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読書感想文

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#ミステリー小説

笹沢左保『結婚って何さ』(1960)紹介と感想

笹沢左保『結婚って何さ』徳間書店, 2022 あらすじ 上司に理不尽に叱られた遠野真弓と疋田三枝子は、その場で会社を退職した。 その日は飲み潰れてやろうと入った三件目のバーで、見知らぬ男と一緒に飲む事になり、流れで三人で旅館へ宿泊した。 しかし、次の日の朝には男は首を絞められ殺されていた。 部屋の鍵はかかっており、犯人として捕まる事を恐れた二人は現場から急いで逃げ出す。 事件を追うための僅かな手掛かりは、男が持っていた名詞と切符だけ。 次々と現れる疑惑の死の先にある真実と

十津川シリーズ長編3『消えたタンカー』(1975)紹介と感想

西村京太郎『消えたタンカー』光文社, 1983 まだ読んだ事の無かった初期の十津川を読んでみました。 西村京太郎はドラマの方がお馴染みで、原作は、十津川シリーズ長編5作程度と中短編数作、名探偵シリーズ全4作、左文字シリーズ数作、『殺しの双曲線』などのノンシリーズ数作程度しか読んでない初心者になります。 あらすじ インド南端から1000キロの沖合で58万キロリットルの原油を運んでいたマンモスタンカーが炎上した。 近くを通っていた船に救助されたのは乗務員32名中、宮本船長

法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』(1992)紹介と感想

法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』講談社, 1995 著者の本は、クリスティーに関する考察を描いた「カーテンコール」を読むために『法月綸太郎の消息』を読み、「引き立て役倶楽部の陰謀」を読むために『ノックス・マシン』を読んで以来、約5年ぶり3冊目になります。 収録短編あらすじ 死刑囚パズル(1992) 死刑囚・有坂省二は、松山所長の計らいでお茶と饅頭を口に入れ、後は刑の執行を待つばかりだった。 しかし、執行直前に激しい痙攣状態に襲われ、そのまま息を引き取った。 死因は急性ニ

中町 信『死者の贈物』(1999) 紹介と感想

中町 信『死者の贈物』講談社, 1999 あらすじ 野木見友子が財津珠世のスナックへ電話をかけると、粕谷伸一郎が電話に出て、遺恨から財津珠世を刺し殺してしまったので自殺すると話し電話を切った。 状況を聞いた外科医の徳有修平、妻で看護師の徳有雪乃、野木見友子が急いで駆けつけると、珠世は生きていたが、伸一郎は喉を同じナイフで突き刺し死んでいた。 事件は単純に片づくと思われたが、3人の努め先の病院・明京病院院長で珠世の姉である財津加奈子の誕生日パーティーの最中に、珠世が殺されて

貫井徳郎『被害者は誰?』(2003)紹介と感想

貫井徳郎『被害者は誰?』講談社, 2003 病棟の本棚をブラウジングしている時に、タイトルが気になり手に取ってみました。 著者の本を読むのは初となります。 収録作あらすじ 被害者は誰?(e-NOVELS '01年10月23日号~'02年1月15日号/週刊アスキー '01年11月6日号~'02年1月29日号) 亀山俊樹の自宅の庭から女性の白骨死体が発見された。 亀山俊樹は自分の犯行だと認めたが、被害者の身許や動機などは黙秘を貫いていた。 自宅からは、十年前に書かれた三人

黒岩涙香「無惨」(1889) 紹介と感想

黒岩涙香『黒岩涙香探偵小説選Ⅰ』論創社, 2006, p.1-54 黒岩涙香『黒岩涙香探偵小説選Ⅱ』論創社, 2006, p.249-255 黒岩涙香(1862~1920)は、主に明治期に活躍しており、ミステリー好きにとっては外国作家の小説を翻案して日本に紹介したことで知られています。 無惨(1889/明治二十二年) あらすじ 数多くの創傷、擦剥、打傷があり、頭も裂けている世にも無惨な死体が見つかる。谷間田と大鞆、二人の刑事が目を付けた手がかりは、死体が握っていた縮れた

黒岩涙香「血の文字」「紳士の行ゑ」+エミール・ガボリオ「バチニョルの小男」 紹介と感想

黒岩涙香著『黒岩涙香探偵小説選Ⅱ』論創社, 2006 各務三郎編『クイーンの定員Ⅰ 傑作短編で編むミステリー史』光文社, 1992, p.127-203 今回は、エミール・ガボリオの作品を翻案した2作品と、「血の文字」原作である「バチニョルの小男」を紹介したいと思います。 カボリオの原作もホームズとライバルたちの時代に負けない面白い物語ですが、それを涙香がどう調理したのかを観ることで、涙香が論理的な考え方を重視していたのが分かるものとなっていました。 エミール・ガボリオ

ネロ・ウルフ長編22『殺人は自策で Plot it Yourself』(1959)

レックス・スタウト/鬼頭玲子・訳『殺人は自策で』論創社, 2022 あらすじ 作家や出版社による盗作問題合同調査委員会から依頼を受けたウルフ。 「エイミー・ウィンが書いた『わたしの扉のノック』は、私が書いた『幸運がドアを叩く』の盗作だ」と手紙を送ってきた、アリス・ポーターを止めてほしいとの内容だった。 アリス・ポーターは四年前にも自身の作品が盗作されたと騒ぎ、八万五千ドルを手に入れていた。その後も、複数の人物が盗作疑惑で作家や脚本家を訴えて金を手に入れていた。そして、四

老人ホームを舞台とした高齢者が元気なミステリーシリーズを紹介

高齢者が主役のミステリーシリーズは、ミス・マープルを始め数多くありますが、今回はその中でも老人ホームを舞台に、高齢者がチームを組んで事件に立ち向かうシリーズを3つ紹介したいと思います。 《海の上のカムデン騒動記》シリーズ作者:コリン・ホルト・ソーヤー Corinne Holt Sawyer 舞台:アメリカ 概要 高級老人ホーム〈海の上のカムデン〉に入所しているアンジェラとキャレドニアを主人公に展開されるコージーミステリーになります。 作者自身が老人ホームに入所しており、

イーデン・フィルポッツ『孔雀屋敷 フィルポッツ短編傑作集』感想

イーデン・フィルポッツ/武藤崇恵・訳『孔雀屋敷 フィルポッツ短編傑作集』東京創元社, 2023 収録短編あらすじ孔雀屋敷 Peacock House(1926) 教師をしているジェーン・キャンベルは、夏の休暇にダートムアのふもとに建つポール館へやってきた。ポール館には、幼い頃に亡くなった父の友人・グッドイナフ将軍が住んでおり、招待してくれたのだ。 ある日、ジェーンは散策途中に孔雀が住む独創的な屋敷へたどり着いた。そこで、二人の男と一人の女の諍いの果てに起きた殺人を目撃する