怒りよりも「おせっかい心」が勝るマレーシアの人々【マレーシア思い出話】【マレーシアの運転事情】
マレーシアの思い出話をするとしたらコレ、というエピソードがいくつかあります。そのうちの1つを今回書きたいと思います。
* * * *
ある平日の午前中
その日私は、ひとりで車を運転して、初めて行く場所にとある用事を済ませるために向かっていました。
私は運転が得意ではありません。
その前日も初めての場所に子連れで遠出していて日が暮れてから帰宅していたこともあり、連日の運転で少し気持ちが疲れていました。
こんなときこそ、安全運転。
その日は平日の午前中、珍しく朝から2件も用事を入れていて、1件目の用事を済ませ、2件目に向かっていました。時間が少し押してしまい、次の予定の予約時間にギリギリな感じでしたが、「安全運転」と自分に言い聞かせながら、スピード控えめ、慎重に車を走らせていました。
マレーシアは、東南アジアなのでお察しの通り、運転の荒いドライバーも多いです。
ラウンドアバウト(環状交差点)に来た時、その日に限ってそこは工事中で道路が狭くなっていました。「気をつけなくちゃ」と私は思いました。
私の後ろには、もっとスピードを出したそうな白いメルセデスベンツがいました。
「あおり運転」じゃないですが、マレーシアの人は車間距離が基本的にせまいです。日本人の感覚からするとあおられているように感じてしまいますが、彼らにとってはそれが普通。わかってはいるものの、後ろにぴったりとついてくる白いベンツの存在にちょっと焦ります。
私は運転が苦手で、運転に関してかなりの小心者なので、それだけで内心けっこう(かなり)ドキドキです。
ラウンドアバウトを超えると、そこは二車線道路。その大きな白いベンツは一度私の左側に来て、一旦下がったかと思うと、今度は右側に並びました。運転者は裕福そうな30代くらいのチャイニーズ系の女性でした。
彼女は明らかに私に向けて、追い抜きざまに気になるゼスチャーをしました。
「親指を立てて後ろを指さす」仕草です。
(私は右ハンドル車、彼女は左ハンドル車だったので、横に並んだとき運転者同士の距離が近い)
その表情は無表情で、何を伝えたいかは読み取れません。
彼女は「伝えたからね」と言わんばかりにスピードを上げて、颯爽と走り去っていきました。
うしろ、うしろ?
その女性の手振りは、どうみても「うしろ、うしろ」。
後ろに何かある?
煙か火でも出ていたらどうしよう!?と私は焦りました。
マレーシアの車はよく故障します。
車検制度のようなものが機能していないため(制度はあるけど罰則がないとか)と聞いたような気がしますが、高速道路や幹線道路を走ると、道路わきに止まった故障車を見かけない日はありません。
私は、街中で派手に車の後部から炎を噴き上げている車を見たことが1回、高速道路上で炎上し黒焦げになった車の残骸を見たことが1回、「ウチの車がガレージで突然火を噴いた」という話を聞いたことが1回あります。
ちなみに、プロパンガスを運んでいる軽トラックが横転して道路の真ん中で逆さになり(誇張でなく本当に逆さま)、広い道路にプロパンガスのタンクがごろごろと転がり(マレーシアのプロパンガスは小型です)、運転手と助手がごろごろと転がしながら回収してる、という脇を通り抜けたこともあります。
その他、街中の路上で動かなくなった車を人力で押しているのを見たことも数回あります(でもみんな楽しそうで悲壮感がない)。事故もたくさん見ました(けが人が出ていない事故が多かったのは幸い)。
乗っていたGrab(タクシー)が突然煙をふいて高速道路上でエンストしたこともあります(あれは焦りました)。
車から火や煙が出ることはマレーシアでは珍しいことではないのです。
他人事ではありません。
ただし、私の乗っていた車は整備はちゃんとされていたはずなので、本気でそこまで心配はしませんでしたが、そのベンツの女性の「うしろ、うしろ」にドキッッッとさせられたことは確かです。
なにしろ、車の運転が苦手で超小心者なのですからとても気になりましたが、そこは高速道路の入り口のすぐ近く。車を止めることができないまま、高速道路に入ってしまいました。
ミラーで後方確認したら、煙や炎が出ている様子は皆無。異音も特にしません。
では、何かを引きずっているの?何かついているの???
と疑問を残したまま、車は高速で走り続けざるを得ませんでした。
早く高速道路をおりたい…!そして確認したい……
でも、安全運転、安全運転。とにかく何にもぶつけない。
と呪文のように心の中で繰り返しながら運転を続けます。
用事の予約の時間も迫ってきています。
焦らず、着実にたどり着かなければ。
小型バスも、乗用車も
ただでさえ車間距離が狭いマレーシア人ドライバーですが、その日はなんだか、すべての後続車にいつもよりピッタリ付かれている感じがします。
やめて……(泣)
運転小心者の私はビビっていましたが、安全運転、安全運転、とにかく何にもぶつけないように。と自分への呪文を唱え続けます。
平日の午前中の高速道路は空いていました。
なのに、ふと後ろをみると、白いマイクロバスがピッタリとくっついてきていました。
高速道路は4車線はあって、車もまばら。それなにになんで私の後ろにぴったりくっつくの?
しかもその上、マイクロバスはハイビームをちかちかとしてきました。
なんでこんなに空いているのにあおってくるのー?
安全運転だけどそれなりに迷惑にならないだけのスピードは出しているのに、とまたドキドキです。
その車は私の左から私の車を抜かしていきました(マレーシアでも車は基本的に右ハンドル。右ハンドル車は左から抜かす方が運転者が私に近い)。そして振り向きざまになにか言いたそうにその運転手はまた
をしてきます。
やっぱり、後ろになにかあるにはあるんだろうな、と確信はしましたが、教えてくれる人も切羽詰まった表情ではないので、何かはあるけど直ちに危険なものでもないのだろう、と判断して、高速道路で無理して停車する危険よりも目的地の駐車場で確認することを選びました。
そのあと、もう1台の乗用車がまた左から追い抜きざまに
をしてきました。
何を伝えたいかはわかりませんが、みんな同じことを私に伝えたいのだろう、これは親切心なのだろう、私にプレッシャーを与えたいわけではないのだろう、と考えて、私も「なんだかわからないけど、知ってる。Thanks」という表情を向けることにしました。
荒くれトラックの運ちゃんも
高速道路から一般道に入り、道が混んで運転しづらくなってきました。何度も言うようですが、私は運転が苦手なのです。こういう道はいっそう緊張します。
初めての目的地で初めての道。右左折するにも、右車線にいればいいのか左車線にいればいいのかなども知らない道なのでちょっと手間取って、一瞬左車線に近づきすぎてしまいました。そこに後ろからスピードを出して走ってきたのは、インド系っぽい荒くれおじさんが運転する古い小型トラック。
「あぶねえな!XXXXXX!」とでも言っているのでしょう、そのトラックの開け放った窓からは、私を罵倒している(のであろう)外国語がうっすらと聞こえてきました。さらに険しい表情をしてこちらをにらみ、中指を立ててきました。怖い~(私が悪かったのですが)
私は自分の車の窓が完全にしまっていて、ドアにロックがかかっていることをちらっと再確認して、平常心で運転を続けようと努めます。
閉まってる。大丈夫。安全運転、安全運転。
するとさっきは左側にいたその荒くれトラックは、今度は私の右側にぴったりと付いてきました。
……まだ何か(泣)?
すると、助手席の穏やかな男性がにこやかに
をやってきます。
さっき中指を立てていた荒くれ運転手さんも、運転席から助手席側通して私の方を見て、
「そうだよ、アンタ!コレだよ?知ってる?」
といわんばかりに同じ動作をしています。
2人して「うしろ、うしろ」。
運転手はさっきあれほど私に苛立っていたのに。
「教えてあげなくちゃ」というおせっかい心が怒りに勝るんだ。すごいな。と、変なところで感心してしまいました。
とにかく、私の車の後部に何かがあることは確定です。
トランクから何かはみ出ているとか、大きな汚れがついているとか、何かそんな感じなのでしょうか。
(最初は、動物を轢いてしまっていたのだったらどうしよう、と思っていたのですが、何にも接触した感覚はなかったし、このころになると人々の表情から「緊急なことや酷いものではない」感が伝わってくるようになりました)
バイクの男性の動作で「わかった!」
道にはだいぶ車が増えてきました。
しかしそんな中、車と車の狭い隙間でもギリギリにするすると通り抜けるのがバイク。クアラルンプール市街の中心部はこのバイクが多いので、運転にはさらなる注意が必要です。車線変更をしようとゆっくり車を動かしたとたんに後ろの死角からバイクがきてあわや衝突、というシーンをみかけたことも幾度となくあります。
幸い、この時はそこまでの混み具合ではありませんでしたが、それでも車の間を走ってくるバイクには十分な注意が必要。そんなとき、私の左側にバイクの若い男性が近づいてきて、もうおなじみのあの動作、
をしてきました。
しかしその彼は、それに続きもう一つの動作を繰り出しました。
手全体でダイヤルを左右にひねるように回し、開け閉めするようなゼスチャーです。
「うしろ、うしろ」と「ひねって開け閉め」を交互に繰り返す男性。
それで、「うしろ」に何があるのかがやっとピンときました。
多分、給油口のこと!
みんな、「あなた! 給油口が開いてるよ!」と言いたかったのでしょう。
そういえば、前日に初めての場所に遠出をして帰りが遅くなってしまい、さらに帰り道でガソリンが切れそうになって、真っ暗な中でロードサイドに見つけた知らないガソリンスタンドに駆け込んだのでした。急いでいたので、きっとふたを閉め忘れたんですね。
言われてみれば、その可能性高い!
と納得がいき、バイクのお兄ちゃんに
「わかった。コレね?」
と私も「💡!」の表情で「左右に回して開け閉め」の動作を返しました。
バイクのお兄ちゃんは、「そうそう」と言わんばかりに親指を上にあげた「GOOD!」のゼスチャーをして、走り去って行きました。
そのあと目的地に着くまでもう一台、追い抜かしぎわに「うしろ、うしろ」をしてきた車がありました。
そのときはもう理由がわかっていたので、私も「開け閉め」の動作をして「コレね?」とゼスチャーを返し、その運転手も「うんうん」とうなずき、私を追い抜いていきました。
目的地の駐車場につき、確認すると、その通り。
たしかに給油口を閉め忘れたまま走行していました。
30分で6台
走行時間は30分くらいだったと思います。
その間、見ず知らずの私に「給油口があいてますよ!」ということを「伝えよう、伝えよう」としてくれたのは、なんと6台のみなさま。実に5分に1台の割合です。かなり頻度高くないですか?
リッチなチャイニーズ系奥様からマレー系の若者、インド系の運ちゃんまで実にいろいろな人たちが「教えてあげなきゃ!」って思ってくれたのですね。
この話を2年以上マレーシアで生活してある程度ローカルとも関わりのある日本人に言うと、たいてい笑いながら
「わかる~、マレーシアっぽい話だね」
と言われます。
こんな風に、マレーシアの人たちは、見知らぬ人にも「とても親切」。
(ときにおせっかいなくらいに)
マレーシアはいろいろいい加減な部分もあるけど、「だいたい何とかなる」っていうのは、こういう国民性というか個人レベルの親切心によって支えられているからなのですね。(だからいろいろなことが運次第でもあります)
あと、マレーシアの人は走行中の車間距離がせまいですので、現地で運転される方は本当にお気をつけて!
以上、「マレーシアってこんな国」な話でした。
※本文中に登場する人の人種は「そんな感じに見える」という私見で、本当はなに人かはわかりませんので、もし違っていたらごめんなさい。
みなさんの親切なご指摘、最初はドキッとして「運転中だからプレッシャーかけないで~(泣)」とドキドキしていましたが、最終的にはとても心温まりました。ありがとうございました。
スキやコメント、サポート、シェア、引用など、反応をいただけるととてもうれしいです☕