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2021シーズン松田長崎中間報告(後編)

(前編はこちらから)

③松田長崎の攻撃4選

松田監督のサッカーは「まずクリーンシート(無失点)」という部分が土台になる。ゾーンディフェンスの原則を守ることが被シュート数を減らすことに繋がり、失点数を減らすことにも繋がる。このクリーンシートを達成する枠組みを維持しながら、いかに90分間で1点ないし2点を取るか、という部分を突き詰めているのが現状と言えるだろう。

現代サッカーはポジショナルプレーという概念がヨーロッパを中心に流行しており、ピッチ上はさながら陣取り合戦の様相を呈している。Jリーグでいえば川崎や徳島、新潟に代表されるようにシステムを可変させながらズレを作っていき、最も危険なエリアに侵入していくような狙いを持っている。手倉森長崎もこの流れに迎合した部分があり、秋野が1列下がってゲームを作っていたのも大筋でいえばポジショナル風味だったと言える。

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クリーンシートを達成する枠組みを土台にしたい松田長崎はあまりポジション変更を好まない印象があり、基本的には[4-4-2]の立ち位置を大きく崩さずに攻めたいという意向を感じる。サッカーにおいて最も失点の可能性が高まるのはカウンターを喰らう場面で、ボールを失った瞬間にあまりにも立ち位置が変化していると対応が難しくなるというのが根本にある気がする(これは筆者の妄想)現に松田長崎が発足してから喫した6失点の内、3点はカウンターから失ったものだった。

では枠組みを維持した状態でいかに90分間で1~2点を奪うのか?松田監督は守備についてはある程度決まり事を提示しているが、攻撃については選手の裁量に任せている部分が大きいと語っている。それでも戦術の大枠のみを伝えて自主性を尊重していた手倉森長崎と比べると、松田長崎が「狙っている形」は分かりやすい部分がある。

ⅰ)堅守速攻

前述したように松田長崎は「まずクリーンシート」という土台の上に成り立っている。つまり「堅守」が売りであり、「堅守」という枕詞には必ず「速攻」という言葉が続くと決まっている。

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中断前に顕著だったのは、ボールを奪ったら「まず都倉に当てる」という形だった。J2では規格外の体幹と懐の深さを持った都倉は相手に寄せられても簡単にボールを奪われることがなく、速攻のスイッチを入れる役割を担っている。またフィジカル面がフォーカスされることが多い都倉だが「盤面を見渡してどの位置で受けて誰に渡すのが最適か」という部分にも強みがあるようで、ワンタッチで前向きの味方にパスが出ればカウンター発動となる。基本的に2トップでコンビを組んでいるエジガルの方が得点を取る役割(=ストライカー)を担っており、都倉に寄ってマイボールを確実にするのか、それとも一目散にゴール前に走って相手に圧力を与えるのか、この判断も試合を追うごとに良くなっているように見える。

ⅱ)擬似カウンター

同じカウンターでも亜種となる「擬似カウンター」にも松田長崎はトライしている。本来のカウンターとは「攻めてきている相手のボールを奪って攻め返すこと」を意味している。相手のベクトルがこちらに向いている分守備が手薄になっており、得点を決めるチャンスが増えるためカウンター攻撃は極めて有効となる。では擬似カウンターとは何か?

ぎじ
【擬似・疑似】
本物ではないが、見かけがよく似ていて区別がつけにくいこと。また、そういうもの。

つまり本物のカウンターではないが、まるでカウンターのように決まる攻撃が擬似カウンターとなる。本物と違うのは「相手が攻撃している場面」ではなく「自分たちがボールを保持している場面」という点になる。

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マンツーマンでハイプレス(前線から守備)を掛けてくるチームは多い。この圧力に屈してボールを失えば一気にピンチに陥るが、冷静に後ろで繋ぎながらプレスを回避することが出来れば一転チャンスにできる。実際にはカウンターではないが、まるでカウンターのような状況を作り出すことができるため擬似カウンターと呼ばれている。

擬似カウンターを発動する場合、ゴールキーパーがビルドアップに参加することが重要となる。こちらはゴールキーパーを含めて11人でプレーする時、相手のフィールドプレーヤーは10人しかいないため必ず誰か1人がフリーという状態を作れることになる。現在長崎で正ゴールキーパーを務める富澤は足元でボールを受けて顔を上げる技術、パスを正確に出す技術に長けており、戦術的なキーマンの1人となっている。

大宮戦で後半立ち上がりに毎熊が決めたゴールはまさに擬似カウンターの形が綺麗に発動していた。富澤を含めてプレスを回避し、都倉に当てて前向きのカウンター発動、ハットがドリブルで運んでオーバーラップしてきた毎熊が決めきる。この得点は今後の松田長崎に大きな影響を与える1点になった(と思う)

ⅲ)推進力の右、クロスの左

基本的には良い守備からカウンターを狙っている長崎だが、いつでもカウンターを打てるとは限らない。ボールを保持して展開が落ち着いた時にはサイドからの攻撃を志向することが多い。サイドバックとサイドハーフの縦関係+1人で三角形を作ってシンプルに崩しにかかり、ペナルティエリアの外側(ポケット)を目指して前進していく。

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右サイドは毎熊とウェリントンハットが並んでいる事が多く、縦の推進力やスピードで相手を押し込んでいく。ハットは北九州戦でようやく初ゴールを挙げたように、カットインからの得点が増えると長崎の得点パターンが1つ増えることになる。

逆に左サイドは加藤聖と澤田が並ぶことが多く、澤田は右サイド同様に推進力とフリーランで相手を攪乱するが、チーム随一のキック精度を誇る加藤聖はクロスの種類や速さで相手に圧力を掛ける。特に相手を抜き切らずに早いタイミングで上げるアーリークロスの曲がり方は鋭く、ここまでコーナーキックからのオウンゴールを含めれば4得点を演出しており、もはや松田長崎の大きな武器となっている。亀川が復帰してもそのままスタメンの座を譲らない可能性もある。

ⅳ)ディフェンスラインの裏を突く

パターン攻撃としてもう1つ頻出(と言っても1試合に1回あるかないかくらいだけど)なのがバックパスに反応してディフェンスラインを上げてきた相手を見て一瞬で裏のスペースに侵入するプレーになる。山口戦で都倉があげた得点に代表されるように、松田長崎になってからは何度か上手くいっている。

ⅴ)それ以外にも武器はたくさん

ここまで挙げた4パターンで松田長崎の得点の6割は説明できる。他にも「カイオすごい」「力はパワー(都倉エジガルの2トップ)」などが確認されている。逆に手倉森長崎で重宝されていた足元のテクニックに秀でたタイプや狭いスペースで活きるタイプの選手はやや出場機会を減らしている傾向にある。そして最終兵器イバルボ……この辺りの選手で新たな形を作ることが出来れば長崎は昇格に一歩近づくだろう(たぶん)

④おわりに

23節を終えた時点で長崎の勝点は40、自動昇格の目安となる勝点84まで19試合で勝点44が必要となる。これを達成できるパターンは15勝4敗、14勝2分3敗、13勝5分1敗の3つのみとなる。うーん、なかなか厳しい…

それでも松田監督が就任してからの成績が8勝2分1敗であることを考えれば不可能な数字ではない。はず、たぶん。このハイペースで勝点を積んでいくには負け試合を引き分けに、引き分け試合を勝ちに持っていくための底力も求められる。我々サポーターは信じて応援するのみ、試合前は張り切って固めのプリンを食べましょう。

ガンバ大阪サポの方は時間があればこちらもご覧ください。
読むのは ②基本戦術と伸びしろ の部分だけで大丈夫です。
(というかこっちのリンクを貼るべきだった…笑)


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