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小豆と会話する和菓子職人の店「餡の輪」@調布・仙川【調布ブレス Vol.4】

調布に息づく人々を紹介する調布ブレス。
今回ご紹介するのは、若いご夫妻が切り盛りする和菓子専門店「餡の輪」です。

京王線仙川駅のメインの商店街から一本入った、比較的落ちついた通り沿いに2018年2月にオープンした和菓子専門店「餡の輪」さん。
実家が栃木県で和菓子店を営んでいたという店主は、高校時代にスウェーデンにホームステイした際、日本の文化について聞かれても、それに答える知識や情報を持ち合わせていない自分にふがいなさを感じ、最も身近な和菓子で日本を伝えようと和菓子の道を選んだと言います。
将来独立することを視野に製菓学校に通い、縁あって和食店が和菓子屋を開業する際の工場長として勤務し、店舗の立ち上げや運営についても学んできました。

奥さまいわく、旦那さまは「小豆と会話している」そうです。
小豆の炊き方にはとてつもないこだわりを持っていて、併せる餅や生地との相性を考え、小豆の大きさや渋成分を取り除く「渋きり」作業の回数、炊く時間を変え、どら焼きには小豆の味をしっかり残したつぶ餡、草餅にはよもぎの味とぶつかり合わないようにすっきりさせたこし餡にするなど、商品ごとに変えているそうです。さらに気温や湿度によっても炊きあがりが微妙に変わってしまうため、常に小豆の状態を確かめ、「会話しながら」手作業で鍋に向かっているそうです。
たしかに商品によって別物の小豆のように感じます。雑味がなく、ちょっと小振りサイズがあとをひくニクイやつです。

季節感もとても大切にしていて、季節毎に限定品があり、目にもおいしい上生菓子の美しさにも気分があがります。通年で販売される店も多いぼたもちやおはぎはお彼岸の一週間、花びら餅はお正月の2週間、柏餅は端午の節句の数日間のみと、古来より伝わる日本の文化を大切にしたいという思いも伝わってきます。

実は奥さまも和菓子を学び、職人として製造に携わっていたそうですが、今は夫の仕事を支え、サービスに専念されています。モダンな和風の店内には実家の和菓子店で使用していた年季の入った型がディスプレーされ、ロゴには繁栄や円満を意味する七宝文様と小豆のモチーフ。伝統と革新が自然と混ざり合っているような、温故知新という言葉が似合うようなお店です。

「餡の輪」がオープンする前年の5月に、メインの商店街にあった老舗和菓子店が69年の歴史に幕を下ろしました。その店主もこだわりを持って和菓子を作りつづけ、「餡を練るのが重労働で」と体力の限界を感じての閉店でした。和菓子に人生をかける店主の世代交代。そんな言葉が浮かんできました。

和菓子ロスの街にやってきた素敵なお店はすぐに話題となり、常連さんも増え、早々に売り切れてしまう日も。今年始めには菓子の専門雑誌に取り上げられました。オープン当初に私が撮影したお二人の写真が掲載されていることはちょっとした自慢です。

休業日には仕込みや新作の試作。夫妻揃ってまっすぐで、連日丹精込めて和菓子に向かう日々にオーバーフローしてしまうのではないかと心配になったりもしますが、お休みの日に、店頭で見る凜とした表情とは違う和やかな雰囲気で並んで歩く夫妻を街で見かけ、せわしない日々でもすっかり街になじみ、脈々と老舗になっていくのだろうなと思ったのでした。

餡の輪 https://www.facebook.com/annowa.wagashi

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