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「小論文」とどう向き合うのか、考え方の話。

2024/4/2 更新

お読みいただきありがとうございます。MSA齋藤直哉です。

今回は入試科目として「小論文」についての考え方についてお伝えしたいと思います。

「小論文は難しい」という印象をお持ちの方。なにが「難しい」と感じているのか少し考えてみましょう。書くことが苦手、という意識をお持ちの方もいるかも知れませんが、やはり、課題文をきちんと理解できるか不安だという意味での難しさを感じている方が多くいます。

その通りです。課題文は難しいものも多いです。

まずはここをなんとかしないと、「小論文」として文章構成、論理展開のような「書き方」を学んだところで、いわゆる小手先のテクニックになってしまいます。


課題文を理解するための読書

課題文をきちんと理解するためには、予備知識がどうしても必要です。イメージとしては岩波新書や中公新書のレベルの書籍を、月に2〜3冊(もちろん、夏休みは多め)ぐらい読書しながら、しっかりと固めていく感じです。

しっかりと固めるというのは、読書をしながら、わからない表現があれば調べたり、ポイントをノートに整理したりすることを意味します。これは「後で使うための材料集めの読書」でもありますから、自分なりにまとめる必要があります。

読みながら、重要だと感じたところに線を引いたり、付箋を付けたりして、後で読み直し、その部分を抜き出してノートに書いておくだけではなく、自分なりのコメント、メモを添えておくことが重要です。

わたしは、本は3回読むことにしています。と言っても、毎回同じように3回読むわけではありません。2回目、3回目は「目を通す」と言ったほうが良いかも知れません。

1回目。自分で購入した書籍の場合は、鉛筆を片手に読み進めながら、気になった箇所に線を引いたり、印をつけたり、自分で思いついた言葉を自由に余白に書き込みながら読書をします。

2回目。1回目に線を引いた箇所を中心に読みながら、付箋を付けます。この時、付箋を1冊あたり10枚に限定しています。そうでないと、付箋だらけになってしまい、自分にとって重要な箇所がわからなくなってしまうからです。

3回目。付箋がついている箇所を読みながら、書籍に書いてあることを書き写します。いまは Roam Research に入力しています。そして、大切なのが、書き写した文章に加えて、自分なりの考えや思ったことを入力しておくことです。「抜き書き+自分の言葉」にします。

( Roam Research については、note にも詳しい使い方を書いている方がいらっしゃいますので、そちらを参考にしてください。わたしは2024年の段階では Roam Research から Notion に切り替えています。こちらの使い方も良記事がたくさんあります。)

この「自分の言葉」にする作業が最も重要です。本のある箇所について自分がどう思ったかを書くのですから、感想のようになります(最初はそれでもOKです)が、「面白かった!」だけではあとから使えないので、もう少し具体的にコメントしておきます。

「美味しい!」「うまい!」としか言わない食レポから、もう一歩踏み込んでどう美味しいのかを伝えようとしてみる感じでしょうか。

例えば『英語独習法』を読んだ際のメモはこんな感じです。


①言語化されない水面下の知識が鍵

②「使えることばの知識」、つまりことばについてのスキーマは、氷山の水面下にある、非常に複雑で豊かな知識のシステムである。スキーマは、ほとんど言語化できず、無意識にアクセスされる。p.28

今井むつみ『英語独習法』

③この学びの重要性に気づいていなかった。アカデミックレベルでの運用力もこれが求められるのだろう。英語学習者が日本にいながら、いかにして、このスキーマを磨いていくか。圧倒的な時間が必要。正規留学生の強さはここにある!


②が引用です。気になった箇所を正確に書き写します。ページ番号も忘れずに。わたしは紙の書籍を読むことのほうが多いので、書籍を見ながら該当箇所を入力します。Kindle なら作業ははかどるのですが、簡単にコピーできる分、引用箇所が増え過ぎてしまった経験があります。

①は「見出し」のようなものです。なんとなく頭に入れておきたいフレーズや内容を思い出すためのきっかけになりそうな文を自分で考えて書きます。

③は自分のコメントです。思ったことやここから派生することなどを、自分の問題意識に寄せて書きます。この段階では完全な思考の塊ではなく、メモ書きのようになるものも多いですが、それで構わないと思っています。こうした断片が頭の中であとで繋がりを持つことになります。

②の引用を書き写し、③のコメントを書いて、①の見出しを考えるという流れです。

だいぶハードルが上がってしまいました...。

できることから始めてみましょう。

それでも、小論文は知識比べではない

一方で、ただ単に多くの知識を持っている人の評価が高いわけではありません。そうであれば、それは「小論文」という試験スタイルで試す必要はないはずです。

例えば「AI技術を医療に導入すること対してあなたはどう考えるか?」といった問いに答える際に、AIが何かを知らねければ書けないことは間違いないでしょう。たとえば、この問題を小学1年生が見たら「医療ってなに?」となるはず(たぶん)ですが、それと同じこと。

そして、この問いに対して出題者が書いてほしいと期待していることは、新聞や雑誌、ニュースで取り上げられているような「一般論」でしょうか。

「AIの判断を信頼して、医療ミスが起きた場合、誰が責任をとるのか」といったものは、これまでに「どこかで聞いたことがある話」です。ここにはまだ書き手の「主張」がありません。ここが小論文が小論文たるゆえんです。小論文は「論文」です。書き手の「主張」がなければ成立しません。

そして、この「主張」に「オリジナリティ」がほしいのです。

判で押したような似たりよったりの答案に埋もれずに、ハッと採点者の注意をひくような、他の答案との差異が明確なものが必要です。

「オリジナリティ」を出すためには、深く深く自分で考える必要があります。これは普段からの習慣でもあります。本を読んだとき、ニュースを見たとき、新聞の記事を読んだとき、その情報をただそのまま受け入れるのでなく、自分で考えてみる。自分なりの意見を持ってみることがその根底です。

普段からこういう習慣のある人を学生として自分たちの大学に集めたくて、「小論文」という科目を課しているのだと思います。

「オリジナリティ」は、突飛なことを言うことではありません。オリジナリティある「主張」には、明確な「根拠」がセット。この「根拠」を示すためには、ある程度の知識は必要です。「根拠」にオリジナリティをもたせても、説得力は上がりません。納得してもらうための土台としての知識が必要です。

明確な「根拠」を書くために、普段から知識を積み重ねる。その手段としての読書は欠かせない。そして、知識を吸収する過程で、自分の中に芽生えた「違和感」や「疑問点」などを手がかりに、自分なりの「主張」を持つ。これが「オリジナリティ」につながる。

こうした姿勢そのものが、小論文の力をつくっていきます。

小論文では「生き方そのもの」が問われていると言っても、それほど大げさではないかもしれません。

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