【元カレとの邂逅】第17節 SC相模原【雑感】
J2初挑戦となる相模原は16節を終えた時点で最下位、昇格の功労者である三浦文丈監督の解任を決断。チームの立て直しを託されたのはまさかの高木琢也、長崎で6年指揮を取った監督である。就任初戦で長崎と対戦とは運命じみた巡り合わせを感じざるを得ない。
①スタメン
長崎は前節から全く変わらないスタメンとベンチメンバー。松田監督が就任してから3勝1分と好調な滑り出しを見せており、現時点ではこれがベストメンバーという事だろう。
相模原は前節まで3-5-2の布陣を敷いていたが、高木監督はボランチを1人増やして(FWを1人減らして)3-4-2-1の並びに変更してきた。山形戦から白井、星が外れて鎌田、窪田がスタメン入り、ユーリと2トップを形成していた平松は左サイドハーフに入った。
②既視感のある高木相模原
就任からわずか5日で迎えた長崎戦、何かを仕込むにはあまりに時間がなかっただろうが、相模原からは既に高木イズムの一端が見え始めていた。
松田監督が就任した長崎がそうであったように、シーズン途中で監督を変えたときに速攻で結果が出るのは守備スタッツだ。これは、攻撃面より守備面の方が変化が出やすいという側面と、そもそも監督を交代するチームは古今東西守備が崩壊しているという側面がある(サッカーにおける攻守は表裏一体なので実際にはバランスの問題である事がほとんどのように感じるが…)
結果的に0-1で初陣を落としてしまった高木相模原だったが、被シュートと被ゴール期待値(シュートを打たれた位置や状況から算出される失点数の期待値)は劇的に改善した。長いリーグ戦で現実的に勝点を積んでいくには失点しない事が最も重要で、失点しないためには相手にシュートを打たせない事が近道になる。
では高木監督はいかにして相模原の守備をテコ入れしたのか、といえば冒頭にも触れた5-4-1へのシステム変更が奏功していた。基本的に可変をせず4-4-2の形を維持したまま攻めてくる長崎に対して、一人一人の担当を明確にするマンマークで対応した。身体の強い都倉、エジガルには3人のセンターバックが対応、常に1人は余る格好にしてチャレンジ&カバー(相手にガッと当たる人とこぼれ球を回収する人を分ける守備)を徹底した。
5-3-2で守っていた時はどうしても3センターのスライドが間に合わず相手の前進を許した相模原だったが、完全にマーカーを設定する事で守備に迷いがなくなった。結果的に相模原の選手は出足が速く、インテンシティ(守備強度/ガッと行く感じ)が高まったように見えた。長崎はこの守備に苦戦し、結局シュート5本に抑えられた。
逆に相模原の攻め手はどうだったのかといえば①前線からのマンマークプレスでボールを奪えたらショートカウンター②左サイド(長崎の右サイド)から前進③セットプレー④ユーリ・梅井に当てるパワープレーだった。14本のコーナーキックを与えるなど冷や冷やした展開が続いたが、極力ペナルティエリア内ではシュートを打たせない守備で長崎は何とか完封勝利に漕ぎ着けた。
相模原の守り方、攻め方に既視感を感じる長崎サポーターは少なくなかったのではないだろうか。高木監督が相模原で当面目指していくゲームモデルは2017年の長崎、決して恵まれた戦力とはいえない中でJ1昇格を達成したあの時の長崎に近くなりそうだ。つまり①後ろに人数を揃える5-4-1のマンマークで人海守備を展開して無失点の時間を増やす②難しいボール保持は考えずに最前線のターゲットマンにボールを当てて速攻③得点はセットプレーかショートカウンターから狙うというのが基本になる。高木監督はJ2におけるターゲットマンの重要性についてかねてから語っており、その意味で相模原にユーリが在籍している事は幸運だったように思う。もう一つ、欠かせないピースを埋めるとしたら質の高いセットプレーを蹴れる選手、2017年の長崎では島田譲が務めた役割をこなせる役者が欲しいところだろう。
--シュート本数は13対3、CKの本数は14対2と大きく差がつきましたが、結果は0-1でした。今日の手ごたえと課題は?
前々節は確かCKの数が少なかった。そういうこともあって、サッカーというのはオープンプレーの中で得ることと、リスタートの中で得られるものがある。やはり、リスタートのCKの回数が少なかったというのは、われわれのいまのチームとして、得点機を作るにも非常に大切な要素だと思います。そういう意味ではシュート数もそうですし、リスタートの数も多かったので良かったと思います。
(高木監督)
③松田監督が語るディシプリンの欠如とは
就任初戦とは思えないほど高木相模原の出来は良く、特に5-4-1のマンマークで守る守備は相当に固かった。だからこそ16分に舩木のわずかなミスを見逃さず都倉がプレスをかけ、抜け目なくエジガルが押し込んで先制できたのは長崎にとっては僥倖だったし、相模原にとっては致命的だった。
前半のうちになんですが、ちょっとディシプリンに欠けたなと思います。準備してきたものが通用するというか……。そういう形でスタートできたのにリードした、なんとなくうまくいっている、ということでスキができたのか、ちょっと違うことをやり出して意思統一がなくなってきたというか、ディシプリンの問題かもしれません。そういうあたりが改善されなかった。一度失ったリズムというのは、後半の頭はちょっと良くなったんですが、元に戻ったなという形になった。
(松田監督)
押し込まれた状況に対してどのようなアクションが必要だったか?という質問に松田監督は上記のように回答している。「ディシプリン(規律)に欠けた」とは具体的に何を指していたのだろうか?現地で観戦していて個人的に気になった点を2つだけ挙げておきたい。
監督が変わったとはいえ選手が変わるわけではなく、高木相模原が一朝一夕でボールを握るスタイルに変貌すると予想した人はいないだろう。ボールを握りながら前進する技術の乏しい相模原に対して、長崎は立ち上がりからピッチ中央付近に4-4-2の布陣を敷いた。魚を槍で突くような手法ではなく、網に誘い込んだ獲物を絡め取るような守備でゲームに入った。良い距離感でボールを奪えば良い距離感のまま攻撃に移ることができるわけで、少なくとも得点をあげる15分までは狙い通りの展開だったように思う。
都倉の献身から先制点を挙げたのだからもう無理に飛び込む必要はなく、守備網を張ってカウンターから追加点を狙いたい所だったがピッチは徐々に相模原ペースになっていく。幸先よく先制できたからなのか、前線の選手が相模原に対して少し食い付くような守備をする場面が出始める。相手をサイドに誘い込んで1列目と2列目、もしくは2列目と3列目で挟み撃ちにする事でボール奪取を狙う松田長崎にとって陣形の間延びは最も避けたい現象の一つだ。広大なピッチに網を張るにはフィールドプレーヤー10人全員が正しい位置に立つ必要があり、単騎で槍を突きに行くような選手がいるとたちまち網には穴が空いてしまう。
そしてもう一つ今までと違ったのは、ボールを保持した時のウェリントンの振る舞いだ。マンマークで対応されてほとんどスペースを与えてもらえない状況に辟易したのか、長崎がボールを握った時にかなり内側(ボランチのとなり)に立っていた。手倉森、吉田体制ではボールを保持した時に選手が立ち位置を変える可変システムを前提にデザインされていたが、松田監督はあまりポジションを動かしたがらない傾向にあるように思う。それはボールを失った瞬間の陣形を考えたときに、あまりにポジションを動かしすぎるとカウンターを喰らうリスクが高まるからだろう。その傾向と照らし合わせると、ウェリントンハットの立ち位置は相当イレギュラーなものに見えたし、内側に立っていることで相模原に圧力が掛ったのかと言われると…あまり効果的には見えなかった。
むしろウェリントンハットが内側に立つことでボールを失った後に「自分が立つべき場所」に戻るまでの距離が長くなり(つまり時間がかかるので)、前半の飲水タイム後は特に右サイドから前進を許す回数が増えた。高木監督は澤田のいる左サイドよりウェリントンハットのいる右サイドを重点的に攻めるという事をそもそもスカウティングしていたようで、舩木サイドから良い攻撃が出来たときは手を叩いて選手を褒めていた。
松田監督が何を指して「ちょっとディシプリンに欠けた」と語ったのかは定かではないが、個人的に現地で見ていて、DAZNで見返してみて、気になったのは上記2点だった。
④おわりに
試合はどちらかといえば高木琢也の描いた展開で推移して、14本のコーナーキックを与えて13本のシュートを打たれた。これは松田監督が就任してから最も悪い成績になる。それでもペナルティエリア内でシュートを打たれる回数は限定して、富澤のファインセーブにも助けられ、なんとかクリーンシートで試合を締めることができた。
長崎は悪いながらに守りきれた、相模原は凡ミスから失点したものの大枠では守備が改善されたという、互いに得るものがある試合だった。相模原は直近の天皇杯でも北九州に勝利しており、週末のリーグ戦で勝点3を取れれば一気に降格圏から脱出する可能性もありそうだ(贔屓目もあるけど)
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