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メグレ警視シリーズ長編03『サン=フォリアン教会の首吊り男』(1931)+江戸川乱歩『幽鬼の塔』+天地茂・主演14『五重塔の美女』 紹介と感想

シムノンの原作、乱歩の翻案、乱歩作品を原作としたドラマと、三者三様の違いを持った作品となります。



ジョルジュ・シムノン『サン=フォリアン教会の首吊り男』(1931)

あらすじ

メグレはベルギー出張の帰り、身なりに似合わず大金を封筒に入れて持ち歩く男を見つけ、興味本位で後をつける。メグレは隙を見て男が大切そうに持っている鞄を似た鞄とすり替えるが、男の鞄には古着が入っているだけだった。
その後、ホテルで鞄の中身が違う事に気づいた男は、口の中に拳銃を突っ込み自殺した。
メグレは男の死に責任を感じ、何としても何かを発見しなければと動き出す。
次の日、モルグに死体を確認に来たヴァン・ダムという男に興味を持ったメグレは、一人捜査を開始する。

紹介と感想

開始早々引き込まれる序盤、メグレの先回りをしている男の思惑が気になる中盤、事件関係者の独白で語られる真相と寺院の空気に圧迫される終盤。

短いページの中にヴァン・ダムとの駆け引きなど引き込まれるシーンが多く、初期作品ならではの面白さが感じられます。

最初期の作品だけあり、ヴァン・ダムのキャラクター造形の尖り方や、物語もシリーズの中では派手さがある方で、メグレ物に慣れていなくても読みやすい話だと思います。

特に第5章のメグレとヴァン・ダムが二人で車に乗ってからの一連のシークエンスが好きな場面でした。

過去の罪から目を逸らしてがむしゃらに頑張っても、過去の罪は人の形をして追ってくるのかもしれません。それでも、がむしゃらに頑張ったことを否定できるものではない。
最後にメグレがくだした決断は、警察官らしくないかもしれませんが、公的に追っていた事件と言い切れない今回に関しては、許されるのかもしれません。

 ヴァン・ダムは一人で笑った。つねに笑う必要を感じているかのように。地下室に降りるのが怖くてたまらないので、自分には勇気があると思いこむために口笛を吹く少年のように。

ジョルジュ・シムノン/伊禮規与美 訳『サン=フォリアン教会の首吊り男』早川書房, 2023, p.82
メグレと一緒にいるヴァン・ダムの様子

「まあ、こんな事件が十件もあったら、わたしは警察を辞めることにするよ。それはもうつまり、天の高いところに誰か偉い神様がいて、この世の秩序を守っているという証拠だからね」

ジョルジュ・シムノン/伊禮規与美 訳『サン=フォリアン教会の首吊り男』早川書房, 2023, p209
事件後、リュカと飲みながら事件について語るメグレ

映像化作品

ルパート・デイヴィス主演シリーズ(英)
 シリーズ1 第13話「The Children's Party」(1961) ※日本未紹介

ジャン・リシャール主演シリーズ(仏)
 第48話「Le pendu de Saint-Phollien」(1981) ※日本未紹介


江戸川乱歩『幽鬼の塔』(1939~1940)

あらすじ

趣味で犯罪を漁り歩いている素人探偵・河津三郎。
探偵を始めて四年目の四月五日、手に持ったスーツ・ケースの中から新聞紙で包んだものを取り出して、空になった鞄を川の中へ投げ込んだ男を見つけ後をつけ始める。
男は新たな鞄を買って新聞包みを中へ仕舞いこんだ。その際に、札入れの中に千円ほどの紙幣が詰め込んであるのが見えた。
河津は、同じ鞄を買い、同じ旅館に泊まると、男の隙を伺い鞄を取り換えると、滑車と麻縄と汚れた仕事着が入っていた。
荷物が無いことに気づいた男は、彷徨ったのち上野公園で泣き喚めいた後、焚き火をしながら笑い転げ、紙幣の束を焼き始めた。紙幣を焼いた男は、焚き火を消し、五重の塔から首を吊った。
男の荷物に深い謎が隠されていると考えた河津は、独自に捜査を開始する。

紹介と感想(酷評してるので好きな人ごめんなさい)

シムノンの原作を乱歩流に翻案した作品になります。
シムノンの原作が持っているシリアスさと、乱歩流通俗長編のかみ合わせが悪いというのが第一印象になります。

特に、素人探偵・河津三郎は、自殺の原因を作ったのを大して気にせず警察に証拠を隠したまま楽しそうに探偵を始め、その死を悲しんでいる奥さんに何も立証できていない段階で「彼は犯罪に関わっていると思うから忘れなさい」と告げ、幽霊のような振舞いを楽しそうに行うが、探偵としては出し抜かれたり後手に回ったりと最後まで対して良い所は無く、存在自体が物語の雑音から抜け出せていませんでした。「これが本物のサイコなのか……」という感想です。

サブキャラなら、ヤバい奴だで済むのですが、視点人物としてずっと出ているのが良くなかったと思うので、せめて陰に明智先生のような別の安定した探偵キャラが配置されていれば少しは違ったのかなと思います。ちなみに、河津ほどではないですが礼子の存在も疑問でした。

この時期の通俗長編である『暗黒星』や『地獄の道化師』は普通に面白いため(『地獄の道化師』は通俗長編の中では個人的ベスト作品です)、原作が持つ発端のキャッチ―さから選んだのだと思いますが、自分のこの時期の作風をしっかり考えられていなかったのかなと感じました。


天地茂・主演 美女シリーズ14『五重塔の美女』(1981)

あらすじ

文代が降霊術の見学をしていると、死者の声を聞いていた男が突然逃げ出した。文代は、男が落していったミイラ化した小指を見つける。
男の後を追うと、公園でタクシーを降りた男は札束を燃やしながら笑っていた。
靴の踵が取れ、一度は男を見失った文代だったが、更に探すと首と吊って死んでいる姿で発見した。
現場からは五重塔の写真の他に、看護師・川井奈津子の身分証も発見されて……。
死んだ男の正体は誰なのか、猫の鳴き声と共に送られてくる五重塔の写真に隠された秘密とは何なのか。
明智と浪越達が捜査を開始するが、男の死はまだ序章でしかなかった。

紹介と感想

シムノンの原作に負けず劣らず引き込まれる序盤、21年前の因縁から起こる連続殺人と翻弄される人々が捜査と共に描かれる中盤、驚きの真実が明かされる終盤と、文句なく面白いドラマでした。
お馴染みの死亡を偽ってからの変装も楽しめます。

原作の要素を活かしながら大幅にアレンジを加えて、納得のいくサスペンスドラマとなっており、最後の推理場面もとても引き込まれます。
何より、「あれ、明智先生?」と思った場面が実は……となったのには、先生の探偵としての凄さを思い知らされた気分です。

原作ありのドラマとして、原作の要素を殆ど拾っているのが素晴らしい、面白いサスペンスドラマを観たい時には確実に期待に応えてくれるオススメの作品です。

作品概要

原作:江戸川乱歩『幽鬼の塔』(1939~1940)
脚本:櫻井康裕
監督:井上梅次

レギュラー

明智小五郎/天地 茂
   文代/五十嵐めぐみ(1~19)
 小林少年/柏原 貴(6~19)
 浪越警部/荒井 注(2~)

ゲスト

川井奈津子/片平なぎさ
大沢かずみ/生田悦子
 大沢祐司/入川保則
 進藤健三/石浜朗
 青木昌作/勝部演之
三田村啓介/森次晃嗣
 鶴田正雄/草薙幸二郎
 南彦次郎/今福将雄


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