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アメリカの食文化を知るー『アメリカは食べる アメリカ食文化の謎をめぐる旅』を読んで

東理夫氏の著書に、『アメリカは食べる』という本がある。

ブルーグラス奏者(アメリカで生まれたアコースティックなアンサンブルを奏でるストリングバンド音楽のこと)である著者がアメリカを旅し、そこで食べ、疑問に感じたことを調べ、考えて、書く。そこには膨大な量の資料と思考に裏打ちされた考察とアメリカ食文化への深い理解がある。あとがきまで含めて729ページという大著であるけれど、私はこれをアメリカ出張中に読むという幸運に恵まれた。

ニューヨークではデリに入ってターキーサンドイッチやチキンヌードルスープを食べたり、ロサンゼルスではチャプスイを食べたりしたが、何も知らずに訪れるアメリカとこの本を読んでから訪れるアメリカとでは全く違う視点で食べることについて考えることができた。

この本には、著者のアメリカの食文化への深い理解と敬意がある。例えば、以下のような文。

「デリのカウンターの向こうで、コンビーフの塊が湯気を立てている。今、茹で上がったばかりなのだ。注文が入るたびにスライサーで薄く切って、好みのパンの上に折り重ねてくれる。その様子を見ているだけで、惚れ惚れする。技術に関してではない。そういうことが、旨さを引き出すと考え出した人間の営みに対してだ。潤沢さ、豊潤さ、その豊満で豊麗な感じは、見るものの心に染み込み、もしかしたら感性のある部分を変化させる力があるように思う。何よりも美味の勘どころを押さえたサーヴィスのありように対して、「アメリカ料理は美味しくない」という人は、これまでいったい何を食べてきたのだろうかと思ったりする。「ペーパースィンサンドイッチ」はまさに、この国の豊かさを象徴すると言っていい。」p.357

他にも本にはアメリカの感謝祭についての考察や、コーンビーフがなぜコーンビーフと呼ばれるようになったかなど、アメリカの食べることの歴史についてこれ以上ないほどに繊細に、膨大に書かれている。

アメリカに関わる仕事をしている人、特に食べることに関わる仕事をしている人にとっては当たり前すぎることが書かれているかもしれないけれど、それでも色々な人に読んでいただきたい名著だと思う。

『アメリカは食べる アメリカ食文化の謎をめぐる旅』 東理夫 株式会社作品社

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