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詩 「ひとりの女」


女は泣くのに疲れると
布団に潜り、目をつぶった

そして思った

わたしはどうしてこんなに
孤独が苦しいのだろう

人はどうしてこんなに
ひとりぼっちなのだろう

その例えようのない
さみしさを潤すには
毎夜の涙では足りなかった

ともだちと会っても
好きな人がとなりにいても
母の声を思い出しても
どこにいても
なにをしていても
孤独が虚しさとなって
心に付きまとうのだった

女にはもう、流す涙もなく
ただ乾いた孤独があるだけだった

今日は女の二十代
最後の一日であったが
女はひとりでいることが
さみしかったわけではない

考えることにも疲れると
女はそのまま眠った

何百年、何千年もの
月日の経過を思わせる
長く深い眠りだった

微かな光さえ届かない暗闇を
女はただひとり、歩き続けた

明くる朝
女が目を覚ますと
朝陽が全身を祝福し
鳥や木々や風や海や
時計の秒針までもが
孤独の井戸を潤すのを感じた

そして思った

わたしは
ひとりなのだ、と

これまでも
これからも
ひとりなのだ、と

女はその朝
生まれたての
三十歳になった

そのようにして
女はひとりの女になった



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