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鞍馬天狗 長編第22作『女郎蜘蛛』(1957)紹介と感想

大佛次郎『鞍馬天狗 第八巻』中央公論社, 1969, p.1-212


あらすじ

京で起きた公卿連続予告殺人。死の日を予告した書状が舞い込むと、その予告通りに人が死ぬのだ。
高倉三位という最初の犠牲者から手紙を見せてもらった鞍馬天狗。その後、高倉は血染めの衣類だけを残して消えてしまった。
鞍馬天狗は岡っ引の長次や、犬猿の仲である与力の鹿倉藤十郎とも情報を交換し合い事件を調べ始める。
事件を調べて見えてきたのは、人を見下し秘密主義、しかし内実は金もないのに物欲と色欲に溢れる公卿の実態だった。
果たして、連続殺人の真相とは何なのか。鍵は江戸から京へ訪れていたお浅が握っていた。


紹介と感想

ここまで読んで来た3作品の中では一番面白く読めました。
物語が捕物小説のように、事件の謎を中心に置いていることがその要因だと思いました。特に、物語の前半にその傾向が強かったです。

そのため、ここまで読んだ『角兵衛獅子』や『山嶽党奇談』のように、要所要所でピンチと見せ場が描かれる作風とは自ずから違っていました。

連続殺人の謎自体は物語の早い段階で分かるものではあるのですが、そこから落ちぶれた公卿のドラマを中心に展開していき、程よい長さで決着がつくので最後まで面白く読めます。

今回は、新選組は影が薄く、鞍馬天狗もあまり人を斬りません。
杉作や吉兵衛の活躍も程よく、杉作は少年探偵団のように他の子ども達と協力して鞍馬天狗に協力します。

今作の中で印象に残るのは、江戸は尾張屋の女房、夫に代わって女手一つで人入れ稼業をしているお浅になります。
事件自体の本筋には関わりませんが、お浅がいなければ事件は闇から闇へと葬られていたことを思うと、素晴らしい活躍をしてくれました。

捕物小説的な要素が強いですが、幕末の権力模様と人間の欲を描く鞍馬天狗らしさもある物語でした。

また、初期の短編に同名の作品がありますが、まったく違う内容の別作品になります。

「欲だな。」
と、鞍馬天狗は吉兵衛に言いました。
「物欲と色欲だ。それも、人間の中で一番生まれがよく、育ちもよくて上品に出来ているはずの人たちの中に起ったことだ。何をしているかというと、ぬすっとを働いていたのだ。ただ、そのぬすっとをいとも上品にやってのけているだけの違いでね。」

大佛次郎『鞍馬天狗 第八巻』中央公論社, 1969, p.205
今回の事件の全貌を吉兵衛へ語る鞍馬天狗

映像化

サブタイトルだけでは同名短編の映像化との区別がつかないため、ハッキリと分かるものが一つしかありませんでした。

竹脇無我・主演『鞍馬天狗』(1974~1975)
 第17話「女郎蜘蛛」


高橋英樹主演(1969~1970)の第22話・第23話「女郎蜘蛛」は前後編で2時間の内容となっており、ドラマ全体としても長編の映像化が多いため、こちらの長編が原作ではないかと思われます。

野村萬斎主演(2008)の第3話「石礫の女」は短編の「女郎蜘蛛」が原作となっています。

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