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アウシュヴィッツの様々な議論(23):考察:何故アウシュヴィッツの最初の死亡者数推定値は400万人だったのか?

今回は最も短い記事になります。単なる考察です。

アウシュヴィッツの死亡者数推計値、400万人という数字は既に否定され、現在はユダヤ人だけで110万人、非ユダヤ人を含めると150万人となっています。400万人という数字は、ソ連のアウシュヴィッツに関する報告書、またはポーランドが発表した数字などと言われておりますが、どう考えてもアウシュヴィッツ火葬場の遺体処理に当たったゾンダーコマンドの生存者の証言が元になっていると推定されます。

ヘンリク・タウバーの宣誓供述書(1945年5月24日)

ゾンダーコマンドの一員としてアウシュビッツの火葬場で働いていた期間中、ガスを浴びた人の総数は約200万人と推測しています。アウシュビッツ滞在中、私は連れてこられる前にアウシュビッツの火葬場やバンカーで働いていた様々な囚人と話をする機会がありました。私が火葬場で働き始める前に、第1、第2バンカーと第1火葬場ではすでに約200万人がガス処理されていたと言われました。そのため、アウシュビッツでガスを浴びた人の総数は約400万人と推定しています。この数には、ユダヤ人とアーリア人の両方のヨーロッパの様々な国からの様々な輸送や、選抜の結果、ガス室に送られた収容所の囚人が含まれています。

スラマ・ドラゴンの宣誓供述書(1945年5月10日と11日)

他の国籍については、私は数字を知りませんし、アウシュビッツ収容所の火葬場で、個々の国や国の人が何人ガスを浴びたかは言えません。私は、バンカーと4つの火葬場の両方でガスを浴びた人の数は400万人を超えていたと思います。ゾンダーコマンドに雇われていた他の囚人も同じように考えていました。

アルター・ファインシルバーの宣誓供述書(1945年4月13日)

私自身の観察と他のゾンダーコンマンドの囚人との会話から、ゾンダーコンマンドが存在している間、つまり約2年間、200万人以上の人々がビルケナウの火葬場とバンカーで焼却されたと結論づけています

ファインシルバーについては抑留期間が約半分であり、タウバーが概ねその前の期間に200万人と言っていることから、これは同じ推計値を指していると考えることができる。

では、一体どうやって、ゾンダーコマンド達は犠牲者数の推計を行なったのでしょうか? これには一つの類推資料があります。

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これはゾンダーコマンドのザルマン・レヴェンタルが、いわゆるアウシュヴィッツの巻物として残した記録であり、ゾンダーコマンド達はこのようにして、自分の仕事に直接関わる遺体処理数かまたはガス室遺体の数をメモするなどして把握していたと考えられます。

では仮に、彼らの把握していた遺体処理数が決して出鱈目なものではなく、ある程度は正確な値であったと仮定してみましょう。なのにどうして、400万人という四倍もの数字になってしまったのでしょう?

それは実は、ゾンダーコマンドは、要らなくなると殺されていたことに関係すると考えられます。要するに必要人員数の調整を親衛隊が行っていたのです。遺体処理のゾンダーコマンドは常に必要数しか存在させられなかったとすると、未稼働状態のクレマトリウムがあったことをほとんど知らなかったのではないかと考えられます。遺体処理に当たったゾンダーコマンドはただ忙しかっただけなのです。長い休みを取るようなゾンダーコマンドは存在せず、それは殺された(あるいはそもそもいなかった)ことを意味します。

クレマトリウムの能力実態をここで推計計算します。ビルケナウにはレトルトあたりで46炉設置されていたのですが、実際にはクレマトリウムⅣはすぐに壊れて永久に使用できなくなっており、クレマトリウムⅤも故障が多く概ね半分の期間しか稼働していなかったのではないかと考えられます。すると、ビルケナウの火葬炉はクレマトリウムⅡとⅢで合計30炉、Ⅴは8炉あったので、稼働期間平均をとって常時4炉と仮定、実質的にはトータルで34炉しかありませんでした。

ビルケナウ火葬場の稼働期間は1943年3月頃から、1944年11月頃までですが、完成時期にズレがあるので、簡易推計計算のため平均を取って1943年5月頃稼働開始とします。すると概ね550日間稼働したことになります。

そして、概ねの計算上の1時間あたり・1炉あたりの遺体火葬数を4体と仮定します。

故に、

550日間 × 4体  × 34炉 × 24時間 = 179万5,200体

と算出されます。これに、ハンガリー作戦時の野外火葬が20万体くらいあったと仮定すると、ほとんどタウバーらが把握していた半分の期間の推計値、200万体に一致するのです。

しかし実際には、彼らが知らなかった火葬能力未満で処理していた時期、すなわち、使えるのに使われていなかったクレマトリウムがあったのです。ゾンダーコマンド達は必要人数しか常にいなかったので、存在していたゾンダーコマンド達は常に忙しく、休暇中のクレマトリウムがあるなんて、ほとんど知らなかった

もちろん、生き残ったゾンダーコマンドであるタウバーらはその前の期間の状態をまるで知らなかったため、自分たちの状態から類推して、常に忙しかったと仮定してしまい、200万の倍の400万人だと思い込んでしまったのではないかと考えられます。

考察ですので、断定はしかねますが、ゾンダーコマンド達は決して完全な当て推量で言っていたのではなく、この程度の根拠の元にしてある程度の推計計算を行なった上で、囚人同士で話し合っていたものだと思われます。

以上、短かったでしょ?😉

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