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【戦略的我慢比べ】第4節 愛媛戦【雑レビュー】

長崎2-0愛媛で決着したこの試合、シュート数は長崎15本に対して愛媛はわずか2本。この結果だけ見た人は「ああ、長崎の圧勝だったんだな」と思うかもしれないが、内容はそうではなかった。互いに戦略的な狙いを持って相手を崩しにかかり、どちらに勝ちが付いてもおかしくない展開になった。

ものすごくタクティカルなゲームになった。愛媛のボールを握るサッカーに対して、われわれも対抗できた。攻め合い、握り合い、崩し合いと。それでどちらが先に決定打を打てるのか我慢比べのようなゲームでした
(手倉森誠)

まさに我慢比べのように進んでいったこの試合は、結局「大雨のピッチで先にアクシデントを起こした愛媛とそれを見逃さなかった長崎」という形で差が付き、長崎に軍配が上がった。

スタメン

長崎は前節から1人変更、CFが畑から富樫になった。一方愛媛はスタメンを4人変更して川村、丹羽、忽那、西岡輝が名前を連ねた。

あえて表記するなら4231同士のミラーゲームという事になるが、この表現は正確ではない。なぜなら、試合中の局面でシステムを可変してくるチーム同士だからだ。

長崎のボール保持 秋野ゾーン

前半は長崎がボールを保持する展開が続いた。

前節の福岡戦同様、ボール保持時はDH秋野が1列降りてCB化、両SBが1列上がり、両SHが中に絞った位置取りをする3421に可変する。一つだけ変わったことがあり、前節ではファンマ遠野のプレスに対して秋野がCB間に降りて3バック化する事でビルドアップを試みていたが、今節は秋野が左CB(つまり二見)の左脇に位置取って3バック化する形がほとんどだった。

442で守る相手を攻めるとき、秋野が陣取ったゾーンは比較的プレッシャーが緩いため様々な選択肢を持つことができる。ボールを少し運べば森谷、忽那のどちらかを引き付ける事ができるし、忽那が喰いつけば左サイドで浮いたフリーの亀川にパスを通せる。西岡輝と忽那のブロックが緩ければ澤田に縦パスを通すと相手を押し込めるし、秋野の技術があれば愛媛DFラインの裏にボールを蹴って富樫や澤田の裏抜けを狙うこともできる。

秋野が左CB化する可変システムにもう一つ利点があるとすれば、ルアンがよりゴールに近い位置でボールを受ける機会が増えるという事。前半17分ごろ、ルアンが最終ラインまで下がってボールを引き取りに来た場面で秋野が「戻ってくるな」と手ぶりで伝えている。ボール保持時はフリーマンとなって比較的自由に動いているルアンだが、福岡戦はビルドアップに参加することが多く、畑が前線で孤立する場面が多かった。しかし愛媛戦の前半ではルアンが前目の位置でボールを触る機会が増え、やはりゴール近くだと何かやりそうな雰囲気は出ていた。

この秋野ゾーン(と個人的に呼ぶことにした)から始まる攻撃は再現性があり、ボールの前進とシュート数の増加に大きく貢献していた。

また、前半の長崎は執拗に愛媛DFラインの裏にボールを出していたのも大きな狙いの一つだったと思う。愛媛DFがラインを上げにくいよう圧力を掛け、WB化した毎熊と亀川が攻撃に幅を持たせることで愛媛ブロックを緩くし、空いたライン間で澤田や名倉が縦パスを受ける、という形も明確に落とし込まれた戦術だったと思う。

あとボールを失った時のプレスも良かったけど、長くなるので割愛。

愛媛のボール保持 フレキシブルなポジション

一方、愛媛もボール保持時はDH西岡輝がCB間に降りて3421に可変。対する長崎はコンパクトな442ブロックを敷いて応戦。この辺はお互いに似たような可変をするので、ある意味ミラーゲーム?と言っても良いのかもしれない。

長崎の可変システムと違うのは、3421からさらにDH化していた森谷が右CBの位置に落ちてきて茂木が追い出される形で1列上がるパターン。この時、茂木は右WB化して西岡志、忽那と連動して右サイドで数的優位を作る。愛媛が前半に2度、右から惜しいクロスを上げたのはいずれもこの形だった。

さらに驚いたのはポジション移動の果てに茂木が二見と競り合った場面(前半何分だったか失念…)元のポジションは4バックの右CBなのに、気付いたら最前線でロングボールを競り合うという不思議な現象に。しかしこれは、なにもシュートが打てないから破れかぶれでCBを上げたとか、CBがボールをカットした流れで最前線まで上がったとか、そういう偶然の産物ではなく愛媛の中で明確なルールがあって論理的に茂木はあそこまでポジションを上げてるっぽいのが面白い(この点は平ちゃんもJ2レビューで触れてて、さすがだなと思った)

この縦関係のポジション移動は愛媛の右サイド限定で、左サイドでは見られなかった。長沼ならSB初心者の毎熊に勝てるという算段があったのか、澤田亀川のサイドがマーカーを外しがちというスカウティングがあったのか…その辺は川合監督のみぞ知る。

愛媛のもう1つの狙いはカウンターから裏一本のパス。これは試合終盤まで何度も狙っていたが、長崎は全てラインコントロールで対応、結果的にオフサイドを4本も取った(前半の長沼が抜けた場面は微妙だったけど)あまり話題にならなかったけど、これもクリーンシート達成の大きな要因だったように思う。

後半の長崎がボール保持できなくなった理由

後半5分、先に動いたのは愛媛の川井監督だった。ボランチの田中、渡邊を2枚同時投入して、システムを3421に変更した。このタイミングで愛媛は戦術を大きく転換、長崎のビルドアップに対して数的同数になるプレスを掛け始める。余裕のなくなった長崎は安易なクリアからボールロストが増えた。

愛媛は前半は右サイドから攻めていたが、システムを変更してからは一転して長沼の左サイドを起点に反撃を開始。森谷、川村など攻撃に特徴のある選手が1列ポジションを上げたこと、交代したダブルボランチがセカンドボール争いで優位に立ったこともあり、愛媛は前半よりもゴールに近い位置でプレーする機会が増えた。

戦術的に均衡した試合展開が続いたが、後半75分ごろから非常に雨脚が強くなったこと、戦術兵器イバルボが投入された事、そして後半82分に愛媛GK岡本のミスキックからイバルボがPKを獲得したことで試合が決定づけられた。

さいごに

「はいはい、結局イバルボね」と言われればそうなんだけど、それだけでは語れない試合だった。むしろ後半75分までの攻防が大事で、それ以降は先に事故した方が負けるような展開だった。

愛媛はシュート数が示す以上に「あの手この手」を繰り広げた。前半のフレキシブルなポジション移動で右サイドからチャンスを演出し、後半のシステム変更からプレス重視で押し込みゴールに迫った。最後は愛媛のクオリティに助けられた部分もあったが、終わってればシュート2本。相手がどれだけ揺さぶりをかけてきても、442のブロックを固く閉ざし、前線のプレッシャーで規制をかけ、ゴール前の局面では二見が立ちふさがった

長崎も愛媛も、攻守両面で戦略的な良い試合だった。アウェイ愛媛戦が今から怖い…(読み返すと長崎のレビューなんだか愛媛のレビューなんだか分からない笑)

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