見出し画像

歓待とは何か?


はじめに

突然ですが、あなたは人を迎え入れたことがありますか?別の言い方をすれば、あなたは人を歓待したことがありますか?

今はちょうどクリスマスホリデーの季節であり、他の人の家に行ってみたり、何かパーティーに参加したりして迎えたり、迎えられたり歓待したり、歓待されたりする経験は1年の中でも特にこの時期は多くの人がしているのではないかと思います


歓待とは?

ではそもそも相手を迎え入れるとか相手を歓待するってどういうことなのでしょうか?

「そんなの決まってんじゃん。相手を自分の家とか自分の設定した場所に来てもらって、そこで歓迎することでしょ」と言う答えが返ってきそうです。

私もそう思っていたのですが、本質的なレベルで考えてみると、実は違った見方ができるようなのです。

最近読んだ鷲田清一さんの「聴くことの力」によると、人を歓待すると言う事は、相手を自分の領域に融合したり、併合したりすることではなく、むしろ客人であった相手が主体となり、主体であった自分が客体になって、相手に差し出されるバルナブル(vulnerable)な体験だと言うのです。


歓待は実は怖いこと


一体何を言ってるのか分かりにくいと思いますので、もう少し具体的に話してみたいと思います。

例えばここオーストラリアでは今年に入ってから再びホームステイや海外からの生徒たちの学校訪問が再開されています。その中で、私たちは多くの迎え入れることや歓待を体験したわけですが、その中で表面的な見方をすれば、日本からやってきた生徒たちはお客さんであり、私たち学校側の人間やホストファミリーが主体となって、そうしたお客さんたちと一緒に時間を過ごすと言うことになるんだと思います

しかし、このように海外から生徒を迎え入れる学校や家庭が必ずしも多いわけではなく、そういう選択肢を選ばない学校や家庭も多くあるわけで、その味から言えば、海外から生徒たちを迎え入れるということは、こうしたコミュニティーの中から、自分をある種逸脱させる行為であると言えるわけです

もっと言えば、それまで居心地の良かった文化圏を抜け出して、全く話したこともあったこともない。人々を自分の身近に迎え入れるということは、自分のこれまでのコミュニティーのあり方から出して、自分を傷つきやすい場面に差し出すということであると言うことです。

これまでの文化圏であれば、その文化圏に合った言語ゲームが展開され、特に新しい思考を展開しなくても、日々の習慣の中で物事は進んでいくことが多いでしょう。しかし、新しい文化圏から人を迎え入れるということは、それまでの自分たちの文化圏で展開されていた言語ゲームが当てはまらないということであり、それ故、外からやってきた人たちと一緒にまた新たな言語ゲームを作り上げていかなければならないということでもありますそれ故、そのプロセスの中では、様々な行き違いやモヤモヤや対立も生まれたりすることも珍しくはありません。結構エネルギーを使います。

異なる文化圏からやってきた人たちを、自分たちの文化圏のやり方やルールに従わせると言う一方的な併合モードでは成り立たない新しく創造的な次元がそこで展開しているのです。




自分を差し出す

相手を迎え入れるということは、それまでのなじみの文化圏の中で生きていたマインドセットや言語ゲームをリセットして、相手に自分を差し出す、いわば客体的な行為が望まれるということなのです。そして、一方で海外から迎えられた客体としての相手は、自らが主体となって既存の文化圏から飛び出してきた相手を迎え入れると言う逆転現象が本質的なレベルで展開すると言うことなのです。

こうした逆転現象は、今年日本から生徒たちを2週間ほど受け入れたときに明確に現れました。オーストラリアにやってきた日本の生徒たちに対して、オーストラリアの子供たちは、オーストラリアの遊びやスポーツを押し付けることなく、日本の生徒たちの意向を尊重しながら、自分たちで遊びを選択したり、作り上げていったりしたのでした。

そこでは、オーストラリアの生徒たちは、自分たちの存在を、日本の生徒たちの前に差し出して、変幻自在に、楽しみながら日本の生たちの要望に応えていったようにも感じられました。

大人の目から見たら、全く行ったこともない、文化圏の中からやってきた相手に対して、自分をさらけ出すということは、無防備であり、傷つきやすさを露呈すると言うことであり、怖いことなのですが、子供たちはそういったことを難なくやってしまったのです。


おわりに

客を迎え入れるということ、客を歓待するということは、自分を既存の文化圏やマインドセットから解放、逸脱させて、新しい文化を創っていくことであり、そのためには、自分の無防備な姿を相手にさらけ出す客体的な姿勢が必要だと言うことを子供たちから学んだような気がしました

野中恒宏

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?