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「ホロコースト」作品を四本見た感想

そう言えば、シンドラーのリストって一回しか見たことなかったなぁと思って、Netflixで鑑賞してみたのが四本連続視聴のきっかけだ。公開時には見ておらず、だいぶ経ってから多分レンタルビデオ屋さんで借りてみたような記憶はある。アンネの日記すら読んだことのない私にとっては、ホロコーストの知識などあんまりなかったから、当然ながら余りに衝撃的過ぎてスピルバーグは残酷描写が好きだから過剰演出じゃないのか? などと当時は思っていたりもしたのだけど、その後徐々に、実際はもっとずっと酷いということを知った。では感想を書く。

シンドラーのリスト

公開:1993年 アメリカ映画

監督:スティーブン・スピルバーグ

評価:★★★★★

有名すぎる映画なので、内容は語るまでもないだろうと思うけど、自分なりの理解という意味で簡単に概要を書く。

1939年9月、ドイツ帝国は国境を東側に接するの隣国ポーランドに侵攻し占領。ポーランドに住むユダヤ人は有名なワルシャワ・ゲットーを含めた、ゲットーと呼ばれる狭い地域に押し込められた。その一つの都市であった クラフクにオスカー・シンドラーがやってくる。彼は軍需に目をつけて一儲けを企む商売人であった。そして安い労働力欲しさにクラフクのゲットーにいたユダヤ人達に目をつけるのである。シンドラーはドイツ軍の有力者を巧みに味方につけて、どんどん儲けを膨らませていくのであったが、そのドイツ軍の有力者の一人に親衛隊将校アーモン・ゲート少尉がいた。ゲートはクラフクにあった強制収容所の所長であり、冷酷残忍で知られていた人物であり、収容所内の囚人を恣意的にライフル銃などで500人以上撃ち殺したとされる。当初は労働力としてのみユダヤ人に興味がなかったシンドラーであったが、自身の工場のユダヤ人もクラフク強制収容所に入れられてしまったことをきっかけに、せめて自身の工場で働いていたユダヤ人だけでも命を救おうと奔走するようになる。

というような筋立ては大体の人が既に知っているだろう。リーアム・ニーソンの出世作でもあるわけだが、ラストでニーソン演じるシンドラーが「もっと一人でも多く救えたのに」と嘆き悲しんで、自身が救ったユダヤ人と別れるシーンの演技でほんとにこっちも号泣してしまった。史実のシンドラーは戦後、結局一文無しになり戦後の事業にも失敗して否かに隠遁生活を送る生活をした後に、イスラエルの人々に感謝されて、最後はエルサレムの墓地に埋葬されるのだけど、映画のラストは映画撮影時に生存していた実際にシンドラーに救われた人達とその人達を演じた俳優が一緒になってその墓石の上に追悼の石を置いていくシーンになっていた。そんなシーンがあったなんて全然覚えてなかったけど、このシーンを映画のラストに置くことで実際にあった実話であるということを強調する意図があったのだろう。

さて、シンドラーのリストで何より大事なのは、この映画は極めて忠実にリアルなホロコーストを描いたことである。実際のところシンドラーの美談はホロコーストの現実を描くためのサブストーリーに過ぎない。前述した通り収容所所長のアーモン・ゲートが恣意的に囚人を殺しまくったのは本当だし、映画では流石に書けなかったのだろうけれども、ライフル銃や拳銃だけでなく監視用の犬に食い殺させたりしていたらしい。収容所内での絶滅収容所送りにするためのユダヤ人の選別で演者たちをほんとに全裸にしてしまったり、流石にホントの肥溜めではないとは思うけれど、糞尿の中に潜んで絶滅収容所送りにならないように隠れた子ども達など、他にも様々な現実にあった事実を描いたシーンの数々には、正直余りにリアル過ぎて見ていてこっちが引くくらいだった。繰り返すけど、全部ほんとにあった話なのである。スピルバーグはこの映画を白黒で撮った理由を、第二次大戦中の映像は白黒が多いので、映画も白黒にした方がリアルさを増すということであったらしいのだけど、カラーにしてまったら余りに生々し過ぎるという判断からなのかもしれない。

しかし、このホロコーストを信じない人がいた、というのが次の映画である。

否定と肯定

公開:2016年 イギリス・アメリカ合作映画

監督:ミック・ジャクソン

評価:★★★

プロモートされていた時には観てみたいなぁとは思っていたのだけど、すっかり忘れていて、シンドラーのリストを観てからはたと「確かなんかそんな映画あったよなぁ」と検索したら見つかったので観てみたわけである。

時期的に、多分こうしたホロコースト否定派はシンドラーのリストが一つの契機になってるんじゃないかと思うのだけど、日本でも文藝春秋社が当時発行していた雑誌『マルコ・ポーロ』がホロコースト否定論の記事を載せて一発で廃刊になって社長まで辞任しちゃったという結構な騒動があったのを覚えている人はいるだろうか?

どうしてホロコースト否定論が一時期盛り上がりかけたかと言うと、1980年代にアメリカ人のある人がある裁判のために「ガス室なんかない」と発表したからだろう。いわゆるロイヒターレポートである。この映画でもその話は登場する。まぁ色々と知っていたらそんな馬鹿な話はするわけがないのだけど、このロイヒターレポートは科学的体裁(邦訳がこれでこれを事細かに批判的検討する気など普通は起こらないだろう)を取っていたので、一部の人には非常に説得力があるように見えたのである。確かマサチューセッツ工科大学調べだっけ? そこにアウシュビッツで無断でサンプリングした試料を送って調べてもらっただけなんだけどね。

私のなけなしの素人知識を少しだけ紹介すると、毒ガスで殺すというアイデア自体は、収容所のガス室以前からあったわけだ。ナチスドイツがどうしてそんな事を思いついたかというと、実は絶滅収容所のガス室以前にT4作戦と言って、障害者などを安楽死させてしまうということをヒトラーの極秘命令に基づいてやってて、その中の一つの方法としてガス殺をやっていたのだ。その時は一酸化炭素を用いるものだったけど、もっと効率よく殺そうとして研究し、チクロンBといういわゆる青酸による殺虫剤をアウシュビッツなどのガス室で使うようになったという流れである。おそらくは、多くのホロコースト否定論者はこの程度の知識すらない。

ともかくも、この映画はある意味そのロイヒターレポートに騙されたとも言えるホロコースト否定派の歴史学者アーヴィングが、自身を名指しで批判した書籍を出版した主人公の大学教授デボラをイギリスで名誉毀損で訴えるという話である。結果的にはこのアーヴィング、この裁判に負けた後にオーストリアで告発されて、懲役刑を食らっている。また相当懲りたのかホロコーストも結局認めている。

映画自体は、主役のデボラを演じたレイチェル・ワイズにちょっと苛つく。主役で被告なのに裁判には邪魔だったという変な感じになっててね。デボラ本人がこんな人だったのか、よくわからないところではあるけど、せっかく弁護団が実に巧みな法廷戦術で確実に勝利しようとしてるのに、その弁護団が反対しているホロコースト生存者に裁判で証言させることを勝手に約束してしまったり、そりゃあんな風に弁護団から怒られて当然という情けない有様にはがっかりでございました。あと、法廷弁護士を演じたトム・ウィルキンソンと事務弁護士を演じたアンドリュー・スコットは個人的に好きな俳優さん。特にアンドリュー・スコットは、BBCのドラマ『SHERLOCK』でのモリアーティ役が素晴らしい。

ただ、この映画の重要なところは、こうした歴史修正主義者的な主張というのは、ほんとに些末なところをつついて全体を否定、もしくは矮小化をするという手法は共通しているという点。そうやって、歴史的事実とされるものに不可解な点があると印象づけて、その背後に何やら陰謀めいたものの存在を主張するというやり口は、私自身がよく知っている南京事件でも共通する。

なおホロコースト否定論を主張したら、ドイツを含む海外数カ国では犯罪になるのでお気を付けを。日本では犯罪にならないからか、この項の冒頭で述べたマルコポーロで否定論記事を書いた人は、あれから二十年以上経ってもまだ否定論を主張している。否定論ではなく修正論らしいけど。

そこまで言うんだったら是非次に紹介する動画を見てもらいたいくらいだ。

ナチスの強制収容所(Netflix)

製作年:1945年 アメリカ

評価:★★★★

これは、この動画の冒頭でも紹介されているように、アメリカ軍がドイツの占領地開放時に各地の強制収容所を直に記録した記録映像である。ナチスドイツは有名な絶滅収容所であるアウシュビッツ以外にも、ドイツ占領地の各地に多数の強制収容所を持っていて、ユダヤ人や共産主義者だけでなく政治犯や反逆者などもそれらの収容所に強制収容した上で、およそ人道に反した扱いをそれら囚人に対して行っていた。

おそらくはこの動画は、そのうちでも特に酷かった収容所についての映像記録で、あまりにも惨たらしい莫大な数の死体、生き残っていた人達の極限までやせ衰えた姿などにはほんとにここまで酷いことをやったのかと、どう感想を述べたらいいのかわからないくらいである。正直、見るに堪えない映像なので、是非見て欲しいとは言い難い作品なのではあるけれど、もしホロコーストに疑問を持つのであれば、一度見て欲しい。

途中で、ナチスがこんな拷問をやっていたと、実際の道具を用いたりして解説する映像が出てくるのだけど、そんなことをほんとにやっていたのだと想像しただけで残忍過ぎて吐き気すら覚えた。

こうした貴重な映像まで閲覧させてくれるNetflixは偉いと思うよ。でもほんとに見るのは覚悟がいるので、閲覧には十分ご注意を。映っているのはホラー映画に出てくるような作り物じゃなくてまじもののホントの死体だからね。

追記:多分、同様の記録映像は他にもあって、うちアウシュビッツの様子を記録した映像である『夜と霧』という短編映画もあるが、私は未見。

戦場のピアニスト

公開年:2002年 ドイツ・ポーランド・フランス・イギリス合作映画

監督:ロマン・ポランスキー

評価:★★★★★

シンドラーのリストに並ぶホロコースト大作として有名なのだけど、ほんとに個人的なんだが、これ以上に残酷なホロコースト映画はないと思っている。残酷と言うか、残忍鬼畜無比なナチスドイツと言うか、たった一つのシーンが、この映画を始めて見て以来、頭から離れたことはなく、ホロコーストのことを何かで見たりする度に即座に思い出される。それは、ワルシャワ・ゲットーで暮らすシュピルマン家族の住む住処に対面するアパートから、突然やってきた親衛隊に老人が窓から突き落とされるシーンである。シンドラーのリスト一本以上にショッキングで、一番最初に見た時はシュピルマンの母同様に声が出た。

比較したところでどちらに優劣があるというわけではないのだけど、ホロコーストをほんとに実感はしていないスピルバーグと、実体験をしたポランスキーの差が現れているような感じはする。スピルバーグはあくまでもナチスドイツを史実上の悪として描くのに対して、ポランスキーはこんなことがほんとにあったのだという事実を書こうとする差なのだと思う。その差が、たった一つの残酷なシーンの衝撃度に現れているような気がする。

こんな話を聞いたことがある。ワルシャワ・ゲットーに住むユダヤ人に対し持っている貴金属などを全て出せと迫り、それらが少ないと見るや、居住区の各ブロックの角に位置する住居から男を二名ずつ外へ引きずり出して、射殺してしまったという。こうした無茶苦茶なことを、ナチスドイツは普通にやってのけていたのである。

そういうわけで、私はこの映画が最も素晴らしいと個人的には思っているのだけど、冷静に見ると、五星をつけながらも実は不満に思っているところもなくはない。元になったシュピルマン本人の体験記がどうだったのか知らないんだけど、家族が絶滅収容所送りになってシュピルマンと生き別れになって以降、シュピルマンは家族のことなんか一度も思い出しもしないというのはちょっとなぁ・・・。生き抜くのが大変だったというのは分かるのだけど、どうにかして描き様はなかったのだろうか? 助けてもらったドイツ軍将校の捕虜にされてた場所には行くのに、非常にその変バランスが悪くて。


というわけで、四本ほどホロコーストをテーマにした映画の感想を書いてみました。


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