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介子推

 今日は、読書感想文を投稿したいと思います。
宮城谷昌光氏の『介子推』です。

この本との出会い

中国の歴史書や思想書は、昔からたくさんありました。
私が十代の頃は、歴史小説となると『三国志』や『水滸伝』、『項羽と劉邦』ぐらいで、それ以外の歴史上の人物に関するものは少なかったと思います。
1990年代、宮城谷昌光という作家が登場し、1993年に『重耳』を発表。
春秋時代という古い時代の小説を読むことに、ワクワク感を抱き、むさぼるように読むふけったのを覚えています。
今回、ご紹介する『介子推』は、1995年刊行。
小説の『重耳』でも主人公に仕えた家臣として登場しています。
その流れで、この作品と出会い、感動しつつ読み終えました。

あらすじ

 主人公の介推は、長身で涼やかな眼差しの青年でした。
彼は田舎から出て、優れた君主に仕官することを夢見る青年でした。
山々を巡り、棒術を磨く日々を過ごした彼は、人食い虎と相対し、これを打倒すことになります。
やがて、晋の公子である重耳に仕えることになった介推は、陰日向なく働き、黙々と主人に忠義を尽くします。
義母の策略により、長兄を殺された主君・重耳は長い流浪の旅に出ることになります。
主君・重耳は農民から椀に盛られた土を出されて馬鹿にされ、一行は飢えに苦しみます。
そんな主君を守るため、介推は自らの内腿の肉を切り取り、飢えを凌ぐ食料として提供します。
また、ある時は祖国最強の暗殺者から主君を守るべく、人知れず死闘を繰り広げます。
自分が仕える主君が、いつの日か聖王となって国を富ますことを夢見ながら日々を過ごす介推。
その主君の苦労が報われ、数十年ぶりに祖国への帰還が果たされようかという時に、重臣の狐偃が重耳に暇乞いをします。
それを見た介推は、己の功を主君に認めさせ、恩賞をせびる行為だとして腹を立てます。
やがて、重耳は帰国し狐偃を始めとする重臣らに厚く恩賞を与え、これに報います。
自らの功を誇らない介推には恩賞が与えられず、静かに重耳のもとを去ります。
のちに、介推の功績を知った重耳は激しく後悔しますが、時すでに遅し。
霊峰に宿る山霊が、この世に遣わしたつかわした青年・介推は、二度と姿を現すことはありませんでした。

感想

伝説上の人物なだけに、史実よりは作者の想像による部分が多いです。
二十代の私としては、その不器用なまでに真っ直ぐな志に大いに心を動かされました。
多少なりとも功績を認めてほしい、そういう思いが介推自身になかったとは言えないでしょう。
ですが功績を自ら喧伝することは、彼自身の思想信条に反することでした。

多大な貢献をしながら、賞されることもなく、不遇をかこち、いないも同然の扱いを受ける。

そういう損な役回りをする人というのは、いつの時代にも存在します。

かくいう私自身、損な役回りをして不遇をかこち、人知れず涙を流したことが多々あります。
その都度、介推の逸話を思い出し、自ら戒めることにしています。
不器用でも、刺身のツマにも満たない脇役でも、多少なりとも人の役に立っている。
功を誇る必要はなく、ただ己の心に恥じぬ自分自身でありたい。
傍から見れば報われぬ人と思われるでしょうけれども・・・
そう思わせてくれる高潔さをこの小説から教わった気がします。
もっとも、なかなか身についたとは言えないことが良くありますが・・・
介推が姿をくらませたのも、その辺りの相反する複雑な思いからなのかもしれませんね。

中国の清明節では、介推が焼死したという伝承からこの時期には火を使わない寒食をする風習が生まれたといいます。
それだけで、彼は報われたのかもしれませんね。

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