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3月の幌平橋駅出入口を上がると、乗りなれた白いパジェロがすでに到着していた。

別れる別れないという電話でのやり取りから数週間ぶりの電話で、好きな人ができたから、本当にお別れだと告げた翌日。

ウィンドウ越しに見えたSHINくんは少し緊張している面持ちだったように記憶している。

私は、助手席のドアをあけた。

「SHINくん久しぶり、荷物ありがとう」

「車乗って」

「ううん、この後すぐに予定があるから、荷物もらったら行くわ」

「少し話したい事があるんだ」

「あ、でも、ボクこの後すぐに待ち合わせしてるから」

「ニセコタワーで撮影したビデオを職場や家族の元に送られたくなかったら、車に乗れ!」

その言葉を聞いた瞬間、とっさに職場や家族に送り付けられた時の事を想像し頭が真っ白になってしまった。そのビデオとは、リゾナーレトマムのジャグジーで撮った秘密のビデオだったからである。

車に乗り込むと、携帯を奪われた。車は石狩街道を北上し、札幌新道から高速へ・・・その間、今までの恨み節をさんざん聞かされた。

心配するBAKUくんから何度も携帯に連絡がはいるも、出させてもらえないまま車は苫小牧のラブホテルに入った。

70キロも離れた場所に連れてこられ、逃げるに逃げられず、言われるがまま部屋に入り、ただただ怯えていた私に「最後だからヤラせろ」だの「言う事を聞かないと、新しい男の家族もめちゃくちゃにしてやる」だの暴言を吐く彼。


 (ボクが今、ここで止めなきゃBAKUくんに迷惑がかかっちゃう)

 (もう、BAKUくんとは会えないんだなぁ・・・心配しているだろうな・・・)

 (ごめんね、BAKUくん、ボクがちゃんとしていなかったせいで・・・)

私は、BAKUくんの家族にまで迷惑をかけらないという一心でSHINくんが横わたるベッドに入った


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ほんとにっ!ほんっとに、ごめぇぇぇぇぇぇぇん!別れないでくれぇぇぇぇぇ!!」

ベッドに入った瞬間、子供のように彼が私の胸に泣きすがってきたのだった。


・いつもやきもちを焼かれていた自分が捨てられるとは思っていなかったこと

・これまで冷たくあしらっても、自分だけを見てくれていた事に気が付いたこと

・ほかの男に取られるのが惜しいと思うほど好きだと言うこと

そのようなことを泣きながら私に訴える彼


「どうしても戻ってきてくれない?」

「ごめんね、ボク、今の彼の事が好きなの」

「そっか・・・わかった。無理なんだね・・・今日はせめて朝まで一緒に居てくれない?」

「彼が待ってるから、帰らなくちゃ」

「本当にごめんね。家まで送っていくね」


そして私たちは、入ったばかりのラブホテルを後に札幌の自宅に向かった。


あの後、1か月後にSHINくんから電話があり、どうしてもやり直したいと言われたがお断りした。そして、自宅のポストに彼からの長い長い手紙がとどいた。いろいろあったが、彼が今元気で暮らしていてくれたらと願っている。

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