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ドラマ『チップス先生さようなら』(2002/英)感想


あらすじ

19世紀末のイギリス。前の学校で上手くいかず、ブルックフィールド校へ赴任してきた若き教師チッピング。
赴任初日から生徒の洗礼を受けるチッピングだったが、夜の自習時間に悪戯をする生徒へ威厳のある態度を示すことに成功する。
次第にチップス先生と呼ばれるようになり、ブルックフィールドで教師を続けるチッピングのもとには、生徒と関わる喜びや、生徒が起こす問題への対処など様々なことが起こる。寮監に選ばれたくてドキドキしたり、生徒への体罰に憤りを感じたり、色んな思いを経験するチッピング。
ある時、休暇中に訪れた湖水地方で、自分よりも一回り以上も若いキャサリンと仲良くなり、結婚する。
キャサリンはチッピングや学校へ様々な影響を与える。そして、二人の間には子どもが授かるのだった。
その後、時代は第一次世界大戦へ向けて動いていき、学校でも様々なことが起こるが、たくさんの子ども達と関わりながら、チップス先生の人生は続いていく。

感想(ネタバレあり)

『失われた地平線』や『心の旅路』も有名なジェームズ・ヒルトン原作のドラマです。昔の海外ミステリー好きには『学校の殺人』の方が有名かもしれません。

10年ぶり位に再見しましたが、今回も面白く観ることが出来ました。
原作の良さがより伝わるように描かれた1939年版、ミュージカルとして独特の空気感の1969年版と、チップス先生の映像化は、大筋は原作に沿いながらも作品毎に個性があり、面白さがあります。

この2002年版は現代のテレビドラマとして観やすいように、肉付けや見せ方を少し変えたという感じです。
チップスのキャラクターも原作から感じるものとは少し違いますが、芯の部分は捉えていると思いました。

ドラマは、原作のように過去を振り返る形ではなく、若いチップスが時系列に沿って歳を取っていく、現在進行形のドラマになっています。

また、第一次世界大戦によりどんな影響があるのかを、より濃く描いていました。
戦場で亡くなったブルックフィールド校出身の生徒の名前をチップスが読みながら、生徒時代の姿が次々と映し出される場面は、こちらも胸が苦しくなります。

チップスが赴任してきたところから物語が始まるように、キャシーと出会うまでに尺をしっかりと使い、チップスがどのような人で、どのような価値観や感情を持って生徒と接しているのかをしっかりと描いていきます。

そのため、キャシーと出会って変わったという印象にならず、もともとあった素質が、キャシーと出会ったことで形になったのだと感じる事ができました。

また、キャシーだけでなく、赴任初日からチップスを気にかけてくれたドイツ語教師のマックスとの友情も重要です。
第一世界大戦中のイギリスで、敵軍として亡くなったマックスの名前を、戦死した生徒の名前と一緒に読み上げるチップスの姿に、友情への真摯な姿と、人間としての愛を感じます。

もちろん、チップスが誠意をもって接したことで、生徒からもチップスへ親愛を示す数々の描写も素晴らしいものでした。

昔から、『チップス先生さようなら』の、人生の中で印象的なイベントは濃く描かれるけど、それも人生の中では一時でしかないという、思い出をパラパラと思い出すような描き方が好きです。

ドラマの最後、「子どもなら大勢いるぞ。何百人もいる」と、今まで出会ってきた生徒の名前を思い出すチップスのもとへ、キャシーが迎えに来ます。
そして、鐘が鳴り響くのです。

久しぶりに原作も読みたくなりました。

「そして、最後に悲しい訃報をお伝えする。
 敬愛する同僚であり、素晴らしき教師。
 彼を知る者は、誰もが悲しみに暮れるだろう。
 マキシマム・フリードマン・シュテイフェルが2週間前に…」
ざわつく講堂を見回したチップスは言葉を続ける。
「この学校は彼に恩義がある。
 非常に優れた教師であり、人間であった彼を、国籍によって曇らせた目で
 見てはならない。たとえ、このような時であってもだ。
 一人の個人は、国家と同一ではない。
 シュテイフェルを忘れずにいよう。戦死した皆のこともだ」

マックスの訃報を告げるチップスの言葉

(視聴日:2023年11月30日)

キャスト

       チッピング/マーティン・クルーンズ(西岡徳馬)
        キャシー/ビクトリア・ハミルトン(渡辺美佐)
マックス・シュテイフェル/コンリース・ヒル(森田順平)
       ウェザビー/ジョン・ウッド(稲垣隆史)
      ロールストン/パトリック・マラハイド(土師孝也)
       バーンリー/デイビッド・ホロヴィッチ(田村勝彦)
       メトカーフ/クリストファー・ファルフォード(山本龍二)
  ジョン・リヴァース卿/ジョン・ハーディング(江原正士)

概要

原作:ジェームズ・ヒルトン
   『チップス先生さようなら Goodbye, Mr. Chips』(1934)
脚本:フランク・デラニー、ブライアン・フィンチ
演出:スチュアート・オーム
製作:2002年/イギリス
時間:100分

他の映像化

映画『チップス先生さようなら』(1939/英米)

監督:サム・ウッド

出演:チッピング/ロバート・ドーナット
   キャサリン/グリア・ガースン

映画『チップス先生さようなら』(1969/米英)

監督:ハーバート・ロス

出演:チッピング/ピーター・オトゥール
   キャサリン/ペトゥラ・クラーク

ドラマ『Goodbye, Mr. Chips』(1984/英/全6話)

監督:Gareth Davies

出演:チッピング/ロイ・マースデン
   キャサリン/Jill Meager

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