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ジョルジュ・シムノン『ロニョン刑事とネズミ』Monsieur La Souris(1938)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 宮嶋 聡訳『ロニョン刑事とネズミ』論創社, 2024

シムノンが好きでリタイヤ後に翻訳業を始めた訳者が、瀬名秀明さんの『シムノンを読む』で本書を知り、翻訳をすることになるとは、生きてて良かったと思わずにはいられませんでした。ありがとうございます。


あらすじ

警察署を宿として渡り歩いているユゴー・モーゼルバック(通称ネズミ)は、ある夜小銭を求めて回っている時に車の中で死んでいる男を見つけた。
その時、男の身体から落ちた財布を拾ったネズミは、自分の物にするために一計を案じる。
ネズミには、故郷の村の今は使われていない司祭館を手に入れて余生を過ごしたいという夢があったのだ。
しかし、九区の刑事・ロニョンは何かを感じ取ったようで、執拗にネズミの周りに付きまとう。
ロニョンとネズミの追いかけっこから始まった出来事は、思わぬ方向へ転がっていき…。


紹介と感想

第3期メグレでお馴染みのロニョンが初登場した長編の初翻訳になります。

本書は、ネズミを主人公とした娯楽サスペンス小説として面白かったです。ロニョンのキャラも既に完成されており、ロニョンファン必見の内容となっています。

ロニョンの「無愛想な刑事」というあだ名をつけたのがネズミだと知れたのが嬉しかったです。

リュカが警視として活躍するパラレルワールドで、ロニョンの妻も後のシリーズとは少し造形が違いました。


ロニョンは持ち前の生真面目さでネズミを追い回していきます。
最初は、1年間待てば大金が手に入ると思ったネズミも、なし崩し的に事件の裏にある真実を探るために得意の道化者を装いながら独自に情報を集めていきます。

前半は、この二人の関係性がメインになります。
しかし、物語が大きく動くのはリュカ警視が捜査を始めてからです。

リュカが動き始めてから事件はスピード感を持って進行し、その途中でロニョンは謎の人物に頭を殴られてしまいます。
この後の作品でも良くある、捜査中に怪我をするロニョンが初登場の今作に既にあったのに少し嬉しくなりました。

そして後半、ロニョンは家で休養しており、まるでリュカ警視のシリーズかのような展開になります。
しかし、ロニョンは夫人の協力もあり真相を知るために一矢報いることができました。

ロニョンが司法警察へ行けるのかどうか。それはリュカが書いていた意見書が全てだと思います。


新聞連載の小説だっただけあり小気味良いテンポで進行するサスペンスと、シムノンの必要最低限を描写する筆のバランスが良く、短い時間で楽しむことができる良い娯楽小説となっていました。

 リュカ警視には『目立たないように、この事件を追うように』との指示があった。
 しかし、そんな世界とは無縁で動き回っているロニョンは、疲れ切ってチュイルリー公園のベンチに座り込んでいるネズミを、断固として執拗に追い続けている。

ジョルジュ・シムノン 宮嶋 聡訳『ロニョン刑事とネズミ』論創社, 2024, p.91
リュカとロニョンの立場の違い

映像化作品

Monsieur la Souris(1942/仏)※日本未公開

Midnight Episode(1950/英)※日本未公開


メグレ警視シリーズ ロニョン登場リスト

長編
モンマルトルのメグレ(1951)
メグレ警視と生死不明の男(1952)
メグレと若い女の死(1954)
メグレ罠を張る(1955)
メグレと優雅な泥棒(1961)
メグレと幽霊(1964)

中編
メグレと無愛想な刑事(1947)

特にロニョンの活躍を楽しめるのが「メグレと無愛想な刑事」『メグレと若い女の死』になります。『生死不明の男』も前半はロニョンの存在感がある方です。
また、『メグレ罠を張る』ではいつもと少し違う姿が、『メグレと幽霊』ではロニョンの人格が分かるエピソードが読めます。


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