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ブランド・リノベーション #4 ブランドの役割

「ブランドの役割」を理解するということ

 ブランド・リノベーションの方法をお知らせする前に、そもそも企業活動においてブランドにはどのような役割があるのか、について押さえておきたいと思います。
 というのも、そこをしっかり理解しておかないと、リノベーションをする段階になって「なぜ、こんなことまでするの?」「こんなこと必要なの?」と、関係者の間で不信感を抱かれることになる可能性が出てくるからです。

ブランド・リノベーションの成功事例

 私が携わったわけではありませんが、とてもわかりやすいリノベーション例がありますので、まずはそれをご紹介します。※
 皆さんご存じのKAGOMEですが、100年以上の歴史のなかで、何度かブランド・リノベーションが実施されてきました。その時々の必要性があって行われてきたリノベーションですが、経営危機を救ったケースがあります。
 「KAGOMEといえばトマト」というイメージがありますが、ある時期、総合食品メーカーを目指して、コーヒーや紅茶・果汁飲料など幅広い商品展開を図ったことがあります。それらの商品は当然競合も多いため、思うように売り上げに結びつかず、在庫の山を抱え、それを解消するために大幅値下げをせざるを得ないという悪循環に陥ったのです。その結果、流通や消費者には「安売りする会社」というイメージが広がったものと思われます。それまで築いてきたブランドが地に落ちてしまったのです。
 そこで、こういった経営難を乗り越えるために行ったのが、商品を絞り込みながらブランドそのものを見直すことでした。ちょうど創業100周年という時期でもあり、「どのような会社にするのか」「強みは何か」について経営陣で徹底的に議論した結果、自社の定義を”トマトと野菜のカンパニー”とし、2003年には『自然を、おいしく、楽しく。KAGOME』というブランドステートメントを発表するに至ったのです。
 その後、「野菜生活100」などのヒットもあり、「安全で健康的な商品を作っている会社」というイメージが定着したのは、皆さんご存じのとおりです。

ブランドの役割

 KAGOMEのブランド・リノベーションの経緯において重要なことは、単に新しいビジュアルやメッセージを発表しただけではなく、社員に対するブランド説明→共有化を手始めとして、得意先(流通)やエンドユーザー(消費者)に色々な方法でブランドの魅力を伝えていったことにあります。
 つまり、様々なコミュニケーション手段を駆使して、全てのステークホルダーに対して、新しくなったブランドを浸透させていき、それが成功したことにあるのです。
 ここに大きなブランドの役割を見出すことができます。普通、企業がブランドを語るときには「顧客のブランドロイヤルティをどう獲得するのか?」という外向きのテーマが中心になるのですが、KAGOMEの場合は、インナーに向けてもしっかりとしたブランディングを行ってきたということです。(「ブランドロイヤルティ」については、拙稿【#2 ブランドとは[其の弐]】参照)
 ブランドをしっかりと育てて行くためには、外面だけ気にすればよいというものではありません。ブランドを支えている製品やサービスを作り出す社員やパートナー企業の協力がなければ、成り立たないのです。そして、こういった内側の人たちに向けたアクションを”インナーブランディング”と呼びます。
 下に簡単な図で示しますが、ブランドにはアウター(外部)とともに、インナー(内部)に向けた、重要な役割があるのです。

インナーブランディングの意味

 社員やパートナー企業による「このブランドは、自分たちで作り、守っているんだ」という誇りやプライドは、当然、普段の仕事に対するモチベーションUPにつながりますし、企業に対するエンゲージメントUPにもつながります。さらに、そういった高い意識によって生み出される製品やサービスは、ブランドイメージの向上につながり、より多くのロイヤルティを獲得できるようになる、という好循環が生まれます。
 インナーブランディングに力を注げば、このところよく話題に上る社員の”クワイエットクイッティング(=静かなる退職)”のようなマイナス要素も防止できるだけでなく、魅力的な企業として「ヒト・モノ・カネ・情報」という企業マネジメント要素全体にも、大きなプラスをもたらすことになるのです。
(クワイエットクイッティングについては、拙稿【1on1ミーティングをアウトソーシング!緊急SP:″静かな退職”を防ぐために】参照)

※KAGOMEのブランド展開については、店舗経営コンサルタント/佐藤昌司氏のまぐまぐブログの記事を参考にさせていただきました。

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