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佐々木譲『制服捜査』(2006)紹介と感想

佐々木譲『制服捜査』新潮社, 2009


収録作品あらすじ

逸脱
志茂別町駐在所に赴任してきた川久保篤は、さっそく高校生の山岸三津夫失踪事件に関わることになる。捜査を開始すると素行の悪い同級生の存在が浮かび上がるが、三津夫は見つからない。そんな中、事件は意外な方向へと展開していく。

遺恨
地元の酪農家・大西の飼い犬が散弾銃で殺される事件が発生。散弾銃での犯行という点に危険を感じた川久保は独自に捜査を始め、近所の大規模酪農家・篠崎に眼をつける。しかし二日後、篠崎が死体となって発見された。

割れガラス
バス待合室で子供が恐喝されていると通報があり、駆け付けた川久保は悪ガキ達を追い払った男・大城と出会う。大城は大工仕事のために旭川からやってきていた。恐喝されていたのは山内という少年で、母親と義父からネグレクトを受けていた。川久保は、大城と山内が気になり関りを持つことになる。

感知器
志茂別町で連続放火が疑われる事件が発生し、広尾署からも長嶺と小関という二人の捜査員が派遣されてきた。捜査をあざ笑うかのように次々と放火が続けられるなか、川久保は長嶺達と情報を共有しながら犯人を捜していく。

仮装祭
川久保が赴任して2回目の夏祭りは、合併記念ということで13年振りに仮装祭が行われた。しかし、13年前の仮装祭の時には7歳の女の子が失踪する事件が起きていたのだ。祭りの現場には13年前に失踪した女の子の母親や、当時駐在勤務だった元警官も訪れていた。川久保も警備をしながら13年前の事件について考えていたが、遂に事件が起きてしまう。


紹介と感想

本作は『笑う警官』などの道警シリーズと同じ世界線の北海道警を舞台にした作品の一作である連作短編形式のサスペンス小説になります。

志茂別町駐在所に赴任した川久保を視点人物に、田舎の閉鎖社会の暗部や人間の闇を描いていました。

主役を務める川久保自身も、正義感・倫理観は強いのですが、時に職分を逸脱してしまう部分(それは捜査をしてしまうというだけではない)が、個人的には人間味を感じて好きでした。
というか、第1話で川久保自身が闇の方に行かないか少し心配にはなりました。

1~4話目までは80ページ前後、最後の「仮装祭」は少し長めの130ページ程になっており、1~4話までで描かれた田舎の闇が最後に結実するようになっていました。

個人的なベストをあげると、
物語としては、メイン人物2人のキャラ立てが良く最後の川久保の行動も好きだった第3話「割れガラス」
サスペンスとしては、事件の構図は分かりやすいが他の警官との協力プレーもあり警察小説としての面白さが一番感じられた第4話「感知器」になります。

「こっちには、もう慣れたか」
「なんとかね。五カ月もたちますから」
「ろくに事件もなくて、楽だろう」
 川久保は、それが皮肉なのかどうかを考えた。お前は五カ月もここにいて、この町で何が起こっているのかも見えていないのかと、そう言われているようにも感じた。

佐々木譲『制服捜査』新潮社, 2009, p.74
「逸脱」より とある日の片桐と川久保の会話

シリーズ一覧

01.制服捜査(2006)【連作短編集】
02.暴雪圏(2009)【長編】


ドラマ『制服捜査』(2013/2016)

01.制服捜査(2013)【原作:遺恨】
02.制服捜査2(2016)【原作:仮装祭】
03.制服捜査3(2016)【原作:感知器】

舞台を青森県八戸市へ変更してのドラマ化となっています。
ドラマ版の川久保も正義感が強い主人公ですが、原作の少し陰のある感じから、内藤さんが得意とする陽性な正義感になっていました。

また、家族要素が強まったり、地域住民との絡みなど全体的にほのぼのとした雰囲気が盛り込まれており、原作の暗部を描くえぐ味は薄まっています。
また、毎回「制服警官は捜査に口を出すな!」というタイプの刑事との対立が結構前面に出てくるため、後半になるとちょっとしつこいかなと思う部分はあります。

物語は原作のプロットを使用しながらも、独自の人間関係や展開を盛り込んでおり、作品によっては真相部分を変えることで全体的に2時間サスペンスという内容に落ち着いていました。

原作の映像化を期待すると違うと感じますが、田舎の駐在を舞台とした2サスとしては一定の面白さがあると思います。

スタッフ
脚本:峯尾基三
監督:金佑彦
製作:TBS、東映

シリーズキャスト
   川久保篤/内藤剛志
  川久保紀子/手塚理美
 川久保美奈子/山本ひかる
   橋爪大吉/菅原大吉
   斉藤克子/竹内都子
    南孝義/せんだみつお(2~)
   片桐吾郎/尾藤イサオ
吉倉三郎(忠)/佐藤蛾次郎
    大西徹/中西良太

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