「勝つというより、負けない」

プロ棋士・作家 桜井章一

囲碁は少々たしなむ小生ですが、将棋は子供の頃に父親と指した程度でしょうか。
そこそこ将棋を指す友人に聞いたところによると、将棋とチェスの一番の違うところは「取った駒を使えるかどうか」だそうです。つまり、将棋は「使え」一方チェスは「使えない」という違いがあるとのこと。
将棋では持ち駒はいきなり敵陣にうちこんで攻めることもできるので盤上においてある駒より持ち駒の方が強いことが多いそうです。この敵から奪った駒が使えるかどうかというルールの違いで、この二つの比較的類似したゲームは、大きな差が生まれ、将棋は、戦いが序盤から中終盤へ進めば進むほど持ち駒が増えるので、敵陣に打ち込んで攻めることが可能となり、どんどん激しくなるようです。一方、チェスの場合、敵からとった駒は再利用できないので、クイーンのような強力な駒が序盤から姿を消すと、局面は激しさがなくなり静かな展開になるようです。
それが理由かどうかはわかりませんが、将棋は戦国の武将たちに好まれたともいわれています。
「勝よりというより、負けない」というプロ棋士のこの言葉は、激しいプロの勝負の世界を端的に表現していますが、いま話題の棋士、藤井聡太竜王の温和な表情からは、このような激しさは微塵も感じられません。しかし、実はこの少年は激しく、厳しい世界にいるのだと改めて感じられます。


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