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怖い話を……

学校訪問にお招きを受けた学校さんで、
『怖い話をしてください』
とお願いされたことがあります。

さすがに…福祉講話の授業の場で、真っ昼間から稲川淳二先生みたいな真似をするのもおかしいだろうと思い…
「子どもさんが喜んてくださるなら、それもやらないことはないですよ。楽しんでもらうことも大切ですからね。
でも、怖い話をするんであれば、別に私でなくても良いのでは?」
と、担任の先生に質問しました。
私はあくまで車いすユーザーであり、福祉講話の話し手です。
一切の笑いもなく、静まり返ってお通夜のようになっている教室で話すのもイヤですが…
あくまで授業としてお招きを受けたからには、なるべく子どもさんの生活の役に立つような話をして帰りたい。笑いを取るだけで終わりたくない。という気持ちがありました。
私の問いを受け止めた先生は……
『お恥ずかしい話ですが……普段の授業でさえ、ちゃんと聞いてくれているか分からない……落ち着きのない子が数人いるのです。
他の子たちもみんな……落ち着きのない子に引っぱられて騒いでしまうような教室なんです』
どうやら、学級崩壊という深刻な状態ではないまでも……
ちょっと気を抜けば、担任の先生の制御を逸脱してしまうような、難しい教室のようでした。
『ですから、今から《車いすの人がお話をしますよ》と言っても……難しいと思うんです。《怖い話をしてくれるよ》と言って場を和ませれば、なんとか聞く耳を持つようになるかも』
というわけで、私は水木しげる先生の《妖怪百物語》という本から、短めの話を一つ選び、内容を暗記して当日に臨みました。
教室に入り……子どもさんの前へ。
開始前、聞いてみることにしました。
「このクラスのみなさんは、怖い話が好きみたいだから、怖い話もできるけど……怖い話と車いすの話、どっちが先に聞きたいかな?」
すると子どもさん
間髪を容れず、『車いすの話‼️』
と答えてくれました。
『そういう車いす、見たことない‼️』
『どこで売ってるの⁉️』
『なんで歩けないの⁉️』
どうやら……電動車いすに乗った私を目の前にして、興味を持ってくれたようでした。
こうなれば、いつもの私の流儀が通じます。
「この車いす、お値段わかる人いますか?」
一方的に私が話すだけだと、つまらなくなってしまう子もいます。
積極的に話かけてくる子どもさんが多い場合には、私も事前の段取りを破棄して、子どもさんの質問に答え、会話のキャッチボールをすることに専念します。
一つ二つと質問に答えていくうちに、あっという間に時間が過ぎて……
『楽しかった‼️』『面白かったよ‼️』
『ありがとうございました‼️』
最後に子どもさんたちが、声をかけてくれました。
担任の先生。口をばかっと開けてびっくりしてました。
『担任の私も、仲良くなるのに時間がかかったのに……あの子たちがあんなにしっかり話を聞くなんて』
というので、
「車いすの障害者が珍しかっただけですよ。最初に子どもさんが興味を持ってくれましたから、あとは私がそれに返事をしただけですよ」
と、正直に自分の感想を述べました。
私にしてみれば、話し手の自分が何をしたかより、関わり方が難しいという子どもさんたちが、私をすんなり受け入れてくれたことに感謝。なのですが……
『それができるのは、すごいことですね』
と言ってくださる先生でした。
「私は、今この時だけ、この日だけ教室にいればいいだけですから、やり方はどうとでもなります。毎日あの子たちと一緒にいる先生のご苦労に比べたら、大したことはないですよ」
とお返事しました。
これは、先生の前では言わずに飲み込んだ言葉だったのですが……
『この子はこういう子』『あの子はああいう子』という偏見をなるべく持たず、こちらが決めつけないこと。
子どもさんと話が通じないなと思ったら、大人の方で話し方や接し方を変えてみることが大事だな。と思っています。
教室という場は、大人が一方的に話すだけの場でも、子どもさんが好き勝手に騒ぐ場でもないはずです。
大人も子どもも、共に同じ教室を共有する相手として、良い雰囲気をどう作るか……
という事なのですが
マニュアルの内容に沿った授業を。マニュアルから逸脱しない授業を。ということに気を取られると、
その時子どもさんが知りたいこと、その時、子どもさんが話したいことに気を配る余裕がなくなります。
…この人は話を聞いてくれない。決められた授業をしているだけなんだ…と感じてしまえば、それだけ子どもさんの信頼は遠くなってしまうのでしょう。
とはいえ…
担任の先生も大変だなと思いました。
決められた授業を、決められた通りにこなさなければなりませんから。
自分のやり方を通せる私とは、そもそも勝手が違いますからね。
とりあえず、怖い話をしなくてよかったのには助かりました。
ちゃんと上手に話せるかどうか、自信がありませんでしたから。

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