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メグレ長編17『紺碧海岸のメグレ』Liberty Bar(1932)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン 佐藤絵里訳『紺碧海岸のメグレ』論創社, 2015

現在、新刊で手に入る珍しいメグレ長編の一つになります。


あらすじ

メグレは、「波風を立てるな」という指令を受けて、ウィリアム・ブラウンという戦時中に情報活動に関わった男がナイフで刺されて殺された事件の捜査にアンティーブまで来た。
ブラウンは愛人であるジーナとジーナの母親・マルティニ夫人と一緒に住んでいたが、生活費を手に入れるために時々長期間のあいだ出かけることがあった。
ブラウンがカンヌに出かけていることを突きとめたメグレは、カンヌでブラウンが好んで立ち寄る〈リバティ・バー〉へと足を運ぶ。
そこには、ジャジャという女主人とシルヴィという若い娼婦が居た。
4人の女が絡む事件は、どのような顛末を辿るのか。
メグレは、肌に合わないヴァカンスの空気に苛立ちながら歩き回る。


紹介と感想

ヴァカンスの地として名高いアンティーブとカンヌを舞台とした本作では、肌に合わない土地に最後まで馴染むことが出来ずに不機嫌なメグレが捜査を進めていきます。

国際的な殺人事件と騒がれた殺人事件は、ウィリアムと本国の家族の大金をかけた争いかと思いきや、色恋沙汰に終始する身近な事件でした。
殺されたウィリアムは、オーストラリアからヴァカンスの地へ来ることで怠惰から抜け出すことが出来ず、財産を家族に止められた腹いせに最後まで嫌がらせをしようとしたことが命を縮めたとも言えます。

そんなウィリアムが辿り着いた場所が〈リバティー・バー〉でした。
第三章ではリバティー・バーをメグレが訪れジャジャ達との時間が描かれますが、ここが本作のハイライトになります。
また、ここでの独特の空気感が良く描けていることが、第九章のシーンで落差を生み出しせていました。

正直、事件としては大したことはなく、「波風を立てるな」という指令を活かした解決ではありますが、警察物としては少し引っかかりもあります。

それでも、ずっと不機嫌なメグレが、最終章で家に帰ってメグレ夫人との日常に帰れたのにほっとして読み終われました。

作品全体としては少しパンチが弱いですが、第三章の空気感は抜群にお勧めできる作品でした。

「ウィリアム・ブラウンは殺された!」
 心の中ではこう思っていた。
(あの連中には、そんなことはどうでもいいのだろう!)

ジョルジュ・シムノン 佐藤絵里訳『紺碧海岸のメグレ』論創社, 2015, p.88
生活そのものがヴァカンスじみているアンティーブで不機嫌なメグレ

映像化

ルパート・デイヴィス主演(英) ※日本未紹介
 シリーズ1 第6話「Liberty Bar」(1960)

ルイ・アルベシエ主演(仏)「Liberty Bar」(1960)※日本未紹介

ジャン・リシャール主演(仏)
 第41話「Liberty Bar」(1979) ※日本未紹介

ブリュノ・クレメール主演(仏)
 第26話「リバティー・バー」(1997)


メグレシリーズ 既読作品リスト

現時点での読了リストを自分用のメモとして書いておきます。
☆がお気に入り、〇がお気に入りには後一歩だけど良いと思った作品です。
全て現時点での評価になります。

長編
〇03.サン・フォリアン寺院の首吊人(1930)
 06.黄色い犬(1931)
☆07.メグレと深夜の十字路(1931)
☆09.男の首(1931)
 14.サン・フィアクル殺人事件(1932)
〇17.紺碧海岸のメグレ【別邦題:自由酒場】(1932)
☆18.第1号水門(1933)

☆21.メグレと超高級ホテルの地階(1942)
☆25.メグレと奇妙な女中の謎(1944)

☆29.メグレと殺人者たち(1947)
☆35.メグレと老婦人(1950)
☆36.モンマルトルのメグレ(1950)
☆38.メグレと消えた死体(1951)
☆39.メグレと生死不明の男(1952)
☆41.メグレとベンチの男(1952)
〇42.メグレの途中下車(1953)
〇43.メグレ間違う(1953)
☆44.メグレと田舎教師(1953)
☆45.メグレと若い女の死(1954)
☆46.メグレと政府高官(1954)
☆47.メグレ罠を張る(1955)
〇48.メグレと首なし死体(1955)
☆53.メグレと口の固い証人たち(1958)
〇56.メグレと老外交官の死(1960)
 62.メグレと幽霊(1964)
☆63.メグレたてつく(1964)
〇64.メグレと宝石泥棒(1965)
〇72.メグレと老婦人の謎(1970)
 73.メグレとひとりぼっちの男(1971)

中短編
 01.首吊り船(1936)
 02.ポールマルシェ大通りの事件(1936)
 03.開いた窓(1936)
 04.月曜日の男(1936)
 05.停車──五十一分間(1936)
☆06.死刑(1936)
 07.蠟のしずく(1936)
〇08.ピガール通り(1936)
☆09.メグレの失敗(1937)

☆10.メグレ夫人の恋人(1939)
☆11.バイユーの老婦人(1939)
〇12.メグレと溺死人の宿(1938)
☆13.殺し屋スタン(1938)
☆14.ホテル“北極星” (1938)
〇17.メグレと消えたミニアチュア(1938)
〇19.メグレとグラン・カフェの常連(1938)

 20.愚かな取引(1939)
☆21.街中の男(1940)

☆24.メグレと無愛想な刑事(1946)
☆25.児童聖歌隊員の証言(1946)
〇26.世界一ねばった客(1946)
〇27.誰も哀れな男を殺しはしない(1946)
☆28.メグレ警視のクリスマス(1950)
☆29.メグレとパリの通り魔(1951)


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