小説・最後のサイン
小さな疑惑
「本当に嫌になっちゃうわ」
年明け早々、黒川コーポレーション古川営業所(宮城県)の事務員・春川朋美は、昼食に出かけた喫茶店で、同僚の杉浦真弓にひとしきり愚痴を聞かせた。黒川コーポレーションは、東京に本社を置く東証一部上場の老舗建材メーカーだ。
朋美をいらだたせているのは、営業所の先輩事務員、須藤佳世子の執拗なイジメだった。就職氷河期のまっただ中に大学を卒業し、派遣社員の道を選ぶしかなかった朋美より、佳世子は3歳年上。氷河期に引っかかることもなく、正社員として黒川コ