日本語スタイルガイドはいらない!?

フリーランス翻訳者から、また企業内のローカライズ担当に戻ることになり、今後いろいろとやらなければならない「スタイルガイド」について書きます。ここで言う、スタイルガイドとは、日本語を書くときの表記規則のことです。

ローカライズにおいては、多くの企業が独自の日本語スタイルガイドを用意しています。企業ごとに大きく異なる点のひとつに、カタカナ複合語(複数の英単語をカタカナ読みする場合)の表記方法があります。たとえば、"Language Portal"という英語を日本語にするときに、以下の3つのいずれかになります。

(1)英単語ごとに「・」(中黒)で区切る → ランゲージ・ポータル
(2)英単語ごとに半角スペースで区切る → ランゲージ ポータル
(3)英単語を区切らない → ランゲージポータル

私が覚えている範囲では、(1)の表記方法の代表格がIBM、(2)がマイクロソフト、あと多分Google、(3)がTwitter(あとアップル:8/9追記)です。どの表記方法でも例外的に、人名は(1)にすることが多いと思います。 → 例:トーマス・エジソン

こういった表記を統一することによって読みやすさが向上するので、各企業はスタイルガイドを用意し、それを外部の翻訳会社やフリーランス翻訳者に使ってもらいます。ただ社内で、ローカライズ部門以外の部署が使っているところを私はあまり見たことがありません。マーケティング部、サポート部、法務部、などでそれぞれ部内で蓄積されている表記方法があり、往往にしてそれらが明示的に共有されていないのです。なんとなく、ローカルルールとして口頭で(?)引き継がれている、というかんじです。

つまりどういうこと?

簡単に言うと、その企業のWebサイトひとつをとっても、複数の表記方法が存在することになります。たとえば、製品紹介のページ(by マーケ)、プライバシーポリシーのページ(by 法務)、ヘルプページ(by サポート)で違う表記になる可能性があります。さらに、パスワードの再設定などのメールをローカライズチームが翻訳していると、また別の表記になっているかもしれません。

どうしてこうなるの?

一言でいうと、スタイルガイドを読むのが面倒だからです。社外に公開する文章を書くときに、いちいちスタイルガイドを参照して、表記方法を確認することなんてありません。そもそも、ローカライズ担当以外に、スタイルガイドのことをそれほど気にしている人なんていません。まぁ、こんなことをテーマにブログに書いていること自体、ローカライズ業界の一員である証明みたいなものですが。。。

どうしたらよいの?

独自のスタイルガイドを使わずに、一般的な表記規則に準じればよいのです。誰もが知っているような、わざわざ説明のいらない表記方法に。新聞や雑誌、書籍で使われている表記はどうでしょうか。あえて、それとは異なる表記をする理由はあるでしょうか(ないと思います)。そうすれば、マーケ、法務、サポート、ローカライズなど、どの部門の人も同じ表記で書けるようになると思います。もう少し突き詰めると、いちばん表記規則にこだわるローカライズ部門が、率先して独自のスタイルガイドを使うのをやめて、表記規則の標準化を進めるべきです。

そうは言っても、何らかの拠り所は必要です。新聞社から出ている、表記規則や記者ハンドブック的なものでもよいです。日本校正者クラブ公式ウェブサイトに便利なリストがあります。ただし、ほとんどが書籍なので有料です。これではスケールしません。

私のオススメは、日本翻訳連盟(JTF)が作成したJTF日本語標準スタイルガイドです。良い点を5つリストします。

無料でPDFをダウンロードできる
・全27ページだが、要約が1ページにまとめられている
・同じ内容の英語版も提供されている
・自由に使用、複製、改変、再配布ができる(クリエイティブ・コモンズ・ライセンスによる)
・正誤チェックが簡単にできる、スタイルチェッカーが提供されている(8/11追記)

カタカナ複合語の表記方法は、このブログの冒頭で紹介した(1)英単語ごとに「・」で区切る、または(2)英単語ごとに半角スペースで区切る、のいずれかを選ぶようになっています。そして、それぞれのメリットやデメリットもあわせて説明されています。今まで使ってきた表記方法を活かしながら、標準化に向けてソフトランディングさせることもできるかと思います。独自のスタイルガイドから自由になり、シンプルで、書くことに集中できて、多くの人が使えるようなスタイルガイドが普及することを願ってやみません。