見出し画像

20-21オフシーズン雑感

2020年12月21日に最終節を終えてまだ1ヵ月ほどしか経っていないが、各クラブは新シーズンに向けてキャンプインしている。ご多分に漏れず、長崎も慌ただしかったであろうオフシーズンを終えて沖縄キャンプを切り上げたところだ。まだシーズンプレビューを書くには早いが(というか書くかどうかも分からないが)、とりあえずほぼ完了したチーム編成と新体制発表会を見た感想を残しておこうと思う。

※例によって阿保みたいに長いので暇なときに読むことをおススメします

①主力選手の慰留に成功

画像1

このオフシーズンはとにかく選手の出入りが少なかった。出場時間で換算すると約85%の戦力を残せたことになり、これは今年J2を戦うチームでは最多の数字になるらしい。この時点で「継続性」という意味で長崎は大きなアドバンテージを持つことが出来た。去年昇格に失敗した時点で秋野・カイオ・名倉・毎熊あたりの慰留は難しいと思っていたが、強化部は時間がない中で素晴らしい働きをしたと言うべきだろう。ただしビルドアップの要となっていた角田、カウンターの推進力を個人で担保していた氣田の退団は痛手となった(角田は契約満了だったけど)

画像2

ちなみに、23人が契約を更新するというのはJリーグに加入してからは最多となる。経営的に弱かった2016年オフまでは活躍した選手を毎年抜かれ、2018年に手倉森監督が就任してからはボール非保持→ボール保持に大きく方針転換したことでスタイルの合わない選手の放出が続いていた。

画像3

2017年の経営危機を契機にジャパネットHDの子会社化した頃、髙田旭人氏は「できるだけ選手の入れ替えを少なくしたい」という旨の発言をしていた。このオフシーズンで選手の平均在籍年数を計算すると2.55年となり、これもJリーグ加入後最も高い数値を記録した。えてしてJ1の強豪クラブは平均在籍年数が高い傾向にあり、例えば同様の数値を取ると川崎や柏は4.00年近い実績になる(当然中村憲剛や大谷秀和が引き上げている面はあるが)長崎が真に強いクラブの仲間入りをするには継続性というキーワードは外すことができない。少なくとも今年は多少なりのアドバンテージを持ってシーズンに望めるわけで、しっかり利を活かす必要がある。

②再起を図る新加入選手

多くの主力を慰留できた一方で、新加入選手の顔ぶれは以下の通りになる。

画像4

新里・山崎・都倉の3人は移籍金が掛かっていない(新里は推測)、そして怪我に泣いて出場機会を失った実力者という点で共通している。3人とも本来であればJ1クラブに所属しているレベルの選手たちで、いかに本来の力を引き出せるかはクラブ(主にメディカルやコンディショニング)にかかっているだろう。

早稲田大学卒の鍬先は評価が高いものの秋野・カイオのダブルボランチはJ2屈指の陣容であり出場のハードルは高い。即戦力として期待されているはずなので去年の氣田・毎熊に続いてブレイクを期待したい。横浜Fマリノスから武者修行に出ている原田、長崎U-18から昇格を果たした五月田はまず試合出場が目標となる。

新戦力となった6人を見ると、あまり補強にはお金を使わなかったという印象だ。おそらくエジガルやカイオを完全移籍で獲得したことで相当の人件費を使っているのだろう、他クラブからゴリゴリの主力を抜くような補強は無かった。昨シーズンは昇格に失敗したものの勝点80を積み上げており、これ以上の戦力増強は不要と判断しているのかもしれない。A契約枠(※)を2つ残していることから、シーズン開幕後や夏の移籍期間で不足部分を補填する余力を残したという見方もできるかもしれない。

画像5

※Jリーグのクラブはプロ選手と契約できる人数を原則25人までに制限されている。ほとんどの選手がプロA契約という種別だが、(ざっくり)新人はプロC契約という種別になり25人枠からは除外される。長崎の場合は原田、江川、加藤聖、鍬先、五月田、植中の6人がC契約となる。

③吉田孝行新監督のフィロソフィー

選手の入れ替えこそ少なかったオフシーズンだったが、監督・コーチなど現場スタッフはほぼ一新となった。

画像6

フィジカル系コーチを除いて全ての役職が新任となった。監督・コーチがここまでドラスティックに変わったのはJリーグ加入後は初ではないだろうか。戦力を継続できる利を活かせるかどうかは監督・コーチのマネジメントに掛かっている部分が大きい。

さて、ここまで吉田孝行監督のメディア露出は限定的だが、少しずつチームが目指すべき方向を示している。ここまで最も内面を引き出したのはALL!Vファーレン内の佐藤アナウンサーのインタビューだろう。

――吉田V・ファーレンの目指すスタイルは?
攻守にアグレッシブに主導権を握る。攻撃ではボールを保持しながら相手のアタッキングサードやペナルティボックスに侵入する回数を増やし、見ている人がワクワクするサッカーをしたい。昨季は守備時に構えることが多かったが、構える時間よりボールを奪いに行く時間を長くしたい
(吉田孝行監督)

新体制発表会でも竹元テクニカルダイレクター(強化部長)が語っていたように、基本的には昇格にあと一歩届かなかった20シーズンからの継続と積み上げがテーマになっている。吉田監督の語るスタイルも手倉森長崎から大きく舵を切る感じではなかった。しかし、個人的には手倉森監督と吉田監督は根本的な部分で微妙に違いを感じている。

手倉森監督のフィロソフィーは就任当初から語っていた柔軟性と割り切りという言葉に表れているだろう。当ブログでは何度も触れてきたが「柔軟性」とはポゼッションもカウンターもプレスもリトリート(撤退守備)も、戦術の幅を広くすることでどんな相手にも対応できる事であり、「割り切り」とはつまり得点できないなら失点しなければ良いという事である。1年目は選手の自主性を重んじすぎた即興サッカーで再現性皆無だったが、2年目は秋野を中心としたボール保持という軸を持つことである程度形になった。いわゆる負けパターンを無くすために何かに特化することなくチームを強化していったが、逆にポゼッションやカウンターに振り切ったチームを苦手にするという結果になった。

一方、吉田監督のフィロソフィーはボールは常に自分たちのものだとインタビューで明言していた。自分たちがボールを保持しながら前進していき、ボールを失った瞬間にプレスを掛けて即時奪回を狙う、という事になるだろう。

両者ともにボールを保持したいという点で共通しているが、吉田監督の方がボールを握ることに強いこだわりを感じる。とくに攻撃から守備に切り替わる瞬間(ネガティブトランジション)の振る舞いは大きく変わるかもしれない。もちろん前からボールを奪いに行くことによってより主導権を握ることができるかもしれないが、リスク管理をしておかないとカウンターを喰らう事になる。またボールを大事にする意識が高まりすぎるあまりカウンターが打てなくなるという悪癖を露呈したのが去年の9月だった。佐藤一樹ヘッドコーチが戦術面を担っていたとされる19シーズンの中田京都も圧倒的にボールを保持するもののカウンターを打てず、逆に被カウンターに脆かったという証言も見かけた(真偽のほどは分からないけど)

画像7

上図は自分が妄想で作成したレーダーチャートだが、イメージ的にはこんな感じになるのではないかと思っている。苦手を無くしてバランスを重視した手倉森長崎に対して、吉田長崎はボール保持特化型に移行していくのではないだろうか。去年のチームでもボール保持+即時奪回を実行した試合が何試合かあり、どの試合でも好成績を収めた(例えば13節千葉戦、20節松本戦の前半、33節岡山戦)明らかに弱かったネガティブトランジションを実装できればチームとしての出来はさらに良くなるが、サッカーはバランス感が求められる競技。「攻撃は良かったから後は守備だけだね」というのは野球的発想だと誰かが言っていたが、サッカーは攻守の切れ目のなさが特徴であり、前からプレスに行く弊害は必ずどこかに出てくる。もはやJ2ではトップクラスの戦力を保持するようになった長崎には吉田監督のスタイルの方がハマる可能性もあるが、攻守のバランスがどのように変化していくかは注視していきたい。

④手倉森監督解任の真意

新体制発表会では冒頭に竹元テクニカルダイレクターから昨シーズンの総括が語られた。場馴れしてない人のプレゼンだったので何とも伝わりにくい内容ではあったが、内容を要約すると以下の通りになる。

―昇格失敗の要因
・9月の未勝利、とりわけホーム福岡戦・徳島戦の連敗が大きかった
・先制した試合が少なく、追いつかれる試合も多かった
・攻撃回数、シュート成功率が低い
・メンバーの固定度が低く成熟度が低かった

―対策
・積み上げの継続ができる監督の任命
・攻守の課題を埋める補強
・メディカル体制の強化

うーん、良く分からんw

9月の未勝利や追いつかれる試合が多かったという点は事実なので反論の余地はない。加えればセットプレーの守備が致命傷に至ったという点だろう。攻撃回数に関してはそこまでボールを繋がずに縦に早い攻撃を何度も仕掛ける福岡が多くなるのは当然のことで、その数字だけを抽出して比較する意味はあまり分からなかった。またメンバーの固定度については完全に結果論であり、怪我がなければ亀川・澤田・角田・名倉あたりもシーズン60%程度は出場していただろうし、昇格した2チームと固定度は変わらなかっただろう。むしろ鹿山や江川で急場をしのぎながらも勝点を積み上げた方が評価されるべきだろう。

結局のことろ、昇格失敗の要因を明らかにするという事は手倉森監督の解任理由を語ることと同義だが、竹元テクニカルダイレクターの話はどうも歯切れが悪い。ここはフリーライターの藤原さんがずばり切り込んだ。

――手倉森前監督の解任理由は?
退任の理由としては…サッカーのところでメンバー選考だったり、試合に望むところの整合性が我々と取れなかったといのは事実ありました。
(竹元テクニカルダイレクター)

より一層歯切れが悪くなった…w

ここからはもう推測でしかないが、要するに高い買い物だったんだからルアンをもっと使えというフロント側の思惑と守備に穴を開けるから切り札的な使い方をしたいという手倉森監督側のズレが一因だったのかもしれない。取ってつけたようにメンバーの固定度を昇格失敗の要因に挙げるあたりにも、少し恣意的なものを感じる。ただこれは竹元テクニカルダイレクターだけの評価というより、もっと上層の親会社(というか実質GM)の意向な気もする。スタジアムシティプロジェクトもいよいよ形になるというタイミング、コロナ禍の影響も大きく2024年は是が非でもJ1で迎えたいという考えは確実にあるはずだ。吉田コーチへの監督就任打診も年末のタイミングだったと明言しており、最後まで21シーズンのディビジョンが決まらなかったことで他から監督を招聘する時間はなかっただろう。

何とも歯切れの悪い監督解任劇が選手編成に影響するのが一番まずいケースだなと思っていたが、心配は杞憂に終わった。どうやら選手から慕われている吉田コーチの監督就任はプラスに作用したようだ。一つ心配なのは吉田監督は絶対に失敗できないというプレッシャーの中でシーズンを戦わなければならないということである。手倉森監督が昇格失敗を理由に解任されたのであれば吉田監督にもその基準が適応される可能性は高い。つまり10節で勝点20、20節で勝点40、30節で勝点60を獲得できていなければ解任となる可能性があるということだ。神戸で指揮を執った経験のある吉田監督にとって「親会社の絶大な支援を受けているクラブで監督を務める難しさ」は身に染みているだろうが、それでもストレスを感じる場面は出てくるかもしれない。

⑤おわりに

画像8

古今東西、J1から降格してきたチームや、J2で昇格プレーオフに進出しながら敗退したチームは必ず「絶対昇格」を掲げて翌シーズンを迎えるが、思いのほか低迷するものである。降格もしくは昇格POで敗退したチームの翌シーズン成績を過去3年振り返ると、翌年昇格に成功したのは18チーム中3チームだけだ。残留争いをしながら降格したチーム、昇格争いをしながら敗退したチームは①主力を引き抜かれる②翌年のディビジョンが決まらないため編成で出遅れるというリスクを抱えることになる。

20シーズンはコロナ禍により異例のシーズンとなり、降格なし&昇格はJ2とJ3から2チームずつのみというレギュレーションになった。そのため12月に入った時点で21シーズンのディビジョンが未定だったのは実質徳島、福岡、長崎、相模原、長野、岐阜、富山、熊本、鳥取くらいで、他の大多数のチームは早めに来季の構想を練ることができた。長崎は12月中旬に21シーズンのJ2所属が決まっており、例年と比べても相当遅いタイミングである。J1昇格に成功していればもう少し補強は簡単だったかもしれないが、J2残留となれば獲得できる選手は限られる。

仙台に帰還した手倉森監督は長崎で監督を続けていたらGKスウォビクを獲得するつもりだった、と語っている。イバルボが機能不全だった前線に都倉、角田が抜けた穴に新里、氣田が抜けた穴に山崎が加入したが、補強というよりは補填という方が正しいかもしれない。スカッドを見直せば足元のあるゴールキーパー、ボールを持てるセンターバック、左サイドバックの控えなど補強ポイントは残ったように思う。しかしコロナ禍で確実に減ったであろう収入、J2ではすでにトップクラスの人件費、出遅れざるを得なかった編成…さまざまな事情を考慮すれば穴を補填できただけでもオフシーズンの働きは十分だったと評価するべきだろう。

決まったからには吉田新監督に託して、サポーターは応援あるのみ。今年も大いに一喜一憂したいと思っている。素人考えの不安などただの素人考えだということを吉田長崎には思い知らせてもらいたい。強気な自分は「順位予想?そんなもん長崎優勝以外ないでしょ?」と言ってるけど、弱気な自分は「いや、いくらメンバーが継続したからって勝点を簡単に稼げるほど優しいリーグじゃないよな…」と言ってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?