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実は結構ある!〈日本で製作されたアガサ・クリスティー映像作品について〉①「霜降山荘殺人事件」「危険な女たち」「富士山麗連続殺人事件」「名探偵ポワロとマープル」

日本はアガサ・クリスティー人気が高い国の一つであり、1980年代に初めて映像化が製作され、時を置いて21世紀に入ってからは映像化や漫画化が多く作られています。

今回は、日本で製作されたクリスティーの映像化についてまとめていきます。
書いているうちに長くなってしまったため、2つに記事を分けています。


霜降山荘殺人事件(1980)

原作:『招かれざる客』(1958)
脚本:加来英治(栗原英治)
演出:荻野慶人
出演:栗原小巻、林 隆三、高峰三枝子、金田賢一、真行寺君枝、中谷一郎、ほか

日本で最初にアガサ・クリスティー原作として作られたドラマになります。
残念ながら未見です。


危険な女たち(1985)

原作:『ホロー荘の殺人』(1946)
脚本:竹内銃一郎、吉田求
監督:野村芳太郎
出演:大竹しのぶ、藤真利子、和由布子、寺尾聰、三田村邦彦、池上季実子、夏八木勲、小沢栄太郎、北林谷栄、石坂浩二、ほか

執筆時点で、日本で唯一映画化された作品になります。
舞台を現代日本の南紀白浜に移した映像化は、原作のもつイギリス上流階級独特の空気感が薄まっていますが、その分日本的情念が増されており、役者の魅力で魅せる映画になっていると思いました。

北島明弘氏は、『映画で読むアガサ・クリスティー』の中で本作品についても触れていますが、あまり評価は高くありませんでした。

Mark Aldridge『AGATHA CHRISTIE on Screen』の中では、「オープニング・タイトルにカラーフィルターを使用することで、典型的な伝統的作品ではなく、ポップミュージックやテクノロジー・ビジネスなど、現代社会のハイエンドに生きる登場人物たちが登場する映画のトーンを打ち出している。その結果、原作を非常に見応えのあるものに仕上げているが、観客は、登場人物たちとの時間を楽しんできただけに、結末がこのような哀愁漂うものであることに少し寂しさを覚えるかもしれない。」と語っていました。


招かれざる客/富士山麗連続殺人事件』(2001)

原作:『招かれざる客』(1958)
脚本:橋本以蔵
演出:伊藤寿浩
出演:浅野ゆう子、野際陽子、三田村邦彦、佐々木すみ江、宇梶剛士、伊藤雅人、清水明博、ほか

21世紀最初の映像化は、『招かれざる客』2度目の映像化です。
世界的に見ても『招かれざる客』の映像化は珍しく、クリスティー映像化世界においての日本の特徴の一つとなります。

舞台は現代日本になっており、アレンジの癖が強いため、言われないとクリスティー原作だとは分からない作品ですが、単発2時間サスペンスドラマとして中々楽しめます。


名探偵ポワロとマープル(2004~2005/全39話)

脚本:下川博、十川誠志、米村正二、富田祐弘、大橋志吉、藤田伸三
監督:高橋ナオヒト
出演:里見浩太朗、八千草薫、折笠富美子、野島裕史、田中敦子、屋良有作、城雅子、ほか

世界で唯一のアガサ・クリスティー原作アニメシリーズであり、これまた日本の映像化作品を語る際の際立った特徴になります。
長編短編合わせて、エルキュール・ポワロから12エピソード、ミス・マープルから8エピソードの全20エピソードが映像化されました。

原作選択の特徴として、世界でも本アニメでしか映像化されていないマープル短編があることだと思います。
1話約20分程度のアニメに置いて、ページ数が少ない原作短編をほぼ原作通りのシナリオで映像化できるのは強みでした。

また、複数話にまたがって展開される長編や中編の脚色も、一部疑問がある作品もありますが、概ねアニメ世界に上手く合わせて行われていました。

個人的には好きなエピソードもあるためたまに見返すこともあるシリーズなのですが、受け容れられるかどうかのポイントが2つあります。
一つは、ポワロとマープルを繋ぐ人物として、若き助手メイベル・ウエストとペットのアヒルであるオリバーがレギュラーに加わっていること。
二つ目は、各話の主要ゲスト声優に著名な俳優を当てているのですが、うまくハマっている作品と、違和感が強い作品との差が大きすぎることです。

個人的には、メイベルとオリバーは、そういう世界観だと思えば好ましく観ることができました(10代の頃に見たのも大きいかもしれません)。
二つ目の方については、幸い特に好きな話では殆ど問題がなかった事と、繰り返し見ていれば慣れてしまうので乗り切りました。

何にせよ、子どもも楽しめる形で、短編も含む手軽に見れるアニメと言う形式で映像化されたことは、間口を広げるという意味で意義があります。
特に、最近はシリアス路線の映像化が多くなっている時代背景を考えても、ライトな映像化としてプラスの付加価値があると思っています。

個人的に好きな話は、マープル短編から「申し分のないメイド」「巻尺殺人事件」「青いゼラニウム」、メイベルを主人公に年少組を原作より目立たせた独自性がある「パディントン発4時50分」(全4回)、ポワロ中短編から「総理大臣の失踪」」「エジプト墳墓の謎」「クリスマスプディングの冒険」「プリマス行き急行列車」(前記4話は全2回構成)「ダブンハイム失踪事件」、わずか60分程度で映像化しないといけない中で取捨選択が上手いと思った「エンドハウス怪事件」(全3回)、最終エピソードにしてベテラン声優が揃った安定感も嬉しい「雲の中の死」(全4回)辺りになります。

Mark Aldridge『AGATHA CHRISTIE on Screen』では結構な文字数を割いて説明されており、「原作のミステリーを大幅に様式化したものではあるが、その中心にある文化の衝突を受け入れれば(執筆者注:メイベルとオリバーの存在、テーマ曲にアップテンポのラブソングを使用していることなど)、翻案として欠点を見つけるのは難しいし、娯楽作品としても十分に機能する。」と高めの評価でした。

話数リスト
01.グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件
02.安マンションの事件
03.風変わりな遺言 ※唯一の映像化
04.申し分のないメイド ※唯一の映像化
05.ABC殺人事件~その1 ポワロへの挑戦状~
06.ABC殺人事件~その2 Bの街で、Bの名の人が~
07.ABC殺人事件~その3 犯人あらわる~
08.ABC殺人事件~その4 ポワロ、謎を解く~
09.総理大臣の失踪~前編 ドーバー海峡の追跡~
10.総理大臣の失踪~後編 真実はイギリスに~
11.エジプト墳墓の謎~前編 古代からの挑戦状~
12.エジプト墳墓の謎~後編 メンハーラ王の呪い~
13.巻尺殺人事件 ※唯一の映像化
14.金塊事件 ※唯一の映像化
15.青いゼラニウム ※短編の形での唯一の映像化
16.エンドハウス怪事件~その1 パーティーの夜に~
17.エンドハウス怪事件~その2 秘められた恋~
18.エンドハウス怪事件~その3 完璧な証拠~
19.クリスマスプディングの冒険~前編 プリンスからの依頼~
20.クリスマスプディングの冒険~後編 王家に伝わるルビー~
21.パディントン発4時50分~その1 殺人者の乗る列車~
22.パディントン発4時50分~その2 忍び寄る影~
23.パディントン発4時50分~その3 シンプルな動機~
24.パディントン発4時50分~その4 マープル対犯人~
25.プリマス行き急行列車~前編 客室内の死体~
26.プリマス行き急行列車~後編 ブルーのワンピース~
27.動機と機会 ※唯一の映像化
28.消えた料理人~前編 強引な依頼~
29.消えた料理人~後編 トランクの秘密~
30.スリーピングマーダー~その1 眠れる殺人事件~
31.スリーピングマーダー~その2 記憶の扉~
32.スリーピングマーダー~その3 ヘレンの恋~
33.スリーピングマーダー~その4 迫り来る魔の手~
34.二十四羽の黒つぐみ
35.ダブンハイム失踪事件
36.雲の中の死~その1 空飛ぶ密室~
37.雲の中の死~その2 パリのマダムジゼル~
38.雲の中の死~その3 ホーバリ夫人への脅迫~
39.雲の中の死~その4 莫大な遺産の相続人~

※「ABC殺人事件」「パディントン発4時50分」「雲の中の死」は石川森彦による漫画版があります。


参考文献

1)北島明弘『映画で読むアガサ・クリスティー』近代映画社, 2010, p.112
2)Mark Aldridge『AGATHA CHRISTIE on Screen』Palgrave Macmillan , 2016, p.306-308



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