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石を磨く

「みなさんこんにちは。今日から校長になります石橋です。とってもワクワクしています。」そう言って先生は、シャツの下に仕込んでいたプッシュ式のライトを押して胸のあたりを光らせた。

これは私が中学の時、新しい校長先生が赴任してきた時の最初のあいさつ。穏やかな笑顔に、つるっと光る頭。それまで校長先生=偉い人、厳しいというイメージがあったので、気の抜けたあいさつに驚いた。

その後も先生は、むずかしい言葉を一切使わず、ストレートな言葉でユーモアに富んだ話を続けた。思春期真っ只中の中学生でも、石橋校長に悪い印象を持った生徒はいなかったと思う。

学校集会は寝る時間と思っていた私は、はじめて大人の話がおもしろいと感じた。寝なかった。それまでの校長先生は、ずっと校長室にいて校内で見かけることなどなかったが、石橋校長は外で麦わら帽子をかぶって草むしりをしていたり、図書室で本を整理していたり、校長室にいるところを見かけることの方が少ないほど、いつも校内のどこかで手を動かしていた。給食の時間も1年から3年までの全クラスを日変わりでまわって、生徒と一緒に給食を食べていた。一番偉い先生なのに、一番生徒に寄り添ってくれた。私は校長先生が大好きだったし、それはみんなも同じだったと思う。

縁があって学習塾で生徒を持つことになり、お手本にしているのが石橋校長。難しい言葉はつかわない。同じ目線で考え、遊ぶ。あとは嘘をつかないこと。生まれた時代も違うし、もちろん衝突することもあるけれど、子供達から学ぶことの方が多いので一緒に過ごす時間が楽しみだ。

老後は、近所の子供達が何かつくったりできるアトリエみたいなとこを作りたい。近所のおもしろばあちゃんみたいなノリで。そこで自分も絵を描いたり、つくったりしながら、自由な感性が育つところをただ見てみたいなぁと単純に思う。

「最近の若者は」なんて言葉は、どの時代にも繰り返されてきた言葉なのだよね。昔のドラマとか映画観てると思う。生まれた時代が基準になってしまうのはその時代の価値観を植え付けられてしまうのだから、仕方ない。

生徒に伝えたいのは、自分の軸を持つこと。子供達と話していると、今の時代は色んな主張がありすぎて、選ぶのも難しいのだろうなと感じる。楽しければOKという人も、とことん理想を突き詰めろって人もいるものね。どっちやねんて、思うよね。"がんばろう"も気軽には言えない時代。色んな"がんばろう"があるのにね。

人や時代じゃなくて、自分の感性を一番に信じてほしい。結局、他人にも、本にも、映画にも、本当の正解はない。自分に合うものを探して、試して、うまくカスタマイズする力。その力を育てる手伝いができればいいなぁ。

最後に、私が子供の頃に描いた絵を。タイトルは私のシンドバッド。左下にいる緑のう○こみたいなの(ターバン)をかぶってるのがシンドバッドで、崖を登ってるとこらしい。

絵のセンスでいったらゼロなんだけど、こんな楽しそうな絵はもう描けないなぁと思う。子供の感性は原石。たくさん磨いてあげよう。



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