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【勝点23ッ!第1部完!】序盤戦レビュー

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新型コロナウィルスの影響で昇格プレーオフが開催されない2020シーズンのJ2、昇格のためには自動昇格枠の2位以内に入らなければならない。過去のシーズンを振り返ると2位以内に入るためには試合数×2の勝点が目安となり、最終節が終了した時点で勝点84を確保していればほぼ昇格確定といえる。

恐怖の5連戦×6回が始まる前の第9節までを序盤戦と位置付けて考えると、9試合×2=勝点18が目標ラインだった。長崎も「勝点15くらい取れればまずまずかな…」と思っていたが、蓋を開けたら9戦負けなしの勝点23という結果。出来すぎである。

今年は超過密日程であり、また新型コロナウィルスの影響で全日程を消化できるとは限らない事を考えればスタートダッシュは例年以上に重要だった。長崎はこの上なく良い滑り出しを見せたわけだが、勝点差が示すほどリーグの中で群を抜く実力とはまだ言えない。7勝のうち2点差をつけて勝ったのは愛媛戦のみで、6勝は1点差のゲームを何とか勝ちきった、というのが実態だ。

それでもJ1から降格した2019シーズン、「1年でのJ1昇格」を命題としながら12位に低迷したチームとは明らかに違う。何が変わったのか?という部分にフォーカスを当てながら、チーム・選手の両側面からこの序盤戦を振り返ってみたい。

※先にシーズンプレビュー見た方が分かりやすいかも

可変システムによるボール保持

今年の長崎は何が一番変わったのか?といえば、まずボール保持のスタイルを確立できた事が挙げられる。ベーシックな4-4-2をスタートポジションに、ボールを保持した時はダブルボランチの1人が下がって3バック化する事で相手の2トッププレスを回避する可変システム、サリーダを戦術レベルに落とし込んだ。幅を作ってライン間を攻略する3-2-4-1、浮いたウィングバックを起点に2トップでエリア内のパワーを確保する3-1-4-2、この2つのシステムを相手によって使い分ける事でボールを握ったときの攻撃がかなりスムーズになった。

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可変システムの鍵になるのは秋野の存在。プレス耐性が高く視野が広い秋野が最終ラインに立ち、相手の立ち位置を見ながら長短のパスで攻撃の舵を取る。相手にとっては嫌な事この上ない選手である。

もう一人、カイオも存在感を増している。秋野と縦関係になることが多いカイオは懐の深さ、身体の強さ、緩急あるドリブルで中盤を押し込んでいる。シーズン序盤こそ不安定な側面を見せたが、岡山戦あたりからは自身を持ってプレーしているのが伺える。中盤の底でどっしりと構えて攻撃を牽引する姿は、まるで空母を思わせる(澤田とか名倉みたいな小型戦闘機が飛んでいくから余計にそう見える)

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去年のデータと比較すると分かりやすく改善したのがペナルティエリア進入回数で、1試合当たり120%増えている。大竹や玉田で行き詰まることが多かった2019シーズンは30mライン進入回数こそ増えたが、そこからボールを進めることが出来なかった。今年は後方に数的優位を確保してサイドを起点にする or 幅を作ってシャドーが前を向くという攻め手に再現性を持てており、攻撃のスムーズさがペナルティエリア侵入回数の増加に出ているといえる。さらに分かりやすいのはコーナーキック数で、こちらは1試合当たり150%も増えておりリーグ2位の数字を出している。一概には言えないがコーナーキックの数は相手を押し込めている指数として使われることもあり、2019シーズンは20位だった数値が劇的に向上している。

ただし相手を押し込んでいる割にシュート数が増えているわけではなく、攻撃をやりきるという意味ではまだ伸び代を残している。またオフサイド数が1試合当たり80%に減少しており、これは常に裏抜けを狙っていた呉屋の退団が少なからず影響している(と思う)。後方からの組み立てはスムーズになったが、ボールを大事にする意識が高まるのと反比例して裏一発を狙うパスは少なくなっているのかもしれない。裏を意識させて相手を縦方向に間延びさせれば、より名倉や吉岡が活きるスペースが広くなる。ここもまた伸び代になる。

4-4-2ブロックとプレスの改善

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攻撃面より良い結果が出ているのは守備面になる。ここまで9試合で失点はわずかに5点。今のところは去年の半分以下の数字に抑えられている。ここまで失点を抑制できているのは、そもそも打たれるシュートの本数が劇的に少なくなったことが要因として挙げられる。去年も被攻撃回数はリーグでも少ない方だったが、その割に簡単にシュートを打たれて失点を重ねていた。それが今年の被シュート数は去年の75%まで減らすことに成功、リーグでも6位番目にシュートを打たれていない事になる。

ここまで9試合で複数失点を許していないのは長崎、大宮、京都の3チームのみ。長崎の5失点のうち鈴木惇(福岡)の直接フリーキックと徳元(岡山)にコーナーキックを直接ぶち込まれた失点は相手を褒めた方が良いスーパーゴールだった。

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基本的なリトリート(自陣で守備形態を組む)時の守備は去年と変わらず、4-4-2のブロックを組んで中央を固める手法を継続している。去年と変わったのは大きく分けて2つ、ファーストプレスの改善と選手の質向上になる。

4-4-2で凸型を組んで守る場合、まず大事になるのは2トップのファーストプレスで相手の選択肢をどれだけ狭められるか、という事になる。去年のスタメンだった呉屋・玉田はあまり守備に力を使えない選手で相手のビルドアップを規制できず、左右に振られるうちに4-4のブロックが横に広がってしまう傾向にあった。今年は守備にも走れる富樫 or 畑が出場することで、ある程度相手の組み立てを牽制することが出来ている。

長崎の4-4-2ブロックはボールの位置を起点に守備陣形を敷いており、一番危険な中央に人数を掛けるため、サイドのスペースが空いてしまうことをある程度許容している。4-4-2ブロックの泣き所は2トップ脇にあり、ここを規制できずに攻撃の起点にされると永遠にサイドを突かれ続けるという羽目になる。サイドのスペースを「高速道路」とすれば、その入り口に当たる2トップ脇はさしずめ「インターチェンジ」という事になる。去年はこのインターチェンジが通り放題になっていたが、今年はサイドハーフがプレスに行く回数がかなり増えている

また選手の質、という面でいえばJ1級の実力を誇る二見・フレイレを補強した事も失点減に大きく貢献している。簡単には当たり負けせず、カバーリングやシュートブロックも的確にこなす2人の加入は単純にゴール前の守備力を向上させた。また右サイドバックのレギュラーとなった毎熊の貢献も大きく、持ち前の対人の強さを大いに発揮している。

セットプレー

ここまで13得点のうち、セットプレーからの得点は5得点。コーナーキックから3点、フリーキックを合わせた毎熊が1点、そしてイバルボが決めたペナルティキックで1点。逆にセットプレーからの失点は前述した福岡戦のフリーキックと岡山戦のコーナーキックの2点だけ。

セットプレーでの得失点の収支は結果に大きな影響を与える。特にセットプレーでぼろぼろ失点するようなチームは昇格などできないわけで、その点で長身選手をそろえる長崎は上手く立ち回れていると言える。

得点パターン

セットプレー以外で決めた8得点の内訳はポストプレーから4点、クロスから2点、ドリブルから米田の1点、カウンターでルアンの1点となる。ポストプレー4点のうちイバルボが直接アシストしたのが2点、直接ではないけどエリア内で圧を掛けていたのが2点、つまりイバルボがエリア内にいるとそれだけで相手にとっては強烈な圧力になっていると言える(当たり前だけど)

逆にカウンターからの得点は1点にとどまっており、当ブログでも何度が指摘したが今年の長崎はカウンターからなかなかシュートを打てない。割り切って4-4-2ブロックで引く時間帯にカウンターから追加点を挙げられるようになれば、楽に試合を進められるようになるのは言うまでもなく、分かりやすい伸び代になる。脚が速けりゃいいってものでもないかもしれないが、高速ドリブルのあるイバルボ、ルアン、氣田あたりの稼働時間がカウンター問題の解決になるかもしれない。

選手層と采配

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去年から長崎はリーグの中でもお金持ちと言われる部類になった。おそらく今年も大宮、磐田に次ぐくらいの人件費になるはずで、選手層はリーグ屈指の陣容を揃えている。

過密日程対策の「5人交代制」という特別ルールは、選手層の厚いチームが有利になるケースが多く、長崎もその恩恵を大きく受けているチームと言える。ここまで13得点のうち、途中出場の選手が決めた得点は6点。手倉森監督の采配ともいえるが「そもそもイバルボやルアンを途中から出しといて采配的中もくそもあるか」という声も聞こえてくる。そう言いたくなる気持ちは分かるが、そこまで含めてゲームプランが出来ているともいえる。人件費は正義なのだ。

ここまでの3連戦2回を含む9試合では、1つのポジションをおよそ1.5人で回していることが表から読み取れる。ここから5連戦×6回という未知の領域に踏み込んだ時には、ここまで出場機会のなかった選手にも出番が回ってくるはず。特にユース上がりの江川や高卒新人の加藤聖、植中にはこのチャンスをものにしてほしい。

出場時間で見るとイバルボ・ルアンはまだ様子見といった感じで、夏は厳しくても9月以降に怪我なく本格稼働となればチームは盤石に近づくことができる。特にルアンの使い所はまだ模索中ではあるが少しずつフィットしている感じもある。サイドハーフなのかトップ下なのか、より良い活かし方を見つけたい。

チームとして何が変わったか

そもそも2019シーズンに低迷した理由は何だったか?シーズンプレビューでは様々な角度から検証したが、やはり軸となる戦略・戦術を確立できなかった事が大きく影響した。

――昨季を踏まえて、どういう戦い方をするか。
一つのスタイルを確立する前に、柔軟性とかいろいろなものを打ち出しすぎた。求めてはいけないものを求めていた。今年は高い要求に応えられるメンバーがそろった。やりたいのは迷わないサッカー。日本人に合った形の全員攻撃、全員守備、連動性を出す。攻守に仕掛けの姿勢を出さないといけない。
(手倉森監督)

基本的にはボールを握りたいが相手の出方やウィークポイント、戦況に合わせて柔軟性を持って戦えるよう戦術の幅を持つ。戦術的な落とし込みは最小限にとどめてピッチ上での選手の判断を尊重する。時には割り切って守りきる姿勢も許容する。簡単にまとめれば手倉森監督の理想はこんな感じになる。

様々なカラーを持つJ1クラブと太刀打ちして残留・定着を目指すには、一本槍を磨くだけでは難しい。それは反町松本や高木長崎を見れば明らかだった。手倉森監督の理想は正しかったが、去年はその手法がフィットしなかった。そもそもどうやってボールを握って相手のブロックを崩していくのか、という初歩的な段階で躓いた。ボール保持率は上がったけどペナルティエリア進入回数は激減、つまりボールを持ってるだけでその先のアクションに再現性はなく、結局は戦術呉屋に依存せざるを得ない状況になった。

ここまで見てきたように、秋野を中心としたボール保持に軸が持てたこと、ファーストプレスの改善と選手の質向上で4-4-2ブロックがより強固になり、チームとして攻守のバランスを取れるようになった事が去年との大きな違いになる。その上で選手層と5人交代という特別ルール、手倉森監督の采配が上手く噛みあっている。去年までのストライカー依存の即興サッカーとは全く違うロジックでチームは動いている。

実際に長崎がやっているサッカーは基本に忠実でかなりオーソドックスな部類に入る。それでもここまで結果を残せたのは各ポジションに質の高い選手が揃っているお陰ともいえる。現代サッカーの5つの局面(攻撃、攻撃から守備、守備、守備から攻撃、セットプレー)において、どの側面でも隙を見せないのが9戦負けなしの一番の要因かもしれない。マリオカートにおけるマリオのような、何か特別な強みがあるわけじゃないけど加速も最高速度もコーナリングも平均的な能力だけど、結局そういう弱点のないキャラが一番強い的な。

中盤戦の展望

8/8(土)の徳島戦を皮切りに5連戦×6回という地獄が始まる。コンディション調整が難しいのは言うまでもないが、それより難しいのは戦術を落とし込む暇がないという事。とくに中2日では全く時間を作れないはずで、どのチームもこの序盤戦で培ったチーム戦術の練度が重要になる。厳しい局面の時に立ち返れる場所があるかどうか、苦しい局面を守りきった先に希望を見出すことができるか。その意味でもここまでの長崎は多くの選手を起用し、チーム戦術を落とし込むこみながらスタートダッシュを切れた。連戦の前準備としては最高の形となった。

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実は徳島戦から始まる5連戦は比較的順位が下のチームと当たる回数が多く、次の大宮戦から始まる5連戦は上位のチームがずらりと並んでいる。まずはこの5試合×2=勝点10の積み上げを目指して、水戸戦が終わった時点で勝点33を確保できたら昇格戦線は一歩リードを保てるはず。

割り切った守備からのショートカウンターが決まり出せば盤石に一歩近づくと思うので、個人的には後半30分から登場する切り札氣田の覚醒を期待したい。願わくば、かつての長崎で活躍した中村慶太のように貪欲にゴールを狙って、チームに勢いと力を加えてほしい。


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