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詩 「牛丼怪談」


あれはたしか
私が高校二年生の頃でした。

当時私は剣道部に所属してまして
その日も夜遅くまで練習して
帰路についたのは夜八時くらいでした。

帰り道の途中、
あまりの空腹に耐えられず
牛丼をテイクアウトで買って
歩きながら食べてたんです。

当時、学校から家までの道中には
地元で有名な心霊スポットがあって
その廃病院の前を通るルートでないと
とても遠回りになってしまうので
その日も「怖いな〜なんか嫌だな〜」
と思いながら牛丼歩きしてたんです。

それで、ちょうど
その廃病院の前に差し掛かった瞬間
誰もいるはずのない建物から
「パカっ」という物音が聞こえたんです。

とっさに「逃げなきゃ!」
と思ったんですけど、
私の両手は牛丼を持ってますよね?
それを捨てて走るなんてあり得ません。
吉野家の大切な牛丼ですからね。

で結局、私はどうしたかというと
牛丼を食べながら小走りしたんです。
牛丼を揺らしながら必死で食べました。
おそらく泣いていたと思います。

すると私の後方から「ザッザッ」と
足音がついてくるじゃありませんか!

こんなことでは
牛丼を味わう余裕なんてありません。
恐怖で箸と牛肉がプルプル震えました。

その足音の正体を確かめようと
私は意を決して歩みを止めました。

すると、
その足音も同時に止まります。

そして、
振り返った、そこには、、!

サイケデリックな柄の服を着た
髪がベリーショートの女性が
食器のようなものを持って
こちらを睨むように立っていました。

私はその姿を見た瞬間、
彼女が霊だとハッキリ分かりました。
胸に「霊」という名札がありましたから。

そのとき私が感じたことは
彼女が幽霊のステレオタイプである
「白い服を着た髪の長い女性」
ではなかったという驚きと
早く牛丼が食べたい、
という食欲でした。

そして、彼女は
「ん!これっ!」と言って
その食器を私に渡そうとします。

今思い返しても
非常にジブリるんですけど、あれは
トトロに登場するカンタの口調でした。

とにかく、、
私はそれを受け取るしかありません。
なんだろう?と思って中を見ると、、

それは生卵だったんです。

そうか!
あの「パカっ」という音は
卵を割る音だったんだ。
そして彼女が私についてきたのは
生卵が牛丼と相性抜群なことを
知らせようとしていたんだ。
私が生卵を注文しなかったから。

なるほどな、と思いました。
いらっしゃいませ、とも思いました。

牛丼好きの彼女としては
生卵なしで食べるという愚行が
許せなかったんですね。

ありがとう、と言いました。
霊はカンタ風に頷きました。

その食器と生卵は
目には見えているのに
触れることはできません。

私はエアー生卵を溶き
現実の牛丼にかけました。

彼女はニッコリ笑い
再び廃病院へと消えていきました。

以来、私は
牛丼を食べるときは
必ず生卵を注文しています。

これは私が
実際に考えた
つくり話です。

生卵ありかなしかは
あなた次第です。



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