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UFOにまつわる話(続編)

7月21日付のディフェンス・ニュースによれば、米国はUFO又はUAPの解明に向けた新組織を国防省内に設立したようです。
 
以前にも取り上げたテーマですが、UFOにまつわる話(前編)では2021年6月に米国のインテリジェンス・コミュニティを統括する国家情報長官室(ODNI)が米議会に対して行った中間報告の内容を紹介し、UFOにまつわる話(後編)では知的地球外生命体(ETI)との接触又は交信の可能性についてアカデミックに論じました。
 
今回はその続編となります。これまでの経緯等を振り返りながら、米国のその後の動向についてお話したいと思います(注:本稿は、いわゆる「エイリアンの乗り物」としてのUFOについて面白おかしく語るのではなく、極めて現実的な視点から米国の動向を探るものです)。
 
1 これまでの経緯等
1950年代、米空軍が識別に至っていない飛行物体をUFO(Unidentified Flying Object)と定義し、1952年から1969年にかけて、CIAと米空軍がブルーブック計画でUFO調査を行いましたが、実態の解明には至りませんでした。
  
2004年11月、カリフォルニア沖で発生した空母ニミッツのUFO遭遇事件TICTAC)を機に、2007年から2012年にかけて、先端航空宇宙脅威識別プログラムAATIPによるUFO調査が秘密裏に行われましたが、成果はあがりませんでした(米国防省は、2019年になって、密かにUFO調査を行っていたことを公に認めた)。

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USS Nimitz UFO Incident

2015年1月、再びカリフォルニア沖で空母セオドア・ルーズベルトがUFOに遭遇する事件(GIMBALGO FAST)が生起し、米国防省で高官を務めたクリス・メロン氏が、2017年にTICTACGIMBALGOFASTの3つの動画をニューヨーク・タイムズ紙にリークします(米国防省は、2020年になって、これら3つの動画が米軍による記録であることを公に認めた)。

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TICTAC, GIMBAL, GOFAST

2019年7月、またしてもカリフォルニア沖で米海軍の艦艇群がUFOに遭遇する事件が発生します。多数のUFOに取り囲まれ、一部は海中に没したというのです。
 
危機感を覚えた米国防省は、2020年8月、ノルキスト国防副長官が未確認空中現象タスクフォースUAPTFを編成し、再調査に乗り出しました(この時、UFOを未確認空中現象UAP)と再定義)。
 
議会側も危機感を覚え、2020年12月に情報権限法IAA:Intelligence Authorization Act)を成立させて、ODNIに180日以内の報告を求めました。
  
この間、2021年4月から5月にかけて、映像作家のジェレミー・コーベル氏が、2019年7月のUFO遭遇事件で撮影された一部の動画(米艦艇ラッセルから撮影された動画米艦艇オマハから撮影された動画)を自身のツイッターに投稿します(その後、米海軍がこれらの動画は軍による記録であることを公に認めた)。
 
そして、2021年6月、ODNIが米国防省と連携して未確認空中現象に関する中間報告を取りまとめて議会に報告し、その一部が公開されました。

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Preliminary Assessment:Unidentified Aerial Phenomena

2 中間報告の内容
この報告書の内容はUFOにまつわる話(前編)で述べたとおりですが、2004年11月のニミッツ事件以降、2021年3月までの144件を再調査したものです。特定できたものは僅か1件のみで、その他の143件は下記の①~⑤のいずれかと結論づけました。
 
① 鳥、バルーン、ラジコン機等の空中障害物
② 赤外線などで観測され氷の結晶や湿気等
③ 米政府や産業機関の開発物
④ 敵国のシステム
⑤ その他
 
なお、本報告では地球外生命体には一切触れていませんが、地球外生命体というよりも先ずは現実的な脅威に目を向けて、安易に「何だか分からないもの」と放置せず、実態解明に手を尽くすべきと警鐘を鳴らし、国家安全保障の要であるインテリジェンス・コミュニティの怠慢を強く戒め組織的な是正を求めたのです。 
 
あわせて、統一されたUAP報告のメカニズムと、包括的なアプローチを可能にする組織横断的なUAF分析プロセスがないことを、問題点として指摘しました。
 
3 その後の経緯 
その後、UAPTFとしての最終報告もないまま、2021年11月23日にUAPTFは解散となり、新たに飛行物体識別・管理グループAOIMSG:Airborne Object Identification and Management Group)が国防省内に設立されました。
 
AOIMSGでは、省庁横断的に連携を図りつつ、UFOやUAPに関する情報収集と実態解明に取り組むことで、艦船や航空機などの安全運航(Operational Safety)上の危険や、国家安全保障(National Security)上の脅威を軽減することを活動目的としていました。
 
先述の中間報告を受けた米議会は、2021年12月に成立したFY22の国防授権法(NDAA)に、国防省はODNIと連携し、AOIMSGよりも更に広範な責務を持つ部局を設立させる条項を盛り込みました。
 
そして2022年7月20日、このAOIMSGを前身とした全領域超常現象解決室AARO:All-domain Anomaly Resolution Office)が国防省内に設立され、ヒックス国防副長官が「UAP関連の中心的存在」と位置付けたのです。

AARO:All-domain Anomaly Resolution Office

4 この新組織の役割とは
AAROの初代室長には、国防省内で科学・技術情報分野で要職を歴任してきたショーン・M・カークパトリック博士が就任。
 
公式発表によれば、AAROは、前身のAOIMSGが担っていた運航安全上の危険や国家安全保障上の脅威を軽減する取り組みに加え、「トランスミディアムな物体」(Transmedium Object)の解明ついても、取り組みに含まれるということです。 
 
このトランスミディアムな物体とは、「空中のみならず、水中や宇宙などの他の領域間を自由に行き来できる物体」のことであり、まさに、2004年11月のニミッツ空母群のUFO遭遇事件でパイロットたちが目撃したカプセル状の物体が、その代表格と言えるでしょう。

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Transmedium Object

そういった意味では、あのニミッツ事件のインパクトは、米国にとり相当に大きかったと言えます。
 
ちなみに、軍事用語でドメイン(Domain)とは、陸上、海上、水中、空中、宇宙、サイバー空間などの「領域」を意味します。全領域(All-Domain)という言葉は米国の中でも流行り言葉になっており、これを組織名に取り入れることで、もはや調査対象はUAP、つまり空中現象に留まらないことを示唆しています。 
 
AAROの取り組みの方向
(LOE:Line of Effort)
① 監視、収集及びUAP関連活動の報告
② UAPシステムの能力・設計の解明
③ 情報収集活動とUAPの分析
④ UAPの「撃退」と弱体化
⑤ UAP関連活動のためのガバナンスの提供
⑥ 未知システムの科学・技術情報の獲得
 
そしてAAROに期待されるもう一つの側面は、あるがままの目撃情報を正確に報告させる仕組みを軌道に乗せることです。
 
国防省内に確固とした部局を作ることで、UAPの目撃情報を語った米軍の乗務員たちが笑いものにされ、時に精神面を疑われ、職を追われたすることのないように保護するとともに、国防省側も正確な目撃情報に基づくデータベースの構築と対象物の分析・評価を可能にすることができます。
 
2022年5月、米下院情報委員会での公聴会で、国防省関係者が、軍関係者からの報告件数は400件に達したと述べるなど、徐々に軌道に乗りつつあるように見受けられます。FY23のNDAAでは、このような報告システムの更なる促進と、1947年のロズウェル事件以降の歴史研究に関する条項が盛り込まれる模様です。
 
なお、2019年に創設された米宇宙軍(USSFとUSSPACECOM)への予算増額を議会側にアピールするための自作自演ではないかとする説もありますが、私自身はこれに懐疑的な立場です。

USSF and USSPACECOM

米軍の優位性は人工衛星システムに裏打ちされており、それらを脅かす宇宙ごみ(デブリ)や中露などによる対衛星兵器の動向を監視し、その脅威から人工衛星システムを守るのが宇宙軍創設の目的だからです。
 
宇宙軍は、地球周回軌道にある人工衛星や、軌道上で不穏な動きをするキラー衛星、その他のデブリなど数万~数十万の物体を24時間体制で監視するのであって、地球外から飛来する未確認飛行物体の監視が目的ではありません。米議会もその点はしっかり理解した上で予算配分していますので、宇宙軍への予算増額とは無関係といえます。

結 言
米国は、地球人が作ったのか、地球外生命体が作ったのか、別次元の生命体が作ったのか、或いは未知の自然現象なのかは分からないが、いずれにせよ「この地球上には、何かしら未知のトランスミディアムな物体が存在している」と真面目に考えている。

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Unidentified Submerged Object

また、それらが航空機や艦船などの安全運航と、国家安全保障を脅かす可能性が徐々に高まっていると認識しているようです。
 
確かに、中露などの米国以外の国がトランスミディアムな物体を開発しているとしたら、それは米国にとり大変な脅威であり、或いは地球人以外の文明によるものであったとしても、中露などの競合国に先んじてその先端科学・技術を取得したいと考えるでしょう。
 
したがって、米国防省は、今後もODNIなどの関係機関と連携しながら情報を集約し、実態解明に取り組む姿勢を、より強固なものにしていくとみられます。 
 
しかしながら、目撃情報が海軍やカリフォルニア沖に集中しているのは一体何故なのか。また、一番関心があるはずの地元紙や米第3艦隊のホームページにAARO創設に係る記事が見当たらないのは何故なのか。

このテーマは、まだまだ奥が深そうな雰囲気です。また何か新しい動きがあれば、随時、アップデートしていきたいと思います。