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【徳島との差】第23節 徳島ヴォルティス戦【雑感】

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松本の布監督に続き、磐田のフベロ監督も解任された。今年はレギュレーション的にJ3への降格がないし、監督を変えたところで過密日程でロクに練習する時間も取れないのだからリスクの方が大きい気がする。それでもJ1から降格してきて「1年でのJ1復帰」という至上命題を掲げた2チームが揃って監督交代、ある程度の戦力も保有してるだけに勝点を思ったように積み上げられないモヤモヤは理解できる。フベロ監督の指笛、もう一度聞きたかったなぁ…

さて、我らが手倉森誠も「1年でのJ1復帰」というミッションに失敗、今シーズンは序盤こそ順位表の一番上に名を連ねたものの9月に大失速、5分3敗で月間の勝点5はまさかのリーグ最下位。いつの間にか順位も4位まで落としたが、8戦勝なしにも関わらず自動昇格件までの勝点差が5で留まっているのは僥倖というか、序盤の貯金に感謝しなければならない。

これだけ勝てないとさすがに監督の進退という話題をチラホラ見かけるようになった。布監督、フベロ監督と続けて解任されたことも手倉森解任論に拍車を掛けている。ただ、個人的には手倉森監督解任には今のところ賛成ではない。

スタメン

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長崎は前節からスタメンを9人交代、ホーム連戦ながら中2日での徳島戦に向けてほぼ完全なターンオーバーを敢行した。福岡戦のスタメンは完全に徳島戦を睨んだもので、どちらかを叩くなら前回コテンパン(死語)にやられた首位の徳島という判断だったことが証明された。福岡戦の勝点3を犠牲にしても、徳島から勝点3を奪う、というのが手倉森監督のプランだった。現状はこの11人が序列の最上位という事になるのだろう。怪我で欠場が続いた玉田も今節から復帰した。

2つとも上位対決だったんですけど、上にいる徳島をまずは止めないといけないということで前節と今節とオーダーをやった中で、今回は是が非でも勝点3。
(手倉森監督)

対する徳島は前節ベンチスタートだった岩尾がスタメン復帰。最悪勝点1を睨みつつ、ボールが収まり推進力もある垣田を終盤に投入して最後まで勝ちの可能性を追求したいというメンバー選考だった気がする。ついに北九州を交わして首位に躍り出た徳島、前述の通り今年のJ2では最も強いチームと言い切っても過言ではない。リカルドロドリゲス監督が持ち込んだスペインの風は完全にチームに溶け込み、チーム編成も監督の望む通りになっているように見える。垣田、渡井、西谷、岩尾、小西…実力者が揃う徳島だが、一番のキーマンは上福元だと思う。確かなセービング、守備範囲の広さ、何より相手のハイプレスを無効化する足元の技術。なぜJ1に引き抜かれなかったのか不思議でならない、戦術兵器とよんで差し支えないリーグ屈指のGKだ。

上福元がもたらす数的優位

試合を見返したが、徳島のボール保持はポジションが流動的すぎてよく分からなかった。勉強不足で申し訳ないが、あくまで素人ブログなのでご了承いただきたい。こんなによく分からないのは愛媛以来で、実は川井監督とロドリゲス監督のサッカーは似てるのかも?「大事なのはポジションではなく役割だ」という記事をどこかで見たような気がするが、まさにそんな感じの理論で動いているように感じた。

さて、徳島の特徴は何か?と言えば「岩尾を中心にしたボール保持」を軸にサイド攻撃、裏を突くロングボール、相手のパスを奪ってからのショートカウンター。相手を見ながら状況に応じて戦い方と立ち位置を変えられる、得点の形をいくつも持っていることだろう。非常にハイレベルなチームだ。

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ボール保持のチームに対して最も有効な手段はビルドアップに対して数的同数のハイプレスを掛けるである。しかしこと徳島に対してはハイプレスが有効とは言えない。なぜなら並みのフィールドプレーヤーより足元の技術がある上福元が最後尾に立っているからだ。

普通(とあえて言うが)サッカーという競技はフィールドプレーヤーの10人対10人がボールを奪い合いながらゴールを目指す競技だ。それゆえフィールド上は常に10対10の数的同数となる。しかしゴールキーパーが組み立てに参加するとどうなるか?ボール保持側が11人でビルドアップできるのに対して、ボール非保持側はゴールキーパーが相手センターバックにマンマークでもしない限り(そんなことはありえないので)常に数的不利に陥る事になる。もちろんゴールキーパーがミスすれば即失点というリスクはあるが、それと引き換えに数的有利を作れるのだから十分すぎるリターンである。

現代サッカーではゴールキーパーが組み立てに参加するのが当たり前になりつつある。そして徳島のゴールキーパー上福元も足元の技術をいかんなく発揮して、フィールド上の数的優位を作り出している。徳島相手に半端なハイプレスを仕掛けるとたちまち状況をひっくり返され、カウンターを喰らったような状態になり失点する(=疑似カウンター)ボール保持志向の相手にハイプレスに行けない、この構造的な武装こそが徳島というチームの大きな強みになっている。先制点を与えてボールを奪いにく必要に迫られ、疑似カウンターを喰らいさらに失点を重ねたのが前回対戦だった。

勝点3を捨てて予習してきた長崎

長崎は福岡戦で大きくメンバーを変えて、結果は1-3の完敗だった。ただ手倉森監督は無為に勝点3を捨てたわけではなく、この武装された徳島に対して明確な対策を用意するためにメンバーを入れ替えて準備期間に充てた。それは開始5分で明らかだった。

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上福元が最後尾に控える徳島相手にハイプレスは効かない。それならば、まずは攻撃の中心である岩尾をゲームから締め出すことを第一にした。2トップの富樫と玉田は常に岩尾をケア、徳島3バックにプレスする時もどちらか一方が岩尾をマークするか、もしくは背中で岩尾へのパスコースを消す守備(=カバーシャドウ)を続けた。

岩尾へのパスコースを塞がれれば、それはそれでもう一人のボランチ小西がゲームを作る役目になる。常にDFラインと駆け引きをしている前線3人を狙ってロングボールを送る、左サイドの大外で浮いている西谷にサイドチェンジ、高い位置取りをしている藤谷に速いパス、縦パスのコースが空けば杉森に縦パス。それでも岩尾にボールを握られるよりマシで、ハイプレスに行くよりリスクの低い、粘り強く現実的な守備を選択した。ハードワークを求められるが、さすがに9人もターンオーバーした効果もあったか集中力は85分まで続いた。85分までは…

自分的には「2トップが岩尾をゲームから締め出した」と思ったが、元プロサッカー選手・下村東美さんは「岩尾が我慢して2トップの背後に立つことで3バックにスペースを与えている」と解説されていた。確かにその通りで、長崎側の視点から見れば2トップは明らかに岩尾をケアしていたけど、徳島側の視点に立てば岩尾が3バック(特に小西)に時間とスペースを与えていた。ボールに触れなくても立ち位置で味方を助ける、岩尾という選手の凄さである。

首位の徳島を相手に彼らが高めたスタイル、ストロングに対して、しっかり対応して、まずは守備から入ろうというところから良い奪い方をして、握り返せる自信もあったので、攻撃の仕掛けという部分で良い形も作れた。お互いの持ち味が出た上位争いにふさわしい、タクティカルなゲームだったなと思っています。
(手倉森監督)

長崎のボール保持

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では長崎のボール保持はどうだったか?これは良かった時の長崎に少し戻っていた。4-4-2ブロックを攻略するための3-1-4-2可変はいつも通り、最近の試合では息を潜めていたロングパスや両センターバック(角田・二見)の持ち上がりが復活、徳島のブロックを揺さぶる事ができた。また警戒されているカイオに代わり玉田、名倉がボールを受けに下りてくることで徳島のプレスを回避する事もあった。

長崎の狙いは明確、左サイドでウィングバック化して浮いている亀川にボールを渡し起点にする。徳島を押し込めたら亀川、澤田+1人(カイオor玉田)で左サイドを崩しにかかる。前半だけで11本、試合を通して19本のシュートを放ったが結果は無得点。前回対戦時はシュート4本だったことを考えれば飛躍的な進歩だが、上福元の好セーブにも阻まれて得点を奪えなかった事だけが悔やまれた。このあたりの粘り強さも徳島が首位に立っている理由だろう。

徳島と長崎の差はどこにあるか?

これで長崎は8戦勝ちなし、この間に積んだ勝点はわずかに5。まさに泥沼である。徳島の立ち振る舞いはどの局面、攻撃でも守備でも、攻守の切替え(トランジション)でも非常に整理されていた。選手たちが何をするべきなのか把握しており、ピッチ上で様々な型を披露した。

実はこれ、手倉森長崎が追及している形に近いのではないかと思っている。監督が言うところの「柔軟性と割り切り」、ピッチ上で起きている事象を判断して行動を変える。速攻と遅行、プレスとリトリート(自陣に引いた守備)、どの局面でも苦手を作らずハイレベルに遂行する。徳島を理想としたとき、長崎との差はどこにあったのかを考えると改善するべきポイントが見えてくる。

① 上福元と徳重の違い
長崎と徳島の最大の違いは何か?と言われればゴールキーパーが組み立てに参加できるか否かである。徳重は本来ゴールキーパーとして求められる能力、つまりセービング、ハイボール処理、守備範囲、コーチングなどはJ2トップクラスだが足元は苦手というタイプ。徳重が足元で繋ぐメリットと、失点のリスクを考えればリスクの方が勝ってしまう。そのため少しでもプレスが掛かると徳重はクリアを選択する。

前述の通り、ボール保持志向のチームに最も有効な手段はハイプレスだ。ご多分に漏れず、最近の長崎はハイプレスをもろに喰らってボールを手放す場面が増えた。しかしもし最後尾にパスを繋げるゴールキーパーがいれば状況は変わる。例えば上福元がそうであり、福岡戦の高木和がそうだ。結果的に福岡戦で3失点した高木和だが、足元の技術はやはり確かなものがあり、福岡のハイプレスを物ともせずボランチに縦パスすら通してみせた

ただ前回の徳島戦で致命的なキャッチミスを犯してからレギュラーを外されている高木和。あれ以来ナーバスになっているのか、安定感という意味では徳重に遅れを取っている。秋野を中心としたボール保持志向を考えれば本当は足元のある高木和を使いたいが、それができない。手倉森長崎が陥っている最も大きなジレンマがココだと思う。町田戦では急に徳重が難しいパスを繋ぎ出したことから見ても、この辺りの課題が透けて見える。

② 速攻の切れ味
もう一つ、徳島との違いを挙げるなら守備から攻撃に移行する時(ポジティブトランジション)の速さだろう。

速攻の切れ味は福岡の方が勝るかもしれないが、徳島も十分に早かった。良い状態でボールを奪ったらカウンター発動、ボールを持ってドリブルできる選手がいるから1,2人くらいの数的不利ならひっくり返せる可能性がある。少ないボールタッチ、ゴールに向かって直線的に来る推進力、おとりになる走り…こちらの帰陣が間に合わないうちにシュートまで打たれた。

一方の長崎はどうか。残念ながらボールを運べるドリブラーが不足している。澤田はどちらかというと一対一を勝てるドリブラーだが、複数人をヒラリヒラリと交わせるドリブラーは氣田とイバルボくらいだろう。長崎は良い状態でボールを奪っても、数的同数か数的有利でない限りカウンターを狙わない。狙うとしてもベクトルがサイドに向いてしまうのである。タッチ数も増えて、一度カイオに渡した頃には相手が全員帰陣している、といった具合だ。

カウンターを喰らって混乱している相手と、がっちりブロックを組んで守っている相手、どちらの方が得点しやすいかと言えば当然前者になる。しかしやたらとカウンターに人を掛けすぎて、カウンター返しで失点というのもよくある話。オープンな展開を嫌う手倉森監督の哲学が染みついたのか、長崎はほとんどカウンターを打てないチームになってしまった。まるで鎌倉時代の武士が「やぁやぁ我こそは〜」と前口上を述べてから斬り合いを始めるように、相手の整ったブロックに真正面から取り組んでいる。相手からすると不意を突かれる心配がないので楽な事この上ないだろう。

相手が戻るよりも前に自分たちが前に行くスピードというのはちょっと遅いなと感じています。自分たちが入る枚数というよりも、手数をかけないで相手が戻る前にゴール前まで行くシーンがほぼないので。そういうところで効率よく、ゴールを決めるためには遅攻だけでなく、速攻というのは数を増やさないといけないなと思っています。
(秋野央樹)

この辺は試合後のインタビューで秋野が言及してるし、プロ選手たちが分かってないはずはないんだけど。リーグ開幕から一向に改善しない部分である。ここまでショートカウンターで得点したのは2節北九州戦のルアンくらいじゃないかな?

③ 逃げ切り策
ロドリゲス監督は勝点1を覚悟したか、終盤にかけて守り方を4-4-2から5-3-2に変更した。これは京都が使用したシステムと同じで後ろは固めるがカウンターのチャンスは残すというやり方である。最前線がウタカか垣田かの違い。そしてまんまと長崎は失点し、5バックで守り切られる。

勝ち切るためには5バックも有効に使う必要がある。新潟戦、松本戦と本当に2点差を追いつかれる必然性があったのだろうか?最後は後ろを5枚にして根性で守り切る、という泥臭い姿勢があってもいいのではないかと個人的には思う。

徳島が4-4-2のままで終盤を戦っていれば同点に追いつけた可能性はもう少し高まっただろう。結局スペースを消されたイバルボは何もできず、サイドを埋められた米田はボールの前進にまたしても貢献できなかった。

おわりに

徳島は強く、柔軟性があった。しかし長崎が無策でやられたのか、と言われれば答えは即答でNOだ。過密日程でろくに練習時間も取れない中、最低限の予習をして徳島戦にのぞみ、出来る限りの内容は示したと思う。ただ残念だったのは勝点1すら取れなかった事。あまりにも報われない。ゴール期待値を見ればきっと長崎優勢と出るのではないだろうか?でもこれがサッカーという競技の難しさであり、残酷さである。

次節はアウェイ栃木。よりによってJ2で最も異端なチームとの対戦を控える。この6ポイントゲーム2連戦で勝点0、福岡戦を捨てた(とあえて表現する)手倉森監督のギャンブルは最悪の目を引いた。だが幸運にもまだ自動昇格を狙える圏内にはいる。栃木戦は結果だけ、勝点3だけが求められる。

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