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【守破離】第21節 京都サンガF.C.戦【備忘録】

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勝点を80まで積み上げながら昇格に失敗した2020シーズン。昇格を逃した最大の要因はリーグ中盤戦で福岡と徳島に喫したホームでの連敗という声は多い。昇格、残留を直接争う相手と試合をするときは"6ポイントマッチ"と表現されるが、まさに連続した6ポイントマッチを落としてしまった差を最後まで埋められなかった格好になった。

宿命は繰り返すという格言があるのかどうかは知らないが、奇しくも去年と同様のシチュエーションを迎えた長崎。ホーム磐田戦、アウェイ京都戦というのはまさに連続する6ポイントマッチとなり、ここで連敗するようでは昇格する可能性は限りなくゼロに近づくという具合だ。磐田戦は我慢強く戦ったものの一瞬の隙を突かれて敗れてしまい、今節京都戦は(松田監督は結果に囚われないというものの)絶対に負けられない一戦という位置づけになってしまった。

①スタメン

①スタメン

長崎は前節と全く同じスタメン。ベンチメンバーは少し入れ替わりがあり、特にルアンの復帰は小さくないトピックスとなった。松田監督が就任してから、というよりはウェリントンハットが加入してからは目に見えて出場機会を減らしていたルアンだが持っている技術やメンタリティはチームの大きな武器になる。外国籍の選手が4人しかメンバー入りできない中でエジガル、カイオ、ウェリントンハットを外せないとなると残り1枠をルアン、イバルボ、フレイレで争うという状況はモチベーション管理という側面でも難しいところだろう。栃木戦で試合終盤に出てきたイバルボはかなり物足りない印象で、ルアンのコンディションが戻ったこともありメンバー復帰となったようだ。

一方の京都も前節岡山戦と全く同じスタメンとなった。安定した戦いぶりで首位を走る京都はウタカ・バイスという分かりやすい武器があり、ただ去年よりも個に依存していない印象がある。曺貴裁監督が作るチームらしくよく走り、縦に早く、高いインテンシティ(バチバチ感)が特徴といって良いだろう。控えには曽根田、中川、李など流れを変えられる選手が座っている。

②試合の流れ

試合の流れについては元祖戦術レビュアー的な存在であるところのらいかーるとさん(https://twitter.com/qwertyuiiopasd)が懇切丁寧に書いてくださっているので、そちらを探してご一読ください(丸投げ)

相当デフォルトして試合を振り返ればウタカを中心に速攻で得点を狙う京都と、その手には乗らないよという長崎の"いけず"さが競り合った試合となった。長崎はここまで積み上げてきたチームとしての土台の部分、[4-4-2]のゾーンディフェンスを今節でもしっかり表現して京都の攻撃を凌ぐ。京都のプレスは強烈だったけどルキアン要する磐田よりはまだ取り組みやすく、基本的にはしっかりプレスを外したい意図を見せていた。前半に2度ビルドアップを掻っ攫われて決定機を迎えたがGK富澤の好セーブで事なきを得た(パスミスした江川は都倉にこっぴどく怒られていた)

長崎があげた2得点は、いわばどちらも京都のミスが起点となった。先制点は相模原戦と全く同じで都倉が前線の守備で粘ってボールを奪いきった形から、追加点は前線からの連動したプレスでGK若原のミスを誘った形から獲得することができた。90分を通して基本的には相手に喰いつきすぎずピッチ中央付近(ミドルゾーン)で[4-4-2]のブロックを組んだ長崎だが、ここぞという時には前線からの圧力を強めて2点を奪う事に成功した。

2点のリードを確保してからはいよいよ色気を出さず、しっかりとブロックを組んで迎え撃つ長崎。ほぼ無風で盆地らしい湿度の高さだったサンガスタジアム、さすがに前半から飛ばしてきた京都のペースも落ちてプレスが掛からなくなると、むしろ長崎がボールを保持する時間が増えた。

相手のペースに付き合わず、それでも球際では負けないことで試合の主導権を握った長崎はセーフティリードを保ったまま試合を締めくくった。ただ京都の圧力や縦への速さは相当の物で、ここまで勝点を順当に伸ばしてきたのが実力であるという事を証明していた。今の京都と10戦交えれば2~3度は負けるであろうという印象で、長崎としては序盤のGK富澤の好セーブがとにかく大きなプレーとなった。

--今日の試合で特に良かった部分は?
(略)15分くらいまではかなり攻め込まれましたけど、最後のところはやらせない。ゴールを奪われないというところが最後、90分近くになったところでもみんなが発揮していた。その部分が無失点でゲームを進められたこと、それが間接的な勝因かなと思っています。その部分が自分たちの武器というか、強さの中心にあるというか、大事にしないといけない部分なのかなと思っています。
(松田監督)

③残念そこには江川、進化する毎熊、高機能掃除機カイオ

現地観戦していて特に印象に残った選手が3人、それは江川と毎熊、そしてカイオセザールだ。

まずCB江川だがとにかく先読みが鋭い。DAZNでは画面端で見切れている部分だが相手が縦パスやロングボールを蹴ってくる一瞬前に身体をぶつけたり、立ち位置をとったり、とにかく一歩先の世界を想像している感がある。これは松田監督が著書で「ボール周辺の空気を読む」と表現しているプレーをまさに体現している。11人でゾーンディフェンスが体現できた時、相手はプレーの選択肢を限定されることになり、守備者としてはボールの周辺を観察することである程度予測が効くようになるという話である。言うは易しするは難し、江川は松田監督の理想を最も表現している選手の1人と言っても過言ではないし、だからこそ今のポジションをがっちり掴んでいるのだろう。「残念そこには江川!」というシーンが特に目立った京都戦だった。

2人目はSB毎熊。「規則は守ってほしいが自分が正しい信じたプレーはやり切ってくれ」という松田監督の言葉に呼応するように北九州戦ではかなり積極的にプレーしていたが、その後はゾーンディフェンスが浸透していくごとに攻め上がりを自重するようになった毎熊。守備時にポジションを埋めるのがイマイチ苦手なハットが目の前にいるから自重せざるを得ないという側面も当然あるだろう。しかし京都戦ではかなり積極的な攻め上がりが目立った。その裏側には、敗れたもののゾーンディフェンスが機能して磐田を困らせたという実績と、リードされてから相手を崩せなかったという無念があるように思う。緊急登板ではあったものの松田監督の手腕は素晴らしく、チームとしての土台はほぼ完成したように見える。個人的には磐田戦のレビューで「スポンジケーキの上に何を乗せるか?」と書いたが松田監督は「まっさらなキャンバスに何を書くか?」と受け答えしており、FW都倉は「守破離でいうと破の段階に来た」と自信のinstagramで表現した。毎熊の変化はチームの進化に繋がるのかもしれない。

最後にDHカイオセザール。カイオと言えば手倉森・吉田体制では[3-1-4-2]可変システムのアンカー部分に立つことが多く、ピッチ中央で母艦のごとく佇んでボール保持の中心的な役割を担った。一方で守備は根性で何とかする場面が多く、20シーズンは実に7度の警告(イエローカード)を受けた。今シーズンも12試合で2枚というそれなりのペースでイエローカードを受けたカイオだったが、松田監督が就任してからは何と警告0回を維持している。ゾーンディフェンスという戦術において、カイオは攻撃よりむしろ守備でも存在感を増しており、中盤のフィルター役として欠かせない選手になっている。そもそも対人はJリーグ全体でも最強クラスのポテンシャルがあり、普通に当たれば大抵の選手を吹き飛ばしてしまう体幹の強さと驚異的な長さの脚さでボールを奪取する。エリア内にプレスバックして最後の局面をやらせない事も1度や2度ではない。去年~今年の序盤は後手に回って遅れてチャージに行き、ラフプレーを取られる回数が圧倒的に多かったカイオもまた新たなステージに引き上げられているように見える。ここぞという時の突破力についてはもはや書く必要もないだろう。

④おわりに

激動のシーズンを送っている長崎だが、これにてリーグは折り返しとなる。11勝3分7敗で勝点36……自動昇格を目指すには「試合数×2の勝点」と「10敗以下」という目安があるが、それと比較すると勝点は6足りず、後半の21戦で3敗しか許されないという厳しい状況ではある。ただし松田監督が就任してからの成績を抜き出せば7勝1分1敗で勝点22、自動昇格を上回るペースとなっている。

後半戦は前半戦よりも厳しい戦いになるのは間違いない。オリンピックで中断があるとはいえ夏の暑さ、蓄積疲労は無視できない。何より残留を目指すチームは上位相手に「勝点1でも」という戦いにシフトしてくる。長崎は昨シーズンから[3-4-2-1]で固く守ってくるチームを苦手としており、それは相模原戦・磐田戦の苦戦を見ても松田長崎が同じ課題に当たることは明白だろう。チームとしての土台がある程度固まった今、チームを次の段階に進めて自動昇格を勝ち取るには更なる上積みが必要になる。中断期間、夏の移籍を経てパワーアップが求められるがまずは中断前の2試合できっちり勝点6を確保することが最重要だ。

次節は大の苦手である大宮戦。ただし監督はお得意様の霜田監督。どちらのジンクスが上回るのかという意味でも注目の一戦になる。


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