしまう。
警戒心が説かれていない状態で説得が行われると、ブーメラン効果となる。
つまり、相手が抱いている「間違っている心情」を強化してしまい、嫌われてしまうという現象が起きてしまうのだ。

幼稚な反安倍運動をしている界隈の人は政策批判ではなく、人格否定が大好きで容易にデマに騙されてしまうという点で、彼らの知性に哀れみを感じてしまう。外交政策はともかく、安倍政権の内政政策はツッコミどころが満載なので、論理的に批判はいくらでも出来るというのに。
警戒モードの人に説得は届かない。警戒心が強い相手に無理に説得にかかると、敵を作ってしまうことになり、さらに間違った情報への心酔度を高めてしまうのはよくあることでしょう。

認知能力とブライヤービリーフ
認知機能が高い人ほど、つまり頭がいい人ほどブライヤービリーフには弱い、聞きやすいという特性がある。つまり、賛成しやすい情報を出して一度警戒を解くと、自分の信念と違う情報を上手く自分の信念に組み込む、スピーディーに正当化する。これが学習能力が高いということになる。なので知的な人ほどブライヤービリーフに弱い。
新興宗教に引っかかりやすい優秀な層が多かったのは、「心が弱ったときに警戒感を下げて相手を信頼してしまったがゆえに、科学的におかしな、反社会的なロジックまでも自分の信念に容易に組み込んでしまった」ということ。ブライヤービリーフにひっかかったと説明できる。
(続く)


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