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ミス・マープル長編05『魔術の殺人』They Do It with Mirrors(1954)紹介と再読感想

アガサ・クリスティー 田村隆一訳『魔術の殺人』早川書房, 1982

『カリブ海の秘密』を読んだので、続けてヘレン・ヘイズ主演2作目の原作『魔術の殺人』も十数年ぶりに再読しました。


あらすじ

マープルは旧友のヴァン・ライドック夫人に頼まれ、夫人の妹でマープルも友人であるキャリイの邸宅ストニイゲイトを訪れた。
キャリイは3番目の夫・ルイスと共に非行少年の更生を図る事業に取り組んでいた。
どこか現実離れしたキャリイに、理想家のルイス、キャリイの娘ミルドレッド、キャリイの幼女だったピパの娘・ジーナとアメリカ人の夫・ウォルターなどが一緒に暮らしており、家の中にはぎこちない空気が流れていた。
ある日、ルイスの秘書をしているエドガーが、妄想に取りつかれてルイスに向かって拳銃を振り回す騒ぎが起こる。
騒ぎは事なきを得たが、その同じ時間に別室では一人の男が射殺されていた。
警察は、キャリイの毒殺未遂をかぎつけたために殺されたのだと考え捜査を進めるが……。


紹介と感想

マープル長編の中ではミステリーとしても物語としてもやや小粒な印象があります。

ミステリーとしては、ある気付きを得ることが出来れば解くことができるドラマ化しやすいタイプのものになっているので、映像化が多いのも納得の作品です。

人物面では、キャリイはしっかり描かれていると思いますが、その他の人物の描き方が物足りないかなと思いました。

マープルシリーズ全体として考えると物足りないだけで、決してつまらない作品ではないのですが、なぜ昔から物足りなさがあるのか考えると、事件の内容の割に被害者が多すぎることにあるのかなと思いました。

もちろん、犯人の必死さやある意味残酷な性格を描くためのドラマになっているのですが、作中での描き方が少し足りないと思ってしまいます。

個人的には、旧友との絡みや、老人と若者の対比のようなシーンがあることから、もう少し年齢を重ねるということ、若い頃と今との対比の部分を掘り下げてくれると嬉しかったなと感じます。

広げられそうな要素が色々とありながら、あっさり描きすぎた惜しい作品との評価になります。

ただし、原作がシンプルなトリックとあっさり気味の話だからか、原作に忠実でありながら+αを少し加えて上手く映像化している作品が多い印象でした。

彼女は、自分自身にも、また自分の反応にも、漠然とした不満を感じた。たしかにパターンがある、いや、いくつかのパターンといってもいいかもしれない。だれそれにもかかわらず、そのパターンを一目でも、はっきりと見ることがマープルにはできなかった。

アガサ・クリスティー 田村隆一訳『魔術の殺人』早川書房, 1982, p.76
ストニイゲイトの人たちに会って疲労困憊のマープルの様子

映像化作品

ヘレン・ヘイズ主演『魔術の殺人』(1985/米)

ジョーン・ヒクソン主演『ミス・マープル』(英)
 第11話「魔術の殺人」(1991)

ジュリア・マッケンジー主演『アガサ・クリスティー ミス・マープル』(英米)
 シーズン4 第3話「魔術の殺人」(2009)

『アガサ・クリスティーの謎解きゲーム』Les petits meurtres d'Agatha Christie(仏)
 シーズン2 第1話「魔術の殺人」Jeux de glaces(2013)

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