【あゝ無常】第38節 京都サンガFC【雑観】

もしサッカーが採点競技なら長崎が勝っていた可能性が高いし、どんなに悪く見積もっても引き分けが妥当な結果だった。しかし残念なことにサッカーはスコアを競う競技であり、ゴールを多く決めた方が勝つ。20本シュートを放とうが、失点がミス絡みであろうが、そんな経過は慰みにしかならない。

①スタメン

長崎は前節から1人入れ替え、エジガルに変えて富樫が先発入りした。名倉はメンバーにも入っていない所を見るに怪我ということなのだろうか。亀川・米田に続いて澤田・名倉も離脱となれば、この終盤に同ポジションの負傷者が増えるというのは非常に魔が悪いタイミングである。

京都は前節から4人入れ替え、上月・冨田・曽根田・ウタカが先発入り。ウタカに関しては前節松本戦は今季2度目となるメンバー外で、長崎戦に向けて休養十分で入ってきた。なんと余計な事を…(小声)

開幕前は昇格候補の一角と目されていた京都も、36節終了時点で昇格の可能性を絶たれてしまった。言ってしまえば消化試合ではあるが、ホームでは徳島・福岡を喰っており、地力の高さは疑う余地がない。

②劇薬ピーターウタカと京都のジレンマ

去年は僕だけじゃなくて、多くの選手に充実感があったと思う。勝っても負けても、自分たち主導でサンガの形を出して、その上で勝ちや負けの結果があった。スタイルはハッキリしたものがあった。僕自身には合っていたし、楽しかった。今年はメンバーが変わって、強烈なストライカーがいて、それを支える選手たちがいるチームになった
(金久保順)

試合前に金久保が語ったインタビューでは、赤裸々に京都の現状が語られていた。この3日後には金久保退団という話も流れてきたので、恨み節という部分もあったのかもしれないが、確かに京都は2019年のチームとは全く違う形になっている。

19シーズンの京都は中田一三監督の元でボールを保持して主導権を握るアグレッシブな戦術を志向した。FootballLabが算出している指数でも敵陣ポゼッション、自陣ポゼッションともに高い数値を残した。リーグの中でも特異な数値となったが1年目とは思えないほどの完成度に到達したように思う。プレーオフ進出の可能性を最終節まで残しながら柏相手に歴史的な惨敗を喫したことで最終順位は8位となったが、就任当初は懐疑的な意見の方が多かった中田監督の解任には疑問を呈する声の方が多かった。

中田監督の後任にコーチだった實好監督が就いたことでボール保持路線は継続かと思われたが、実際は金久保が前述のインタビューで語った通りカウンター志向のチームに転換していった。その裏にはウタカという強烈な個の存在があった様に思う。身体が強く懐が深い、ボールを扱う技術は全て高水準で実は守備も頑張れる、ウタカは選手単体で比較すればJ2ではトップオブトップ、Jリーグ全体を見渡してもトップレベルの選手であることに疑問の余地はない。ただそれだけにチーム全体がウタカ依存に陥ってしまうジレンマを抱えることになる。少なくとも16年の広島、19年の甲府、そして今年の京都はその傾向にあったように思う。戦術ウタカという劇薬はボール保持志向だった京都をボール非保持志向に変え、結果的にサンガスタジアムの芝を長くさせた(一般的に芝が長い方がパススピードが落ちるためボール保持志向には不利になる)

一人で何でもできるウタカが攻撃全般を牽引する形は脅威になったが、一個人に依存して勝ち上がれるほどJ2は簡単なリーグではなくなった。ウタカは来年も京都に残るのか?噂になっている曹貴裁のカラーとは少し合わない気もする。

③サイドを制圧したい長崎のボール保持

試合を通して「長崎がボールを握り、京都がカウンターを狙うだろう」という戦前の予想通りの展開になった。ウタカが1トップに鎮座する5−4−1でブロックを組む京都に対して、長崎は秋野が下りてこない2−4−3−1のような形でボールの前進を図る。長崎は一貫してウィングバックの上月・冨田を引っ張り出して3バック脇を突くという狙いを持っており、氣田・玉田・大竹のうち1枚が下りてきてボールを引き出す形でビルドアップを試みた。

前半はボールを動かすもののなかなか京都の陣形を揺さぶることができず、無得点に終わった。長い芝でボールの走りが悪くパススピードが上がらない、ボールタッチにも神経を使うという状況に何人かの選手はストレスを感じているようだった。特に左サイドバック江川と右サイドハーフ大竹は終始フィーリングが合わず、どうにも攻撃を停滞させてしまう場面が目立った。結局、両選手とも途中交代となった。

もう一つ攻撃がうまく機能しなかった理由があるとすれば富樫が前後左右に流れてしまうため、最終的なゴール前の人数が足りないという点も大きかったように見えた。45分でシュート1本に終わった富樫もハーフタイムに交代することになった。起点を作るという意味ではよくボールを収めるために奮闘したが、ゴールから逆算すると京都の脅威にはなりきられなかった。

④致命的だった前半の2失点

今日は自分たちがボールを握る展開になるだろうと。その中で気をつけなければいけないのは攻めているときのリスクマネジメント。そして、相手にボールが渡ったときには個があるチームなので、十分自陣での守備は厳しさを持って対抗しなければいけないという話をしたんですが、警戒したところを前半のうちに2つやられたというところが悔しい結果につながったと思います。
(手倉森監督)

長崎が気をつけるべきだったのは攻めている時のリスクマネジメントだったが、前半に失った2点が結局致命傷になってしまった。

先制点を献上した場面ではバイスが上がってくる形からウタカとのコンビネーションで押し込まれ、最後はフリーで打たれた曽根田のシュートを二見がブロックし損ねてゴールに吸い込まれた。曽根田のシュートはゴール真ん中に飛んでいたので二見が触らなければ徳重が難なくキャッチした可能性が高いが、事故的な要素を含む失点だった。

2失点目は二見の横パスを仙頭にカットされて独走を許したものだった。ボール保持志向のチームにとってビルドアップのミスを突かれて失点するのは背負うべきリスクで、どんなにハイレベルなチームでもボールを攫われて失点する形は出てしまう。今年の長崎は後ろからビルドアップしていくチームの割に、このような形で失点することが少なく、ここまで明から様なミスはアウェイ金沢戦でフレイレが横パスを攫われた時以来ではないだろうか。しかしよりによってこの試合で…とは思わずにいられない。

二見は前半の立ち上がりからフィーリングが悪そうな様子を見せており、らしくないパスミスも出ていた。この日は秋野が下りてこない2センターバックの形でボールを動かしていたためフレイレとの距離もやや遠く、芝に勢いを吸収されたボールを仙頭は見逃してくれなかった。この場面では実はフレイレに出すよりもすぐ近くにフリーで立っていた玉田に出せば何の問題もなかったが、負けられない試合で1失点に絡んだことで少し焦りもあったかもしれない。

⑤追いすがる長崎、逃げる京都

果たして手倉森監督は前半2失点というシミュレーションをしていただろうか、考えうる限り最悪の展開で前半を終えた長崎。もう点を取るしかない長崎は後半頭から富樫・江川を下げてエジガル・磯村を投入する。基本的な狙いは変えずに京都サイドバック(特に上月)を狙い撃ちにしてサイドから崩す形を繰り返す、その為に毎熊を左サイドバックに移して磯村を右サイドバックに置いた。後半開始直後からペナルティエリア内で決定機を作りかけるが、その都度バイスが立ちはだかる。味方にすると頼もしいが、敵に回すと厄介なことこの上ない選手である。

途中出場したルアンがカウンター気味に一発押し込んだが、反撃はここまで。長崎はシュート20本を放ちながら1得点に終わり、京都はシュート4本で2点を奪う効率的な攻撃で勝点3を獲得した。

ゴール期待値は京都0.254に対して長崎は2.326、データは長崎が2点差で勝利する妥当性を示したが結果は逆になった。現実がデータの通りにならない、サッカーの世界では頻繁にある事だが、よりによってこんな大事な試合で…手倉森監督が失意のロッカールームで選手たちに「よくやった」と声を掛けたのは強がりでも何でもなく、実際に選手たちは「よくやった」のである。

⑥おわりに

1位徳島は北九州に勝利して勝点を80に乗せたことで昇格が決定的になった。2位福岡は岡山相手に1−1の引き分けで勝点74、勝点差を4に広げられたが長崎としては首の皮1枚繋がった形になった。

残り4試合で勝点差4。逆転可能な範疇ではあるが依然として厳しい状況なのは変わらない。京都相手に死力を尽くした長崎は、特に氣田や玉田というキープレヤーの消耗が激しい点も気になる。福岡としては前節負傷交代した松本がベンチ外、快進撃を支えたダブルボランチの一角だけに大きな不安要素ではあるだろう。

金沢、東京V、甲府、金沢…残り4試合は前回対戦で勝てなかったチームばかりというのも巡り合わせだろう。4連勝するくらいの実績がなければJ1昇格には値しないという事なのかもしれない。泣いても笑ってもこのメンバーが観れるのは残り360分だけ。サポーターにできることは思い残すことのないよう応援して、プレーを目に焼き付けること。まずは難敵・山形相手にきっちり勝点3を掴み取りたい。

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